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不倒の崩壊と、完成された刃

氷の龍将を狩り尽くし、俺の『無銘の錆刀』はついに+90という狂気の領域へと至った。

 刀身はもはや鉄の質感を完全に喪失し、深淵のような黒に、絶えず瞬く星々を閉じ込めたような神々しい輝きを放っている。

 振るうだけで空間が悲鳴を上げるこの神刀を持ってすれば、残る最後の四天王も一刀両断できるはずだった。


――だが、南塔を守る『不倒の騎士』には、この+90の刃すらも届かなかった。


「……弾かれた。いや、そもそも当たった判定になっていないのか」


初見から数百回のループ。俺は、あらゆるアプローチを試した。

 神速の連撃、装甲の隙間を狙った極小の刺突、果ては刀の峰打ちによる衝撃波の浸透まで。

 だが、どれほど神業の領域に踏み込んでも、騎士の体には傷一つ、揺らぎ一つ生じなかった。避けているわけでも、硬いわけでもない。「直接的な物理攻撃が当たったという判定そのものが消滅する」、完全なるシステムの壁。


刀一本の物理特化で100万年を戦おうとする俺にとって、これ以上ない「詰み」の相手だった。

 数百回目の死の直前、俺は『初日』に戻り、セレーナの集めた資料を読み返した。


『――不倒の騎士。いかなる名剣、いかなる剛腕をもってしても、その肉体に傷一つ付けることは叶わない。この世の全ての「物理攻撃」を無効化する加護を授かっているからだ』


俺は、その一文を指でなぞり、不敵に笑った。


「……なぁんだ。簡単なことじゃないか。物理攻撃が無効なら、攻撃しなきゃいい」


◆ ◆ ◆


次なるループ。南塔の最上階。

 微動だにしない不倒の騎士の前に立った俺は、彼には目もくれず、ただ静かに+90の刀を構え、深く息を吸い込んだ。


極限の『クロノスタシス』。

 俺の標的は騎士ではない。俺たちが立っているこの『南塔』そのものだ。


「――消え飛べ」


神速の連撃が、周囲の巨大な石柱、床、そして外壁を、文字通り塵芥ちりあくたのごとく斬り刻んでいく。

 数秒後。時間が動き出した瞬間、南塔の最上階は、空中で完全にその支持を失った。


ズドォォォォォォォォォォォンッ!!


轟音と共に、塔そのものが崩壊し、重力に従って真っ逆さまに落下していく。

 騎士の加護は「自身への直接的な物理攻撃」を無効化するもの。だが、「星の重力による落下」や「数万トンの瓦礫による圧殺」という『自然現象(環境ダメージ)』まで無効化することはできない。


数百メートルの落下と、土煙。

 空中に飛び出して無傷で着地した俺の足元で、数万トンの瓦礫の下敷きになった不倒の騎士は、呆気なく光の粒子となって消滅した。


【『無銘の錆刀』が強化されました(+91)】


「……よし。手順は確定したな」


俺は瓦礫の山を見下ろし、小さく頷いた。

 しかし、システム的に『+99(MAX)』にするためには、あと8回、この不倒の騎士を倒さなければならない。


つまり――あと8回、俺は時間を『初日』にリセットし、アリアの固いパンを食べ、リナとセレーナを救出し、そしてまた南塔を土台ごとブッ壊すという超スケールの建築物破壊を繰り返す必要があるのだ。


◆ ◆ ◆


それからの周回は、これまでのどんなボス戦よりもダイナミックで、そしてシュールだった。


初日に戻るたび、何食わぬ顔でそびえ立っている南塔。

 俺は最上階へ駆け上がり、微動だにしない不倒の騎士の前で刀を抜き、ひたすらに床と柱をダルマ落としのように斬り刻む。

 落下。轟音。圧死。

 そして強化値を持ち越すための、ひっそりとした自殺。


「ハルトさん、今日は南の方ですごい地響きがしましたけど……」

「あぁ、ただの自然崩落だ。気にするな」


何も知らないリナたちに微笑みかけながら、俺は淡々と塔を壊し続けた。

 騎士からしてみれば、毎回パンツ一丁の変態が現れたかと思えば、自分には一切目もくれずに家(塔)を粉々にされて落とされるのだから、たまったものではないだろう。


だが、この世界のシステムは絶対だ。

 情け容赦のない環境破壊を9回繰り返し。

 9度目の瓦礫の山から、ついに、これまでのどんな光よりも強烈な、世界の理すら断ち切るような眩い閃光が放たれた。


【『無銘の錆刀』が強化されました(+99)MAX】


視界に浮かんだ、黄金色に輝くカンストの文字。

 俺は、星の瞬きそのもののような光を放つ刀を掲げた。


「……終わった」


主観時間で約300年。

ただの一度も他のアイテムに浮気することなく、スライムの核を突き、トカゲの鱗を削り、古龍の首を落とし、数十万回の死を越えて育て上げた、究極の一振り。


俺は、南塔の瓦礫の上から、禍々しい暗雲の向こうにそびえる『魔王の玉座』を見据えた。

 この次元を超えた+99の刃なら。魔王すらも、たった一撃で屠れるかもしれない。

 そんな甘い期待と、武者震いが止まらなかった。


いよいよだ。

 俺はパンツ一丁で、+99の魔刀を肩に担ぎ、ついに魔王の待つ最深部へと歩みを進めた。

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