7.金属と彫金と合金と 4
「……? こいつは何を要求しとるんじゃ……?」
四月朔日さんがテーブルを叩いてるニニを困惑したように眺めてる。まあ、僕もよくわかってないから正確な回答はできないんだけど。
「多分、この赤い方の石と、何か別の素材が必要だから、その素材を出せって言ってるっぽいんだけど……」
ニニが僕の言葉を肯定するように大きくうなずいて、またバンバンとテーブルを叩き始める。催促がすごいなぁ。
「と、言われてものぅ……。お前さんが要求しとるんはどの系統の素材なんじゃ? とりあえず、倉庫に入っとるもんならいいんじゃが……」
困った表情のまま、四月朔日さんが一枚のウィンドウを表示させて、ニニの前に差し出す。ニニはそのウィンドウを小さな手で受け取ると、ものすごい勢いでスクロールし始めた。
ちっちゃい手でよくそんなに早くスクロールできるなぁって感心してたら、目的のものを見つけたらしく、ニニはスクロールの手を止めて、ウィンドウをタンタンと叩いた。
ニニが叩いてる部分に表示されてるものを見ると、そこには「コムペンサミシェン」と記載されてる……多分薬品かな。少なくとも、昨日もらった調合レシピの一覧には載ってなかった薬品だと思う。
「ほぅ? そりゃ、最中がレシピあさりで作ったはいいが、使い道がわからんとぶーたれてた薬剤じゃの。一応、NPCには二束三文で売れるもんじゃから、作る薬剤がないときにとりあえず作って製薬欲を落ち着けるために倉庫に山になっとるやつの一つじゃな」
……なんか、よくわかんない言葉がいくつかあった気がするけど、最中さんが暇なときに作ってたものだってことはわかった。
ニニが慣れた手つきで倉庫からコムペンサミシェンを取り出すと、手のひらの中に隠れそうな小さい試験管に、赤みのある液体が入ったものがテーブルに転がる。
それから、ニニはもう一度ウィンドウをスクロールすると、もう一つ小さな小粒の石ころに見える何かを取り出した。僕の小指の爪くらいのサイズだから、本当に小さい小石で、色は普通に白っぽい、その辺に転がってそうな小石にしか見えない。
ニニの手が置かれてるウィンドウ部分の表示を見ると、「ミッテルマビグ」と表示されていた。
ミッテルマビグ
性質:土属性 品質:C 平均売価:10B
世界に広く存在する鉱物の一つ。
単体では、ただその辺りによくある白身のある小石で、そのままでは鋳造することはできない。
特定の薬剤を用い、特定の鉱石と鋳造することにより、合金として加工できる。
ノーメラ
性質:雷属性 品質:C 平均売価:10B
世界に広く存在する鉱石の一つ。
単体では、ただその辺りによくある赤みの強い鉱物で、そのままでは鋳造することはできない。
特定の薬剤を用い、特定の鉱物と鋳造することにより、合金として加工できる。
コムペンサミシェン
性質:治癒属性 品質:B 売価:300B
特定の鉱物/鉱石を合金にするための混合剤。調剤師によって作成された。
相反する性質同士である鉱石と鉱物を、加工可能な合金にするときに必要となる。
性質を相殺し、別の性質に変化させる効能がある。
特定の鉱物/鉱石以外と混合した場合、有毒ガスを発生させる場合があるため、取り扱いには注意が必要。
気になって、ニニが選んだ素材を一つ一つ鑑定してみる。すると、石二つは「合金として加工できる」って書いてあるし、薬品は「加工可能な合金にするときに必要」って書いてあった。
ただ、使える鉱石/鉱物名や、合わせる鉱石/鉱物名がどこにも書いてない。特定の、とはあるけど、薬品の方の最後には、間違ったものと合わせると有毒ガスを発生させるって書いてるし、正解がわかってないと試しづらい気がする。ちょっといじわるかも。
「……ふむ、この組み合わせはやってみたことがあるが、石同士じゃうまくいかんくての。屑鉄にすらならない、ゴミが出来上がってしまったもんじゃから、組み合わせが行かんかったのかと思うとったが……」
すごく真剣な表情で、四月朔日さんがノーメラと出た、先に出してきた赤い鉱石を持ち上げて、光に透かすようにいろんな角度に向けてみる。
「まあ、幻獣が言うとるんじゃ、正解なんじゃろうて」
そう、四月朔日さんは軽い調子で言うと、そこそこ大きな、陶器っぽい器を取り出すと、そこにノーメラとミッテルマビグをポイポイと放り込む。
そのまま器の端を鉄でできてると思う大きなハサミ? いや、何かを切るための刃がついてるものじゃなくて、持ち上げるためのもので掴んで、火が入っている炉の上にその器を載せた。
「薬品は入れなくていいの?」
「まあ、試しじゃからな。ふふ、新たな合金か、面白い」
そう言って、四月朔日さんは楽しそうに器を見ていた。新しいものが見つかるのは楽しいことなんだ? にんまりと笑ってる四月朔日さんを見て、僕はそう思った。
四月朔日さんは炉の火を大きくするように、燃料を炉の火に放り込んでから、火に向けて何かを踏んだ。すると、その何かから風が起きて、火を揺らした。
あれが何かは知らないけど、火を燃やすのに空気が必要だから、空気を送るための道具なんだと思う。
どれだけそのまま炉の火を見ていただろう。徐々に、炉の上に載せられた器の方から、鼻を衝く焦げ臭いにおいが漂い始める。器からは黒い煙が小さく立ち上っていた。
「やはり、石だけだとこうなるんじゃな」
真っ黒な煙が立ち上ってから少しして、四月朔日さんが器をテーブルの上に降ろすと、器の中には真っ黒こげになった何かが転がっていた。
明らかに求めてたイーリクとは全然違うから失敗なんだけど、四月朔日さんは楽しそうにその黒焦げの何かをテーブルの上に転がすと、石同士の量を変えて何度も同じように器を炉にかける。
薬品を入れないのはなんでだろうと思いながら、四月朔日さんの様子を眺めていると、何度目かに炉に載せた器を見て、「これじゃな」と呟いてから、素早くテーブルに転がってた試験管を取って、試験管の中身を器の中に注いだ。
それから、どこからか取り出した一本の棒(素材はわかんないんだけど、少なくとも木ではないと思う)で、器の中身をかき混ぜ始めた。
少しの間汗だくになりながら、四月朔日さんが器の中をかき混ぜながら、火に風を送り続けていたかと思うと、突然かき混ぜるのをやめて、今度は四角い細長い型のようなものを取り出してテーブルの上に並べていく。
「カナカ坊、間違って火傷しちゃいかんから、幻獣を持っとってくれ」
「ん」
テーブルの上にいたニニを持ちあげてテーブルから少し離れると、四月朔日さんは器を持ち上げて、器の中身を並べた型のようなものの中に流し込んでいく。
高温に熱されていた器の中身は、燃えるように赤く光を放っていたけど、少しずつそのその色が引いていって、入門書に載っていた銀鈍色に光り始めた。
まだ咳などが残っていますが、なんとか執筆できるまでは回復いたしました。
ご心配をおかけしました。
来週以降も、また毎週更新ができるように頑張っていきますので、よろしくお願いいたします。




