7.金属と彫金と合金と 3
どれくらい待ってたかわからないけど、僕も室内の暑さに結構汗をかいてたと思う。髪の生え際辺りが汗で濡れて、髪の毛が肌にぺったりとへばりつく感触がある。
手に持ってたニニの体温で手のひらが汗ですごいことになってて、ニニ自身も暑さにやられたのか、ちょっとぐたっとした感じに溶けていた。
「…………ふん、まあましか」
ずっと等間隔で鳴り響いていた音がやんで、振り下ろされていた金槌が置かれる。台の上に載せられて叩かれていた方の金属が、大きなペンチみたいなので挟まれて持ち上げられた。
四月朔日さんは、その持ち上げた金属を光に透かしたり、近づけたり遠ざけたりと動かしてから、そんなことをつぶやいた。
大きさはそれほど大きくはなくて、女の人でも片手で持てそうなくらいの大きさに見えるそれは、かるくカーブしている。ナイフなのかな? ぱっと見た形から想像できるのはそれくらいだった。
「ん? なんじゃ、来とったんか。来とったなら声をかけてくれればいいじゃろうに」
僕が見てることに気づいたらしい四月朔日さんが、こっちにちらっと目線を向けてからちょっと照れくさそうにぼやく。申し訳ないことをしたかな? と思ったけど、嫌そうな感じはしなかったからとりあえず次はそうしようと思う。
「まぁいい、それで、アクセサリーで使う金属じゃったな?」
「うん」
四月朔日さんは、「アクセ、アクセなぁ……」とつぶやきながら、奥の方においてある木箱からいろいろな金属の……あれはなんていうんだっけ、延べ棒? だっけ、細い長方形のお札の束みたいな厚みのやつをいくつも取り出しては仕舞ったり、作業テーブルに放り投げたりしてる。
最終的に、四月朔日さんが満足したように作業テーブルに戻ってきたころには、テーブルの上には5つの金属の延べ棒が並んでた。
「お前さんの金属加工スキルがどうかわからんかったから、一先ず市場でよく見るやつを出したぞ」
「……どれが何?」
「ま、現実でもよくある銀、金、プラチナに、現実にはないオリハルコンとミスリルじゃな」
一つ一つ金属を指さしながら、四月朔日さんがその金属の名前を教えてくれる。銀と金とプラチナは、聞いたことがある。僕を産んだ人がよくつけてたネックレスや指輪に使われてたやつ。
逆に、四月朔日さんが「現実にはない」と前置きしてくれた金属は、なんだか金に似てるけどちょっと違う雰囲気がある金属と、なんだかプラチナに似てるけど、プラチナよりももっと白味の強い色の金属だった。
「こん中じゃ、おそらくオリハルコンが一番硬くて加工しづらいじゃろうが、逆に強度があって壊れにくいっつーことじゃな」
「……イーリクって金属はないの?」
「……イーリク……?」
入門書に書いてあった金属がなかったのでそのことを尋ねると、四月朔日さんが不思議そうな表情をした。
「……? 僕が買った入門書に、初心者が最初に扱うのにちょうどいい金属だって書いてあったんだけど」
四月朔日さんの雰囲気からして、心当たりがなさそうなのにちょっと不安が込み上げる。でも、確かに入門書にその名前が書かれていたのをみてるから、これだというのを四月朔日さんに見せるために、かばんから入門書を取り出して広げる。
四月朔日さんは静かに僕が本を広げるを眺めていたから、目的のページを開いて指さして見せた。
「ここに書いてあるんだけど」
「……ふむ、パッと記憶に思い当たるものがないのぉ……。ちょいと持っとる素材リストを見させてもらうぞ」
そう言って、四月朔日さんは何かの一覧をすごい勢いでめくっていく。ぺらぺらと一瞬でめくっていくその様子は、本当に見えてるのかなって思ったけど、数秒ですぐに止まって、一つの石を取り出して見せた。
その石はごつごつとしたちょっと青黒い色をしてて、僕が見せた入門書に写真で載ってた銀鈍色とは似てないんだけど……。
「っと、後はこいつか」
そう言いながらもう一つ取り出す。そっちも、赤味のある黒っぽい色をしてた。これも似てない。
「こいつらは雑金属としてわしらプレイヤーん中じゃ鋳造もできんもんだと認識しちょるもんでな。ただ、NPCはキロ100で買っていくもんじゃから、NPCしか使わんもんだと思っとったんじゃが……」
ふぅん、そうなんだ? と四月朔日さんの話をふんふんと聞いていると、手に持ってたニニがうごうごとする。
「なに?」
「キュキュイーッ」
「ん、こっち?」
ニニに問いかけたら、ニニが赤い方の石をぶんぶんと指し示す。ニニがやりたいことあるのかなと思ってニニをテーブルに載せると、ニニは赤い石をもって、何かを要求するようにテーブルをバンバンと叩き始めた。
すみません、ガチめな体調不良に陥ってしまい、執筆がちょっとままならない状況になっております……。
来週もできるだけ頑張ってみますが、体調不良が長引いた場合、来週も更新ができない可能性がございますので、ご了承ください。




