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不倒の投擲と、兜の完成

氷の龍将グラキエスに、赤熱化した兜を叩きつける『メテオ・ナックル』。

 それを幾度となく繰り返し、俺の『幻惑の兜』はついに+90という狂気の領域へと至った。

 バイザー越しに見る世界は、もはや物理法則の枠を完全に離れ、魔力や生命の波動すらも色鮮やかに視認できている。


次なる標的は、南塔の最上階。

 全ての物理攻撃を無効化する絶対の自信を持って、俺の前に立ちはだかる『不倒の騎士』だ。


刀の時は、奴を落とすために塔の柱ごと斬り刻んで崩落させるという大掛かりな解体作業が必要だった。

 だが、魔法賢者の絶対回避や、氷の龍将との摩擦熱特訓を経て、数十万回の死を乗り越えた今の俺の肉体は、すでに人間の限界をとうの昔に超え去っている。


「……ふっ」


俺は兜を片手に持ったパンイチ姿のまま、神速で騎士の懐に潜り込んだ。

 騎士は動じない。いかなる打撃も斬撃も、彼にはノーダメージだからだ。

 だが、俺は殴らなかった。

 そのまま騎士の分厚い鎧の胸ぐらを、両手でガッチリと掴み上げたのだ。


『……む?』


不倒の騎士から、初めて困惑の気配が漏れた。

 物理攻撃による「ダメージ」は無効化できても、「物体として掴まれる」という物理法則そのものまでは無効化できないのだ。


「ダメージが通らないなら、そのまま落ちろ」


俺は、何万年分もの鍛錬が詰まった鋼の筋肉を爆発させ、数トンはあるであろう重武装の騎士を、まるで羽虫でも払うかのように軽々と持ち上げた。

 そして、そのまま南塔の窓の外、数百メートル下の地面に向かって、豪快にぶん投げた。


『おおおおおおおおっ!?』


情けない悲鳴と共に、空の彼方へ飛んでいく不倒の騎士。

 数秒後、遥か下の方で「ズドォォォォン!!」という重力と質量が激突する凄まじい轟音が響き渡り、俺の視界にシステムメッセージが浮かんだ。


【『幻惑の兜』が強化されました(+91)】


「……よし。一番楽な作業だな」


俺はパンイチで窓から下を見下ろし、満足げに頷いた。

 ここからは、もはやただのルーティーンだ。

 初日に戻り、アリアの固いパンを食べ、リナとセレーナを救出する。そして南塔へ向かい、微動だにしない騎士を掴んでは窓からポイッと投げ捨てる。

 騎士からすれば、毎回現れるパンイチの変態に、一切の抵抗も許されずただ窓から投げ捨てられるだけの理不尽極まりないアトラクションを、あと8回繰り返すだけ。


そして、9度目の投擲を終えたある日の夜。

 南塔の窓辺で、俺の手にある『幻惑の兜』が、かつての刀と同じように黄金色の眩い閃光を放った。


【『幻惑の兜』が強化されました(+99)】


「……終わった。兜編、コンプリートだ」


黄金のオーラを纏う兜を見つめ、俺は深く息を吐き出した。

 これで、魔王の玉座へ持っていく「最強の防具」の一つが完成したことになる。


◆ ◆ ◆


俺はそのまま南塔を後にし、闇に包まれた魔王城の最深部、玉座の間へと足を運んだ。

 圧倒的な絶望のオーラを放つ魔王が、再び俺を見下ろす。


以前は+99の美しい刀を持っていたが、今の俺は真っ白なパンイチに黄金の兜だけを被っているという、擁護のしようがない変質者だ。魔王の困惑は、前回よりもさらに深くなっていた。


「貴様……そのふざけた姿はなんだ……」


「待たせたな。今日は、こいつを置きに来た」


魔王の放つ無数の漆黒の棘が、俺の肉体を容赦なく貫く。

 俺は、崩れ落ちる自分の死体が、+99の兜をしっかりと頭に被っているのを確認しながら、静かに意識を手放した。


【あなたは死亡しました】

【ランダム抽選を開始します……】

【『幻惑の兜+99』をドロップしました】

【再試行まで、あと3秒――】


再び、始まりの広場。冷たい噴水の水音。


目覚めた俺は、三度目の『完全なる丸腰のパンイチ』に戻っていた。

 魔王の玉座には今頃、+99の刀を握る死体と、+99の兜を被った俺の死体が、無惨にも、しかし確実にその「最強の力」を保持したまま並んで転がっているはずだ。


「……さて。次は、よろいだな」


死体の回廊計画は、まだ道半ば。

 俺は再び両頬を叩き、果てしない絶望のループへと足を踏み出した。

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