6.幻獣と加工と調剤と変人 22
一つ目は赤みのある紫にしたから、次は別なのにしようとフレシェバーン液で処理を終えた花を眺める。鮮やかな色とりどりの花、ニニの好みなのか比較的青系統の色が多く見える。さっき使った赤紫のほかは、若干緑みのかかった青に、群青にやや黄色みが入ったものなんかがある。
少々赤みのあるオレンジ、濃いめのピンク。本当にはっきりとした発色の花ばっかりあって、どれがいいのかちょっと困る。結構白い木肌だから、淡い色合いよりもはっきりとした発色の鮮やかな花の方が映えそうなのだけはわかるんだけど。
せっかくならちょっと違う雰囲気も見てみたいんだけど、赤紫を一つ目にしちゃったからなぁ……。うーん。
実際に当ててみればいいか。目についた花をいくつか手元に寄せて、軽く花びらを土台の上にのせる。上から、横から、斜めから。視点を変えて、花と土台の色合いを確認してみる。数分眺めてから、その花を土台からのけて、次の花を載せる。そうして引き寄せたものを一つずつ当てて色合いを確認してみる。
一通り色合いを確認してから、少し考えて緑みのかかった青にする。どうも、赤みが入ると似てるように感じちゃうのと、黄色が入るとそのまま木肌の色味に似て来てるように感じて、一番一つ目と差がありそうに見えたのがこの緑みのかかった青だった。
「キュイキューィ?」
「こっちも、悪くないでしょ」
ニニが「どんなかんじ?」と言わんばかりに首を伸ばしてきたので、ニニに見やすいように寄せて傾けてやる。ニニはじーっとそれを見ていたかと思うと、何かに納得したのか、ふんふんと頭を振ってこっちを見上げてきた。……何に納得したのかよくわかんないけど、とりあえずもういいっぽい。
じゃあいいかなと、ニニに見えやすいようにしていた土台を手元に戻して、花をひとまず外して材木用接着剤を取る。
一つ目と同じように、花を固定するためにあけた土台のくぼみに材木用接着剤をおいて、先ほどの花を固定するために五分間花をつぶさないように待つ。
五分経ったら花から手を離して、土台と花の隙間のはみ出た硬化した材木用接着剤を削る。花に誤って刃を当てないように細心の注意を払って満足するまで削った。
ひとまず、土台裏に髪留め用の金具部分を付ければ髪飾りにできるし、紐系を通せるような金具部分を付ければ、ブレスレットにもネックレスにもできるんだけど、さすがにブレスレットとしては重たいかなぁと思う。
髪留めでも重たいかな? ちょっと試してみるかと思ったけど、そういえばどんな金具があるかを確認するためにアメリーさんのところで見本用として買ったのがいくつかしかないことを思い出す。
うーん、これを使ってもいいんだけど、使った分の補充ができないんだよなぁ。ネックレスやブレスレットに使うチェーンも、見本用に買っておいた1mくらいずつの本当に短いものしかない。
この金具やチェーンは、金属加工で作れるとは聞いてるんだけど、まだ金属を触るほど植物の扱いも覚えてなかったから、本当に見本用以外はそろえてもいなかったんだよねぇ。
入門書に簡単な金属加工についてと、各パーツの取り扱い方については書いてあったけど、そもそも僕はもとになる金属自体を持ってないから、金属については一度四月朔日さんに相談してみないとだめかもしれない。
うーん、一つ作るだけなんだけど、足りないものが多すぎるなぁ。むしったり伐ったりした植物素材だけで全部まかなうのは難しいなぁ。同じ形のものを木材で作るのはできるけど、金属ほどの耐久性もなければ、記憶形状も難しいからなぁ。
あ、ネックレスなら、マクラメの紐ならギリギリ行けるかな。ネックレスの紐として使えそうな素材あったっけ?
あと、やっぱり土台と花だけだとちょっと寂しい気がする。土台の縁に何か縁取りをつけてみようかな。あと、デザイン集を見てると、髪飾りのデザイン案にはそこそこの確率で特に用途のなさそうな、土台の端から端に緩く付けられてる細めのチェーンや、そのチェーンからさらにチェーンをぶら下げて、その先端に小さな石なんかのチャームを付けてたりするのがあった。
あのぶら下げてるチェーンなんかの意図はよくわかんないんだけど、土台と花だけの状態を見てると、ああいう意図はわからないチェーンなんかが付くだけで、本体が大きく見えて、すごく華やかな感じになる気がする。
だとすれば。デザイン案を取り出して、別のメモにそのデザイン案を描き写してから、そこにいくつか書き込んでいく。
何枚もデザインを描き写しては、そのデザインにチェーンのイメージ描き込んでいく。アイデア集や図案集なども見ながら、僕の描いたデザインと違和感のないものを探していく。
十枚以上描いた中から、遠目に見たりして五枚ほどを抜き出す。
「ニニ、この中で気に入ったのある?」
抜き出した五枚をそっとニニの見える範囲に広げておくと、ニニは自分? と言いたげに一度小さく首を傾げたけど、しげしげと広げられたデザイン案を吟味するように視線をテーブルの上にやった。
数分の間悩むようにそのデザインを眺めていたかと思うと、一枚に決めたのか、「キュイキュイッ」と鳴き声を上げながら、小さな手でそれを指さす。
「これ?」
「キュイッ!」
間違いがないように僕もニニが指したと思われるデザインに手を伸ばして持ち上げる。持ち上げたそれをもう一度にニニ向けて確認すると、ニニが大きく頷いて鳴いたので、間違いないらしい。
ニニが選んだデザインを改めてみる。
ニニが選んだのは、土台の縁を細い植物の蔦で縁取りして、その縁取りの短い辺の部分と絡み合うようにチェーンが始まり、長い辺の下辺りで緩い弧を描くようにぶら下がっている。
メインの花は向かって左側にあって、土台の三分の二辺りで一度土台につなげられて、残りの三分の一で小さな弧になっている。その弧の始点と終点の辺りから短いチェーンがぶら下がっていて、そのぶら下がったチェーンの先端には小さなチャームがついている。
今ある素材で作れるかどうかを一度度外視して、とにかく合いそうで華やかに見えそうなデザインとして描いたものだ。実現できるかなんて何も考えてない、とにかくデザイン最優先の図案。
「……うーん、実際にやるなら縁取り用の素材とチェーンと……。それから……あぁ、先端のチャームはどうしようかな。採ってきた石で使えそうなのあるかな。でも、石だと重いし、髪飾りにするなら植物素材の方が軽いよね」
デザインを最優先で考えると、縁取りだけ植物で、その縁取りといい感じに絡められそうな細さのチェーン、さらにぶら下がってるチェーンの先端は色合いのよさそうな石を付けたらいいと思う。
参考にした図案集なんかだとそういう構成で作られるものが多いみたいだけど、そうしたら全体的に重たくなるのも事実で。
どうするのが一番いいかわからないから、一先ず手元にある見本用の金属でできたパーツ類をテーブルに並べ、縁取りにできそうな植物素材を自分でむしってきた草花の中から取り出して並べる。
候補にできそうなものがなくなってから、僕は一つ一つ土台と縁取り用の植物素材と、見本用チェーンを当てて、よさそうな組み合わせを探すことに集中し始めた。




