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死体の回廊と、10万年の一閃

重厚な扉を押し開け、俺は玉座の間へと足を踏み入れた。


世界を闇で塗り潰す絶望の空間。

 だが、その最奥に鎮座する魔王の顔は、俺の姿を見た瞬間、ひきつったように歪んだ。


「……貴様……その、ふざけた姿はなんだ……」


真っ白なトランクス一枚の完全なる丸腰。

 だが、俺と魔王の間には、これまでのループで俺自身が残してきた「6つの死体」が、まるで儀式の供物のように等間隔で横たわっている。

 それぞれが+99にカンストした最強の武具を保持したままの、俺の抜け殻たちだ。


状況は全て整っている。

 だが、ここは安全地帯ではない。装備を回収してる途中で、もし魔王の攻撃を掠りでもして死んでしまえば、俺がリセットされるのと同時に、この場に固定された死体と装備のリンクが切れ、10万年の努力が完全に水の泡となる。


極限のプレッシャー。だが、俺の心は恐ろしいほどに澄み切っていた。

 俺は魔王を真っ直ぐに見据え、静かに告げる。


「これが最後の初めまして。そしてさようなら」


「狂人が……! 貴様のその戯れ、今度こそ魂ごと塵に帰してやる!」


魔王が咆哮し、玉座の間を埋め尽くすほどの漆黒の雷鳴と、空間を断ち切る無数の棘が全方位から放たれた。

 神の領域の飽和攻撃。


だが、その弾幕が俺の肉体を捉えるよりコンマ数秒早く、俺は神速のステップで最初の死体へと滑り込んでいた。


死体の足元から『絶空の神靴ぜっくうのしんか』を剥ぎ取り、自身の足へ通す。

 カチャリと金具が鳴った瞬間、俺の体から「慣性」という物理法則が消滅した。


「遅いな」


俺は空気を蹴りつけ、三次元の軌道を描きながら迫り来る雷鳴を直角に回避する。

 そのまま二つ目の死体へ宙を駆け抜け、鎮座する『不滅の神鎧ふめつのしんがい』を神速で掴み取り、身に纏った。


ガァァァァァァンッ!!


直後、魔王の放った漆黒の棘が俺の体を直撃する。

 だが、+99の最強防具である神鎧は、世界を滅ぼすほどの一撃をノーダメージで弾き返した。


「な、に……っ!?」


驚愕に目を見開く魔王。

 物理・魔法ダメージを無効化する絶対の装甲を手に入れた俺は、もう止まらない。

 俺は魔王の怒涛の追撃を落ち着いて躱し、時には鎧で受け流しながら、残る死体たちから次々とパーツを回収していく。


精神のブレを完全に固定する『幻惑の兜』を被り。

 即死魔法と状態異常を弾く『奇跡の指輪』を左手の薬指に嵌め。


そして、防御力を全て攻撃力に換算し乗算する呪われた装備、『修羅の籠手しゅらのこて』を両腕に装着する。


「……グ、オオォォォォォォォォッ!!」


バグのようなシナジー。

 神鎧の持つ「最強の防御力数値」が、魔籠手の効果によってすべて「攻撃力」へと変換される。俺の全身から、魔王の絶望オーラすらも掻き消すほどの、黄金色の暴力的な魔力が吹き荒れた。


「ば、馬鹿な……人間風情が、なぜそれほどの力を……っ!?」


魔王の顔が、明確な恐怖に染まる。

 俺は、最後の死体の前に立った。

 右手に握られているのは、10万年前、俺がこの世界で初めて手にし、共に絶望を歩み続けた最初の相棒。


俺は、その死体の手から『無銘の錆刀+99』を静かに抜き放った。

 その瞬間、俺は「最強」に至った。


「終わりだ、魔王」


勝負は、一瞬だった。

 魔王が最後の抵抗として、玉座の間ごと空間を崩壊させる極大魔法を詠唱しようとした、その刹那。


絶空の神靴で空間を蹴り飛ばし、修羅の籠手によって天文学的な数値まで跳ね上がった攻撃力を、+99の魔刀に乗せて振り抜く。

 剣閃すら見えない。音すら置き去りにする。


一閃。


魔王の巨体が、斜めにズレる。

 あまりにも理不尽で、あまりにも速すぎる圧倒的な暴力。

 魔王本人ですら、自分が死んだこと、自分がいま斬り裂かれたことすら認識できなかっただろう。

 数秒の遅延を経て、魔王の肉体が、玉座ごと崩れ落ち、無数の光の粒子となって空間に溶けていった。


世界を覆っていた禍々しい闇が晴れ、ステンドグラスから美しい朝の光が差し込んでくる。

 俺は、黄金に輝く刀をゆっくりと鞘に収めた。


「……これで、この理不尽なゲームはクリアだ……」


深く、長い息を吐き出す。

 10万年の重みが、ふっと肩から降りていくのを感じた。

 あとは、現実世界リアルへの帰還を知らせるシステムメッセージを待つだけだ。


俺は、静かに目を閉じた。

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