第23話 戸惑い
石畳を踏みしめる音だけが響く。
私は中庭から駆け出し、必死に校舎の影へ逃げ込んだ。胸が苦しく、心臓は今にも破裂しそうだ。
(……導きの手紙、って言ってた。どうして彼があの手紙のことを……?)
思考がぐるぐる回るまま、足を速めて教室へと戻る。
扉を開けると、すぐにレオンが授業が始まる前の私の教室に来ていた。
「姉さん!」
焦ったような声に、思わず胸が締め付けられる。
すぐそばにはアドリアンの姿もあった。彼もこちらを見つめ、険しい表情をしている。
「……レオンに呼ばれて来てみれば、顔色が真っ青だな。何があった?大丈夫か?」
私は二人の視線を受け、迷った。けれど、隠してはいけないと思った。
唇を噛み、勇気を振り絞る。
「……王太子に呼び出されたの」
「レオンがそんなことを言っていたけど、まさか、本当に!?」
アドリアンの顔が一瞬で驚きに染まる。
「王太子に何かされたのか──?」
私は首を横に振り、言葉を継いだ。
「……王太子は“あの謎の手紙”のことを知っていたわ。あれを“導きの手紙“と呼んでいたの。そして……“また私にあの服従の指輪をつけろ”って」
アドリアンの目が細められる。
「導きの手紙、だと……。王太子がそう呼んでいたのか?」
私は小さく頷く。
「私自身はよく分からないの。でも……指輪をつけて従わせることと、手紙には何か関係があるのかもしれない」
重苦しい沈黙が落ちた。
やがてアドリアンが深く息を吐き、冷静な声で口を開いた。
「状況を整理させてくれ。一旦ここでは、本当に指輪で君が乗っ取られていたと仮定するよ。まず、“導きの手紙”が君のもとに届いたのは、いつからだ?」
私は少し考え、答えた。
「……意識を取り戻してから。あなたたちと一緒にマルセリーヌの件について考えていた時。それが初めてよ。」
「ふむ。ならば、その力が現れたのは本当に最近ということだな」
アドリアンは顎に手を当て、さらに問いを重ねる。
「……では、どうして王家は“君の能力”を知ったんだ?」
その問いに、言葉が詰まった。
「……わからない」
拳を握りしめる私を見て、アドリアンは目を伏せ、低く呟いた。
「エレーナが本当のことを言ってるとしたら、謎が多すぎるな……君の手紙といい、マルセリーヌのことといい。だが答えは必ずあるはずだ」
そして視線を上げ、真剣な眼差しをこちらに向けてくる。
「放課後、図書館で調べてみないか? 古い記録や禁書庫には、“導きの手紙”に関する情報が残されているかもしれない」
「図書館……」
私は思わず息を呑んだ。
横で聞いていたレオンが、迷いなく頷く。
「いいね! 姉さんを助けるためなら、僕は何だって調べるよ!アドリアンに姉さんのこと信じてもらいたいし。」
その真っ直ぐな言葉に、胸がじんわり温かくなる。
私は小さく微笑み、頷いた。
「……ありがとう。」
「……あとアドリアン、今日もマルセリーヌを見かけないけど休んでいるの?大丈夫?」
アドリアンの表情がかすかに曇る。
「ああ。マルセリーヌは僕ともほとんど口を聞いてくれない。……何かを抱えているのは分かるのに、近づけないんだ」
胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
(マルセリーヌ……兄であるアドリアンに対しても、何も言えないほど苦しんでいるのね……)
アドリアンは低く呟いた。
「……だからこそ、一刻も早く真犯人を見つけたい」
私は強く頷いた。
(絶対に──マルセリーヌを助けてみせるわ)




