7.金属と彫金と合金と 5
「こりゃ、わしらにゃ見つけられんレシピじゃな」
完全に銀鈍色になったのをみてから、四月朔日さんがそれを型のようなものから取り出しながらため息を吐いた。
「うむ、カナカ坊。お前さんが探してたもんじゃな」
ほれ。と四月朔日さんはその銀鈍色のものを僕の方に差し出してきた。それを受け取ると、その重さに一瞬取り落としそうになった。
銀鈍色のそれは、僕の手のひら二つ分くらいの長さで、ぎゅっと握っても熱さは感じなかった。握っても形が変わりはしないので、柔らかすぎるみたい。
これは、本当に入門書に書かれてた金属なのかな。パッと見た感じは、入門書に描かれていたものに似てるけど、僕は見ただけじゃ金属について見分けは全くできないから、素直に鑑定してみる。
イーリク
性質:水属性 品質:C 平均売価:150B
幅広い業界で使用されている合金。
特殊な工程を経て鋳造される合金だが、合金の比率を見極める訓練によく使われる。
硬度や強度はそこまで高くないが、非常に加工しやすいため、アクセサリー職人の入門素材として求められる。
あ、ほんとにイーリクだった。なるほど、加工しやすいのが入門書に載ってた理由なんだ。
「カナカ坊、お前さんは悉くわしらの知っとる知識をぶち壊してくるのぅ」
「え?」
イーリクをこの状態からどうやって加工するんだろうと思いながらじっと見ていたら、四月朔日さんがそんなことを言い出した。意味がよく分からなくて、僕は首をかしげながら四月朔日さんに視線を向けた。
「お前さんが持ってきた、そのイーリクって名前の金属の情報はの、わしらプレイヤーが誰一人入手しとらん情報じゃよ」
「……? でも、入門書に書いてあったよ?」
「おそらく、プレイヤーの中でその入門書を入手してるのは、お前さんだけじゃろうな」
四月朔日さんの言葉が続いたけど、やっぱり言われてる意味がよく分からなかった。
初めてやることなら、指南書とか、参考書とか、入門書とか。そういうものを手に入れようとするのはごく自然じゃないのかな。
「はは、カナカ坊。おまえさん、インターネットもあんまやったことないじゃろ」
「……そう、だけど」
なんでわかったんだろう。
施設に来てから、自主行動の訓練の一環としてインターネットの検索とかに触れるように指示されたからわからないことがあったら検索をかけるようになったけど、それ以前はインターネットなんて触ってなかった。
僕を生んだ人たちが、僕が自由に知識を得ることは、学問以外は許してなかったからだけど。
「じつはの、このゲームもそうなんじゃが、プレイヤー同士が情報を出し合って、検証するのが好きな連中が検証実験して情報を精査した、攻略情報サイトが存在しとるんじゃ」
「……ふぅん?」
「今どきのネット慣れしとるやつはの、ゲーム内で入門書なんつーもんを探す前に、その攻略情報サイトを見て、情報を仕入れるんじゃよ」
そんなのがあるんだ。へぇ。
「で、それに頼りきりになると、プレイヤーの持っとる現実の知識や、ほかのゲームでの知識がもとになったものしかなくなるんじゃ」
「? どういうこと?」
「イーリクみたいに、このゲームにしかないものが見つからんくなってくんじゃよ」
疲れたように肩をすくめる四月朔日さんに、そんなもんなのかな? と思う。後で、覚えてたらカササギさんに聞いてみよう。
「それは一旦放っといて、金属の鋳造について教えてやろう。そんな中型インゴット一個じゃ、作れるもんもたかがしれとるからの。炉自体は、作業テーブルの機能の一つで基礎的なもんを出せるから、お前さん自身で鋳造して、必要な分を確保するのがいいじゃろう」
「わかった」
言いながら、四月朔日さんが作業テーブルの上にミッテルマビグとノーメラを転がしていく。その量は、それぞれが同数じゃなくて、明らかにミッテルマビグの方がノーメラの倍以上になってた。




