6.幻獣と加工と調剤と変人 21
一つできたから、同じ行動をもう一度繰り返す。繰り返しながら、やりやすい方法を探していく。
何度か繰り返すうちに、最初はおぼつかなかった手つきもそれなりに様になったんじゃないかと思える程度になり、品質もDからCになった。品質が変わってから瓶を揺らして気づいたんだけど、この接着剤、品質が上がると粘度が少しずつ変わっていくみたいだ。
僕が作ったDは、すり鉢から瓶に移すのも大変なくらいに粘度が強かったけど、Cは明らかに滑りがよくなってて、粘度が若干減ってた。最中さんのは? と思って最中さんからもらった分を揺らしてみたら、僕の作ったCよりも少しさらっとした感じだった。
試しに瓶をあけて中身を指先で掬ってみたら、僕の作ったDが、どっちかっていうとスティック糊みたいな固形糊がちょっと緩くなった感じで、最中さんのがそれよりも大分緩い、あの幼稚園とかで使ってた小さなプラスチックケースに入ってた白い糊に近い感じがした。
あの白い糊ってなんていうんだろう。イベント終わった後に憶えてたら調べてみよう。あの糊って、幼稚園でしか使ったことないけど、あれの粘着力ってどうなんだろう。全く粘着力がないとは思わないんだけど。
糊だと、ベコベコにゆがむけど液体糊が一番くっつく気がする。もしかして、品質がAまで行くと液体糊みたいになるのかな? いや、Bの時点でちょっと重たい感じだから、あそこまではいかないのかな。
気にはなるけど、それよりも元々やりたかった作業の続きに戻る。数もこれだけ出来たらしばらくなくならないだろうし、なくなるころにはもっと本体の方も洗練されてると思う。
作りかけでおいてあった部品を手元に引き寄せる。時間を少しあけて改めてみると、もう少しディティールに細かさを入れられたんじゃないかとか土台部分に手を入れたい気持ちになるけど、まずは花と合わせて合うかどうかを確認したいから、そこは次に土台作業をするときに考えることにする。
土台のくぼみ部分に、品質Dの材木用接着剤を指で掬って軽く置く。本当はもうちょっと綺麗に塗りたいけど、綺麗にやすりがけしたわけじゃないから、木の繊維が指先に刺さる可能性があるので、素手ではやらない。というか、かばんを作ってるときに木製パーツでやってる。
あれ、痛いのは一瞬だけだったりはするんだけど、ずっと違和感があったり、違和感の原因が見つからなくて何とも言えない感覚があったりして、結構面倒くさかった。
穴付近に置いた接着剤は、花の接着する部分で軽く押してくぼみの中に押し込んでいく。力を入れすぎて花が潰れないようにだけ気を付けながら、土台と花が接着剤でいい位置に固定されるまでそのまま待つ。
数分待ってから、そういえば硬化までの時間って確認してなかったって思いながら、ゆっくりと花をつぶさないように接着部分を軽く揺らして確認する。
接着剤と一緒に揺れることがなかったから、そっと手を離しても、土台から花が動くことはなかった。ちゃんと接着されたみたいでほっとする。
それから、昨日削った後の小さな木っ端を取って、材木用接着剤をちょっとだけつけて接着してみる。硬化時間の確認のために、メニューウィンドウを開いて時間を確認して、1分、2分と少しずつ時間を空けてから木っ端同士を離して効果状況を確認する。
何度かそれを繰り返して、品質がDだったら5分、Cなら4分、Bだと3分で硬化が終わって接着されるようだった。接着剤の硬化までの時間って品質に左右されるんだ。これって材木用接着剤だけなのかな。ほかのもそうなのかな。
他のもそうなら、品質が高ければ高いほど即効性の高い薬品になるってことじゃない? 体調不良になったときの薬とか、早く効くに越したことはないだろうし、品質Aだとすごく効きそうだよね。
「キューイ」
「ん、薬って、品質がいい方が早く効いていいのかなって」
「キュッ、キュイキュイ、キュイーイ」
「……えっと、場合によるって言いたいの?」
「キューイ!」
何してるのと言わんばかりの鳴き声だったから、素直に考えていたことを答えたら、ニニはそれがそうでもないと言いたげな仕草を見せる。どういう意味かわかんなかったけど、そういうことかなって想像で問いかければ、ニニがその通りと言わんばかりにうなずいた。
「でも、薬が早く効くのはいいことなんじゃないの?」
「キュキュイキューイッ! キュゥゥ、キュゥゥ、キュイッ!」
ニニの言うことがよくわからなくて、僕がそう尋ねると、ニニは全然違う! と言わんばかりに大きく体をバタバタさせたかと思うと、なんだか苦しそうな仕草をしてみせる。
急に何かあったのかって一瞬焦ったけど、すぐにニニは元気にバタバタとまた体を大きく動かして見せたから、本当に苦しくなったりしたわけじゃなさそうだった。
で、だ。ニニは何を訴えたかったんだろ。話は薬が早く効くのがいいっていう僕の言葉に対する反応でしょ? 多分、ニニは反論してたんだと思うんだけど、なんで苦しそうなふりをしたんだろう。
うーん、わかんないなぁ……。反論したいところまでは考え付いたんだけど、そこでニニが苦しそうなふりをしたのが、どうしてもつながらない。
「ごめん、ニニが何言いたいのかわかんないや……」
何度か反芻してどこかから答えがぽろっと振ってこないか考えてみたけど、最後のところが僕の理解しうるところに見当たらない。だから、素直にニニに謝罪をすれば、ニニは仕方ないなぁと言いたげに「キューイィ」と一つだけ鳴いて、おとなしく見学用にスペースの中に体を収めて僕の手元を眺めるのに戻ったみたいだった。
ニニが僕らと同じ言葉をしゃべれたら、もうちょっとだけ意思疎通が楽になりそうだなぁと思いながら、僕は改めて作りかけだった試作品に向き直る。
材木用接着剤で埋まった土台のくぼみと花の隙間の、ちょっとだけはみ出た固まった接着剤を、花に傷をつけないように小さなナイフで少しずつ削っていく。やすりでもいいかもしれないけど、やすりだと花の方にも接触しそうだったからナイフで削ることにした。
そうしてはみ出た接着剤を削ってから、試作品を持ち上げて光に透かして見る。木材の方はウゥンシュをそのまま削り出しただけだから、白身の強い木目模様のまま。今回接着した花は、昨日ニニが選んでくれたやつの中から、白身が強い木目の上にのせても映えそうな、赤みの強い紫色のベルヒガングの花を選んだ。
白いといっても、純白じゃなくてほんのりと灰色がかった、茶色とは呼べないくらいの白っぽさのある木肌だから、はっきりとした鮮やかな赤紫の花が埋もれないでそれぞれが目立っている。それが光の下でも変わらない。
「ん、本体はこれでいいかな。どう?」
まだこれだけだとシンプルすぎるかなとは思うけど、基本の本体にするなら十分だと思う。だから、一度ニニに見えやすいように傾けてやる。
「キュッ! キュイ、キュイイイッ」
本体をみたニニがぱちぱちと拍手とともに鳴き声を上げた。これ、多分賞賛してくれてるんだよね。
ニニが触れる位置に本体をそっと置く。不思議そうにするニニに、「花はつぶさないでね」とだけ伝えて、僕はまだ作ってある土台に別の色の花を接着するために素材の方へ手を伸ばした。




