7.金属と彫金と合金と 1
『あーさーだー! おーきーろー!!』
頭の中に反響する音でぐったりと沈み込んでいた意識がぷかぷか浮かんできた感覚がする。
昨日は就寝時間直前まで、一つ一つの行動を振り返って細かく細かく詰められ、ニニも僕もぐったりと自室のベッドに倒れこんだところで記憶が途切れてる。
多分、そのまま寝ちゃったんだろうなぁと思いながらニニの寝床があるところを見ると、あの声が聞こえてないニニは、ぐったりとうつ伏せになったまま寝てるみたいだった。
一瞬、息してないんじゃないかと思うくらい静かだし動かなかったんだけど、よく見れば小さいすーすーという寝息が聞こえたから、すごく深く寝入ってるみたい。
正直、僕ももう一回寝たいなぁって思ったけど、朝ごはんを食べに行かなかったら行かなかったでカササギさんに叱られるし、指示されたルーティーンを崩しちゃいけないから、食堂に行かなきゃ。
で、ニニをどうしようか。寝てるなら寝かせてあげてもいいのかもしれないけど、ニニ、結構食べるの好きそうだし、寝てて食べれなかったのを後で知ったらショック受けたりしないかな。
すーすー息が漏れてるニニの頬を、ちょんと指先で突いてみるけど、身じろぎもしない。……これなら、下に持っていっても、移動中には起きないかもしれないなぁ。
何度かつんつんと突いてみても様子が変わらなかったので、最速が来る前に食堂に行こうとニニを持ち上げる。持ち上げると、小さく呼吸で体が動いてるのもわかった。ぬくぬくと温かいのも含めて、なんだかほっとしたような気がしながら、自室を後にする。
なるべくニニに振動が行かないようにゆっくりと降りていくけど、もうみんな食堂に行った後なのか、廊下や階段には誰にもいなかった。人気のない階段は少しだけ冷たい空気が流れているようで、自室と気温は変わらないはずなのに変だなぁと思う。
昨日や一昨日よりも時間をかけて階段を下りて食堂に入ると、やっぱりもうほかの人は全員席についてた。カササギさんに手招きされるままに席に着くと、カササギさんが「寝てるの?」と聞いてくる。
何のことだろうと思ったけど、すぐに僕の手の上で寝てるニニのことだと気づいて、一つ頷いた。
「突いても起きなかったから、とりあえず持ってきた」
「はは、ごはんの匂いで起きるかもねぇ」
ニニをテーブルに載せると、さすがにテーブルを冷たく感じたのか、ちょっとだけ身じろぎしたけど、すぐに一回寝返りをうって大の字になると、そのまますーすーと寝息を立て始める。ニニはまだ起きる気配がないようだ。
「おや、寝てるのかい。……一応その子の分も用意はしてあるんだけど」
お盆をいくつも持った真鯛の刺身さんが、寝てるニニに気づいて声を潜めながらそう声をかけてくる。
僕とカササギさんの前にそれぞれお盆を一つずつ滑らせてから、僕らよりも何周りも小さなお盆をニニが寝てる場所の近くにおいてくれる。
今日の朝ごはんは、焼き魚の切り身と野菜の……これは何だろう、お浸しか何かなのかな? の小鉢に、薄く切られた数枚の漬物、白米とみそ汁。
なんだか、和食の朝ごはんって感じのセットだ。カササギさんは「お、いいねぇ」と楽しそうにしてる。
ニニの分は量を減らして食べやすくしてくれてた感じだったけど、この和食ってニニは食べれるのかなって思ってニニの分を見ると、ニニのは小さなバーガーみたいに潰して薄くした白米(軽く焼いてあるから、焼きおにぎりみたいにも見える)に、小鉢の野菜や、切り身のほぐし、漬物なんかをはさんでくれたらしい。
僕らだと一口で食べきりそうな大きさのそれを、どれか食べれないものがあってもお腹が膨れるようにか、何個も作ってくれてる。これは手間がかかったんじゃないかなって思うくらいすごかった。
「へぇ、ずいぶん手が込んでるじゃない?」
「その子、何が食べれて何が食べれないのか本当にわからないからねぇ。ま、前からライスバンズのライスバーガーを作ってみたいとは思ってたから、小さいサイズで試作できたのはありがたかったよ」
「ライスバーガーも美味しそうですね。持ちがよいようでしたら、今後の携帯食としてよいかもしれません」
「ああ、そっちの方向でもうちょい試作を重ねてみるつもりさ」
僕ら人間サイズにしても、ハンバーガーを想像すれば片手で食べられるから、携帯食なのかな。ハンバーガーってあんまり食べたことがないからよくわかんないけど。
「うーん、施設の食事も悪くはないけど、やっぱりちょっと味気ないし、こういう変わり種もねじ込めないか栄養士に掛け合ってみようかな」
みそ汁を口にしながら、カササギさんがそんな風にぼやいてる。やっぱりあそこの食事って、僕以外の人からしても味気ないものなんだ。それ以上に、ここで口にするものは口の中でいろいろあってびっくりするけど、もしかしたら施設の外の食事はそういうものなのかもなぁ。
「カナくん、とりあえず食べちゃいなぁ。その子は俺が見ててあげるから」
ふと気づけば、周りはみんなもうお盆の上のお皿を空にしてて、僕だけ全く手を付けてない状態だった。お盆に用意されていた箸を握り、焼き魚から手を付けることにする。
この魚が何かはわからないけど、鮭みたいな切り身の形をしていて、厚さ1センチくらいの縁に、ほんのり焦げ付いた皮と、その反対側には骨がある。
魚を食べるのは、そんなに苦手じゃない。身についている腹骨を、なるべく身を削らないように取り除いていく。それから、一口で食べやすい大きさに皮ごと身をほぐして、白米と一緒に口に運ぶ。
口に入れても、何の魚かはわからなかったけど、少し強めの塩気と白米はあっているような気がする。小鉢の野菜、漬物も適宜白米と一緒に口に入れながら、合間にみそ汁を口にする。
みそ汁は、少し慣れない味に感じたけど、少量口に含んだ分を飲み下すと、自然とほぅっと息がこぼれた。
「カナカくん、魚の食べ方綺麗でうらやましいや。ボク、いっつもぐちゃぐちゃになっちゃうんだよねぇ」
斜向かいで食後のお茶を飲んでいた最中さんが、僕の皿を見てそうため息を吐く。言われて最中さんの食べ終わったお皿を見ると、小さな身がついた腹骨がバラバラにお皿の上で散乱してて、さらにお皿一面に細かな解し身の欠片みたいなのが散らばって、その中心にぐちゃっとなった皮があった。
「最中はもっと練習したらいいんじゃないかい」
隣に座っていたコウさんが、最中さんをからかうようにそういうと、最中さんは「魚の食べ方練習はもうやりたくない!」と叫んだ。よっぽど嫌なんだろうなぁ……。
まだコウさんは最中さんをからかっているようだったけど、カササギさんに「いいから食べちゃいなぁ」と促されて、僕は食事に集中することにした。




