6.幻獣と加工と調剤と変人 23
「カ~ナ~く~~~ん?」
チェーンは金古美で細めのもの、逆に縁取りにする蔦を逆に太めにして、垂らす方のチェーンをどうするかを考えていたところで、土台を覗き込んでいた頭がぐいっと強い力で持ち上げられた。
若干圧のある声と一緒に、持ち上げられた僕の頭をのぞき込んでくる顔がある。
「呼ばれたら返事でしょ?」
「……ん」
いつの間に工房に入ってきたのかわからないけど、僕の頭を掴んだままの状態でカササギさんがそう問いかけてくる。呆れたような表情をしてるけど、どうしたんだろう。
「ごはんでカナくんのこと呼んでたんだけど、聞こえてなかった?」
「……? 記憶にない」
今までに何度かあったパーティーチャットを使った真鯛の刺身さんの呼びかけを思い出したけど、直近でその呼びかけを聞いたのは昼食の呼び掛けが最後だったと思う。
素直に其れを伝えると、カササギさんが大きなため息を吐いた。
「キミがこんなにのめりこんで集中しちゃうなんて思わなかったねぇ」
そう言われたけど、よくわからなかった。僕、集中してたのかな? どうなんだろ。
「うん、わかってなさそうだねぇ。とりあえず、もう晩御飯だから下に降りるよ」
カササギさんにそう促されたので、僕は言われるままにニニをもって工房を後にする。あ、ご飯を食べ終わったら、工房の片づけをしなきゃいけないかな。結構モノを広げてきちゃったし。
カササギさんと一緒に食堂に入ると、すでに席についていたカチュさんがにっこりと笑いながら、「集中するのはよいことですけれど、のめりこみすぎるのはよくありませんわ」と一言注意された。
確かに、この数日で事前に遅れるって連絡してなかったら、連絡のなかった面々がそろうまで待ってたし、人を待たせるのはよくないことだから、カチュさんの注意はもっともだと思う。
だから、素直にカチュさんの言葉にうなずいてみせると、「素直に他人の忠告を聞けるのはよいことですわ」と言いながら、なぜか僕の頭に手を載せてきた。
「こんなにのめりこむ感じの集中の仕方するとは俺も知らなかったからね。真鯛、もし今日と同じようなことがあったら、普通にカナくんの頭を持ち上げて視線を切ってやればすぐ気づくから、そうしてやって」
僕がぐりぐりとカチュさんに頭を前後に動かされている間に、カササギさんは真鯛の刺身さんにそう声をかけていた。
真鯛の刺身さんは「仕方ないねぇ」と肩をすくめているから、次から気を付けなきゃと考え直した。
「カナカくんの分を持ってくるから座っておいとくれ」
「ありがとうございます」
さっと立ち上がってキッチンの方に消えていく真鯛の刺身さんの背中にお礼を言うと、すぐに手に皿を持って戻ってきた真鯛の刺身さんは「かまわないよ」と笑った。
晩御飯はパスタみたいで、細長い麺が軽い山になった深皿が目の前に置かれる。鮮やかなオレンジ色に染まった麵の上に、多分カットされたピーマンとかウィンナーとかが載せられてる。
ニニにも似たようなものが載ってる小さな麵の山が差し出される。
見た目から、多分ナポリタンってやつだと思うんだけど、ナポリタンって確かケチャップでパスタを炒めた料理だった気がするんだけど、これってニニはどうやって食べればいいんだろう。
僕がそう考えてるのが伝わったのか、真鯛の刺身さんがニニに差し出された皿の近くに小さな細い何かをそっと差し出した。何だろうと思ってそれを見ると、ニニの小さな手でも持てそうな、つまようじよりも少し大きいくらいの、先端が二又に分かれたフォークみたいなものだった。
「その子、頭よさそうだから、フォークも使えそうだと思ってね」
確かにこっちの言葉を理解してるように見えるけど、ニニはフォーク使えるのかな。ちらっとニニを見ると、ニニは両手でフォークを持ち上げて、でもどうしたらいいのと困惑してる様子だった。
「ニニ、それ、使い方わかる?」
「キュ、キュイィ……」
よくわからないと言いたげなニニの鳴き声に、とりあえず見やすいように使って見せる。パスタの麺をくるくる巻いて食べるのは難しいだろうから、刺すようにして使って見せれば、ニニもぎこちない動きで僕の動きをまねようとする。
最初からうまくはいかなかったけど、何度か試すうちにそれっぽく具材や麺に先端を突き刺すことができるようになって、それを目いっぱいの力で持ち上げてから、端から噛みつくよう食べてる。
刺すことはできるようになったみたいだけど、ニニの口元も両手も、ケチャップに染まってオレンジ色になっていた。
ケチャップの入ってる料理って、口元を汚さないで食べるの難しいよね。
用意されてたお手拭きで、ふける範囲でニニの手と口元を拭いてやると、ニニも自分の手を見てケチャップで汚れてるのに気づいたみたいで、ちょっとびっくりしてから、自分でお手拭きを使って汚れをぬぐい始める。
「うーん、その子が食べるには食べ辛そうだね……。次からもうちょっと考えるよ」
真鯛の刺身さんもさすがにニニの様子に思うことがあったのか、苦笑しながらそうつぶやいてた。
ニニの様子を見ながら僕もパスタを口に運んでいく。口の中に何とも言えない感覚が広がっていくけど、食べれない嫌な感じではないから、口元をなるべく汚さないように口に運んでいく。
もっちりとした弾力のある麺だったから、噛み切りにくいのかなとも思ったけど、案外簡単に噛み切れて飲み込めたのには安心した。
深めの皿の中に盛られていた麺を全部飲み込み終えても、まだニニは頑張って麺を持ち上げて頬張ってるので、ニニが食べ終わるのを眺めているときに、そういえばと思い出す。
顔を上げてテーブルについてる人を見れば、少し離れたところでグラスを傾けてる四月朔日さんがいた。
「四月朔日さん」
「ん?」
僕が四月朔日さんに声をかけると、四月朔日さんはグラスを置いてこちらの方に顔を向けてくれた。
「金属の加工について、聞きたくて」
「おう、金属についてなら、このメンツではわしが最も詳しいぞ。何をしたいんだ?」
四月朔日さんはわざわざ席を立って、ちょっとふらついた足取りで近づいてきたと思うと、カチュさんの席を借りて僕の前に座り、どっしりと話を聞く姿勢を取ってくれた。
「ん、アクセサリー用の、細いチェーンを作りたくて」
「ほう。チェーンだと鍛治よりは彫金系のスキルになると思うが、簡単には教えられるぞ」
「僕、金属も持ってなくて、どうしたらいいかなって」
「ああ、なるほどの。それなら、今日の午前中に最中や生姜と採掘に行ったんじゃろ? 採掘してきたものの中に鋳造すれば金属にできる鉱石もあるかもしれん。金属加工鉱石の見分け方も含めて教えてやろう」
「……いいの?」
「かまわん、かまわん。自分で作れるもんは作るのが一番良い出来になるもんだ」
カラカラと笑い声を立てながら、四月朔日さんはそっと置かれたグラスを豪快に煽った。
「おい、四月朔日。泥酔したままやるなよ。お前、それで一回炉をだめにしてるだろ」
「ハハッ、夜に炉の明かりだけを頼りに打つ武器も乙なもんじゃが、さすがに素人さんにモノを教えるのにそれはないじゃろ」
笑いながらこちらをみた四月朔日さんの顔は、ほんのりと赤らんでる。多分、煽ってるグラスの中身がお酒なんだろうな。
「明日は開いとるか?」
「……特に予定はないかな」
「なら、明日はわしと共に金属と戯れようじゃないか。金属は面白いぞ」
「……ん」
ちょっと四月朔日さんの言ってることが理解できなかったけど、とりあえず明日教えてくれるってことでいいんだと思う。これで三本分しか持ってきてない金属パーツが何とかなるかもしれない。
まだ食べてるニニを眺めながら、僕は明日進められるかもしれない作業を頭の中でまとめた。




