十万年の業と、最後のピース
兜を魔王の玉座に固定し、三度目の『完全丸腰』に戻ってからの道のりは、もはや言語化することすらおこがましい、純粋な狂気と暴力の反復だった。
まずは、西の果てで手に入れた『不滅の神鎧』。
この世のあらゆる物理・魔法ダメージを限界までカットする、文字通り最強の防御力を誇る伝説の鎧。俺はこれを素手で殴り続けて+99まで鍛え上げ、魔王の玉座に並べた。
次に手に入れたのは、血塗られた『修羅の籠手』。
自身の防御力をゼロにする代わりに、その防御力数値を全て攻撃力に換算し、乗算するという呪われた小手。
これと『不滅の神鎧』を組み合わせれば、鎧の最強の防御力はすべて攻撃力へと変換され、俺の体は「最強の鉾」と化す。パンイチのまま戦ってきた俺にとっては、何のデメリットもない最高のバグ装備だ。
そして、『絶空の神靴』。
慣性を完全に無視し、空気すらも足場にして空中を駆け抜けることができる神の靴。これさえあれば、魔王の全方位攻撃も三次元の神速ステップで完全に躱し切ることができる。
俺はパンイチに靴だけを履いた奇抜な姿で四天王を蹴り殺し続け、これも+99に仕上げた。
装備を一つカンストさせるたびに、俺は魔王の玉座へ赴き、武具を身につけたまま自分の首を斬り裂き、死体として『固定』し続けた。
その間、当然ながら魔王は何度も俺の前に立ちはだかり、その度に呆れ、困惑し、最後には何かの呪いでも見るかのように俺の死体たちを不気味に睨みつけるようになっていた。
無理もない。玉座の目の前には、刀を持った死体、兜を被った死体、鎧を着た死体、籠手を嵌めた死体、靴を履いた死体……。パーツごとに分かれた俺の死骸が、ズラリと綺麗に並べられているのだから。
――そして。
最後のパーツ。全ての状態異常と即死魔法を無効化する伝説の装備『奇跡の指輪』。
それを手にした俺は、また気の遠くなるような死に戻りを繰り返し、ひたすらに強化値だけを積み上げていった。
俺の主観時間は、すでに『10万年』という途方もない領域を突破していた。
精神が完全に摩耗し、自分が人間であることすら忘れかけた日もあった。
だが、その度に。
『ハルト様。一人で全てを抱え込まないでくださいませ』
『ハルトさん、貴方は神様じゃありません……!』
『食べなさい、春人。……明日、また頑張れるようにね』
永遠に繰り返される『初日』の中で、セレーナの知性が、リナの祈りが、そしてアリアの作る固いパンと温かいスープが、俺の人間としての形を強引に繋ぎ止めてくれた。
彼女たちにとっては常に「今日初めて会ったばかり」の時間。
だが、俺の魂には、彼女たちから受け取った10万年分の『優しさ』が、絶対的な熱量として刻み込まれていた。
「……待ってろよ、みんな」
廃都グラナドの最奥。
俺が不倒の騎士を投げ落とすと同時に、最後の標的は光の粒子となって消滅した。
そして、俺の右手の薬指にはめられた『奇跡の指輪』が、かつての刀と同じように、世界を照らすような黄金色の眩い閃光を放つ。
【『奇跡の指輪』が強化されました(+99)MAX】
視界に浮かんだ、最後のカンストの文字。
「……終わった」
黄金のオーラを纏う指輪を見つめ、俺は深く、長く、10万年分の重みが詰まった息を吐き出した。
必要なものは、全て揃った。
魔王の玉座には、+99の刀、兜、鎧、籠手、靴を持った俺の死体が待っている。
そして今、俺の指には最後のピースである+99の奇跡の指輪。
10万年の業の結晶。
ただのパンイチの最弱状態だった男が、『完全体』となるための全ての準備が整った瞬間だった。
「さあ……取りに行こうか。俺の、10万年を」
指輪の黄金の輝きと共に。
俺は、魔王が待つ最後の決戦の地へ向けて、静かに歩みを進めた。




