第14話 作戦会議
夕陽が差し込む放課後の教室。
人の気配はなく、三人分の影だけが机の上に伸びていた。
「……どうやって証拠を掴めばいいのかしら」
エレーナはため息をつき、頬杖をついた。
胸の奥は重く沈んだまま。
「マルセリーヌを庇うなら、決定的な証拠が必要だ」
アドリアンは低く言う。冷静な瞳が夕陽を反射して、どこか鋭さを帯びていた。
「だったら監督室を調べればいいじゃないか!」
レオンが勢いよく机に乗り出す。
「か、監督室に……忍び込むの?」
エレーナの声が裏返った。
「無理よ、絶対にバレるに決まってるわ!」
「大丈夫!」
レオンは自信満々に胸を叩く。
「僕が囮になる!」
「……一番怪しい案が出たな」
アドリアンは即座に冷静なツッコミ。
「ちょっと!僕を信じてよ!」
「信じた結果が“壁を吹き飛ばしかけた事件”だ」
「うっ……あれは風向きが悪かったんだ!」
「君の頭の風向きが悪いんだ」
「なにぃ!?今すぐ決闘する!?」
エレーナは二人の言い合いに呆れて、額を押さえた。
(……どうしてこの二人といると、推理どころか胃が痛くなるのかしら)
その瞬間。
――ふわり。
窓も閉まっているのに、一枚の紙がどこからともなく舞い込み、エレーナの膝の上に落ちた。
「え……?」
彼女は慌てて拾い上げ、震える指で文字をなぞる。
――風を使え。沈黙を破るのは風の道。
「……なに、これ」
思わずつぶやいた。
「おっ、姉さんにラブレター!?」
レオンが身を乗り出して覗き込み、にやりと笑う。
「ち、違うわ!」エレーナは顔を赤くして紙を隠す。
アドリアンが手を伸ばし、紙を受け取ると真剣に目を細めた。
「差出人も印もない……完全に無記名だな」
「え、こわっ。何このミステリー展開」
レオンが椅子の上でそわそわし始める。
「ねえ、これって呪いの手紙だったりしない?“読んだ者は七日以内に監督室でバレる”とか!」
「バカなこと言わないの」
エレーナはぴしゃりと否定するが、内心はぞわりと背筋が冷えた。
アドリアンは紙を机に置き、指で文字をなぞりながら言う。
「……“風を使え”。これは暗号か、それとも助言か」
「助言にしてはタイミングが良すぎるな」
エレーナはごくりと唾を飲み込む。
「でも、確かに使えるよ!」
レオンがぱっと笑顔を弾けさせた。
「風魔法で窓を開ければ、忍び込めるじゃないか!やっぱり僕の“囮作戦”と合わせれば完璧だよ!」
「……完璧に見えるのは君だけだ」
アドリアンが即座に切り捨てる。
「えー!?僕の作戦を信じてよ!」
「……信じるかどうかは結果次第だ」
「うぅ、信用がマイナスから始まってる……!」
エレーナはふっと笑みをこぼす。
(……謎の手紙は不気味だけど。二人となら、なんとかなるかもしれない)
こうして、奇妙で心強い「潜入作戦」は動き出したのだった。




