6.75 アリスブルーに誘われて 外交担当の場合
「リサ、どうしたん? さっきから溜息ばっか吐いてるけど」
突如舞い込んできた情報の重たさに頭を抱えていると、こちらの様子を眺めていたらしいマウリスがそう声をかけてくる。抱え込む形になってしまったとんでもない情報について、誰にどこまで開示するかをまだ決め切れていないから、どう答えたものかと頭を悩ませる。
元々、外交・折衝担当として役割を請け負った時点で、ある程度情報制限したいような、取り扱いに困ることを真っ先に知ることも少なくはない。それは理解したうえで、交渉事をどれだけ自分たちに有利に動かせるかを試すのが心地よかった。
だからこそ、特に難易度の高い前線組との折衝担当として名乗りを上げて、かなり交渉慣れをしていて隙の無い厨二やムサなんかとも対等にやり取りをしてこれたという自負もあった。
ムサはともかく、厨二はそこまでの爆弾を投げてくることはそんなに多くなかったし、大半が自分たちでの検証終了情報を販売してくる情報料の値段交渉が大半だった。
「マウリス、さとりと……とりあえずリーダーを呼んできて」
「おん? お、おぉ、すぐ呼んでくるな」
ウチの言葉に、マウリスが少し戸惑った様子を見せながらも拠点内に散らばってるだろうまとめ役たちを呼びに走りだした。……ギルチャ使えば早いんだけど、あの脳筋には思い浮かばなかったんだろう。
それよりも、頭の中を整理して、何から話し合うかを決めなきゃいけない。
どこまで、向こうの要望に応えられるかも含めて。
このサーバーでまとめ役をしている代表代理のさとりも含め、ギルド内には頭の回転の速い人間が多数在籍してる。今回の厨二のメンバー構成についてだってすでに把握済み。その状況で提供された情報を咀嚼すれば、すぐにわかるだろう。
特に、今回はこのイベント内だけじゃすまないような事象がいくつも入ってきている。それだけウチらが「この世界がゲームである」ということに先入観を植え付けられていたかが理解できて頭が痛いけど、そこは問題じゃない。
問題は、「なぜこのイベントが始まってから、厨二で連続して新情報が発掘されているか」ということになる。
悲しいことに、厨二は目立つ。とにかく目立つ。そのうえ、初日の時点で厨二に普段見かけない人物が加わっていることが周知されており、一部の掲示板ユーザーは、その新たな人物の外見的特徴を知っている。
厨二からはあの美しい少年を注目の的にしたくないという要望があったが、かなり厳しい。
今までにないことが判明した時、人はその要因として、新たに加わった人物に注目する。それはある程度知恵の回る人間であれば当然の帰結で。
頭が痛い。
個人的な感情としては、ロリ板での報告時点での少年の言動から、そこそこの苦労をしているのを感じ取ったのもあり、彼には静かにゲームを楽しんでほしいという気持ちが強い。
だけど、彼に全く注目を集めないような情報の共有の仕方を、全く思いつかない。頭の中でぐるぐると言葉や話の持っていき方がいくつも浮かんでは消えていくのに、要望に応えられそうなものが一つもないことに、自分の力量のなさが浮き彫りになって、それなりに築き上げてきた自信がガリガリと削られていくのを感じる。
「……イリシャがそんな顔するなんて、よっぽどのことなのねぇ」
「っ、さとり……」
「はぁい。マウリスがすごい勢いで駆け込んできたから、とりあえずあたしだけできたわよ。一応、各部署のリーダーは30分後を目処に作業を切り上げて、会議室に集合してもらうように伝えてもらったから」
そういいながら、ウチの向かいに椅子を引きずってきて腰を下ろして足を組んで見せたさとりは、組んだ足の上で手を組んでそこに顎を載せて笑う。
「さー、ちゃきちゃき薄情なさぁい? ありすはどうせここにいないんですもの、あたしの裁量でできることはしてあげるわよぉ?」
さとりがにまにまと少し品のない笑い方をしている。ウチがこんなに悩んでるのがよほど楽しいと見える。こういう所が、平常時はとりまとめ役にならない理由なんだけど。
「ウチでも取り扱いに唸る内容だけど、覚悟はしてるかい」
「そりゃねぇ。あたしとしてもイリシャの折衝対応や外交交渉に関しては信用してるし、それはありすだってそう。じゃなきゃ、あのド真面目ありすが、自分で外交交渉をするはずでしょ。それをせずにあんたに任せてる。それが理由じゃない」
自信満々にそう言い切るさとりに、ため息しか出ない。
ギルドマスターを唯一呼び捨てにできる女は違うということだろう。一応、代表役として立っているときはギルマスと同じくらい頼りになる人物であるのは間違いないんだけど……。
「覚悟してるなら、耳かっぽじってよーく聞くんだね」
そう言いおいて、ウチはさとりに提供された情報を簡潔に並べ立てる。
最初は一項目一項目に「おぉ~!」と反応をしていたさとりだったけど、項目が増えていくにつれて、感嘆の声は困惑に変わり、笑顔が引きつっていく。
最後に厨二のトップである疊鴼鸞瑪からの要望を伝えると、両手で顔を覆って足をバタバタと振り回す。
「うっそでしょ!? 無理無理無理無理ぃっ! 伝説の桜パールちゃんがどんだけ周知になってると思ってんのぉ?? 初日の雑談板で話題に上ったのもあって、すでに注目の的じゃないのよぉっ!」
わぁっと泣き真似をするさとりの頭に一撃入れて続ける。
「だから、ウチが悩んでいたんだろう」
「さすがにこれは、あたしの一存じゃ無理!! すぐにありすと方針を確認してくるから! あと、多分万華鏡の方にはまだこの内容はほとんど伝わってないはずだから、差し支えなさそうな部分だけ考えて会議室で共有して!」
がーっと一叫びすると、すぐにさとりは椅子から立ち上がり、そう指示を出して素早く部屋を出て行った。その小さくなっていく背中を眺めながら、結局ウチが考えるんかい。とぼやいて、できそうなところからと、メモ用紙を取り出して、頭の整理を再開した。




