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エンディングの向こう側と、第2の人生

玉座の間ごと魔王を両断した、神速の一閃。

 あまりにも圧倒的な暴力の前に、絶望の象徴であった魔王は、己の死すら理解できぬまま光の粒子となって消滅していく。


ステンドグラスから、美しい朝の光が差し込んできた。

 世界を覆っていた禍々しい闇が晴れ、小鳥のさえずりすら聞こえてきそうな、穏やかな空気が玉座の間を満たしていく。


「…………」


俺は、黄金に輝く刀を鞘に収め、その光景をじっと見つめていた。

 10万年の重みが肩から降りた、達成感。

 だが、数分が経過しても、世界には何も起きなかった。


消えていく魔王の残滓に向かって、俺はポツリと、渇いた声を漏らす。


「……おい。……いつになったら、画面は暗転するんだ? いつになったら、スタッフロールが流れるんだよ」


俺の声は、誰にも届くことなく、ただ虚しく玉座の間に響き渡った。

 システムメッセージは出ない。「Game Clear」の文字も浮かばない。

 ログアウトのカウントダウンなんて、どこにもない。


――なぜ、俺は魔王を倒せば現実リアルに戻れると思い込んでいた?


答えは簡単だ。

 自分の身に起こるとは思わなかったがよくある設定、死に戻りや、装備の強化値といったゲームの概念。

 だから俺の脳は、勝手に「ゲームの世界から抜け出せないデスゲーム」と解釈したのだ。魔王を倒せば、エンディングを迎えて元のベッドで目を覚ますはずだと。


いや、違う。

 そうでも「思い込まなければ」、俺は10万年という狂気の時間を、正気を保って生き抜くことなんてできなかったからだ。現実への帰還という『ご褒美』を餌にして、自分自身に嘘をつき続けていただけだった。


「……ははっ。嘘だろ……?」


膝から崩れ落ちそうになる。

 思い出せないほど、元の世界にあったかすかな思い出、俺の部屋、家族、友人、積み上げてきた人生。それらが全て、二度と手の届かない幻になったのだと、突きつけられた瞬間だった。

 もう、俺はあっちの世界には帰れない。


急激に押し寄せてくる、目標を失った巨大な喪失感と絶望。

 だが。


『ハルトさん、信じています……っ。貴方が、私たちの光であることを!』

『計算結果は「勝利」以外にありませんわ。……どうか、貴方の願う道を』

『あんた、最後まで失礼な変態ね……。ほら、これ持ってきなさい』


俺の脳裏に、この最後の半年間で彼女たちと交わした言葉が、鮮明に蘇ってきた。

 彼女たちの声は、体温は、涙は、ただのデータの羅列なんかじゃない。間違いなく、そこに生きている「命」の輝きだった。


俺は、ゆっくりと顔を上げる。


「……そっか。ここが、俺の『現実』なんだな」


元の世界には帰れない。

 だが、今の俺は、10万年の死線を越えて完成した『完全体』だ。

 魔王すら一瞬で消し飛ばす最強の力があり、この世界を救った大英雄という地位と名声が、これから嫌でも手に入るだろう。


「……悪くない」


俺は立ち上がり、大きく伸びをした。

 喪失感は確かにある。だが、それ以上に、俺の胸には不思議な解放感と希望が満ち溢れていた。


10万年、ただひたすらに血を吐きながら戦い続けてきたんだ。

 もう、死に戻りの恐怖に怯える必要はない。誰かのために命を削る必要もない。


「決めたぞ。俺は貴族になって、領地をもらって、一生遊んで暮らす……究極のスローライフを送ってやる」


美味しいご飯を食べて、温かいベッドで眠る。

 アリアのスープを毎日飲み、リナの笑顔を守り、セレーナと世界の真理について語り明かす。

 そんな、最高に贅沢で平和な第2の人生セカンドライフが、ここから始まるんだ。


ステンドグラスから降り注ぐ光を全身に浴びながら。

 最強に至ったパンイチの勇者は、これからの楽しすぎる未来を思い描き、悪戯っぽく笑った。

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