6.5 万華鏡の光 折衝担当の場合
なんでウチはこの鯖に振り分けられてもうたんやろか。のしかかってきている重圧に心臓が口からいつ飛び出てもおかしくあらへんわ。
そもそもの話、今回のサバイベはウチはあくまでも補助役として参加するいう話やったんに、何の因果か補助するべき担当者が誤って別PTに加入したせいで別鯖に振り分けられた上に、ウチよりも古参メンバーのほとんどが別鯖に振り分けられてもうたがために、ウチが半分くらい仕切らなあかん混沌とした状況になっとった。
幸いにして、建築系の担当は同期に近いヤツがおったから、そいつに全部丸投げでけたんやけど、悲しいかな、他団体との外交経験のあるメンバーがゼロで、逆に外交周りを全部ウチに丸投げし返されたわけや。
ホンマ堪忍してやって嘆いてたけど、嘆いても状況は変わらへん上に、ウチかてそこまで古参やないのに、ウチが古参に該当するっちゅーことは、まともに対応できる面子もほかにおらへんっちゅーこって、ウチが駄々こねし続けられる状況でもなかった。
マジでゲロ吐きたい気持ちで一杯やったけど、真っ青な顔してる新人たちをそのままにもしておけへんかったんや。胃がキリキリ痛むわ、喉の奥から胃酸がせり上がってきて喉を焼く痛みも感じたけどな。リアルに戻ったら布団の上がゲロまみれになってそうやわ、マジで。
「顔色が悪いが、大丈夫かい?」
「お気遣いおおきに。こんな機会に巡り合えるとは思うてへんかったさかい、光栄なのと同時に申し訳なさでいっぱいなんですわ」
「そんなに大層なものじゃないんだけどねぇ」
そう、今回同盟を組んで対応することになった「アリスブルーに誘われて」の外交担当をしてる相手方の最古参外交でこっちも散々煮え湯を飲まされてきた野々馳イリシャやなかったらそうしてるわ。
お互いプレイヤーが拠点にできる大型街の自警団活動をしているとはいえ、最前線手前に近い第四の街で活動してるアリスブルーと比べれば、こっちは塵芥みたいなもんや。
しかも、向こうは古参含む主戦力の半分近くが固まっとる。そこまで外道とは思うとらへんが、最悪こっちを盾にしていいようにしかねない程度には、自分らの利益を追求するタイプや言うんは聞いとるさかいな。
いくら歴の差があるとはいえ、向こうに付け入らせる隙はなるべく減らしたいもんやわ。はぁ、しんど。
「そういえば、天光とやり取りをしたんだが、どうもこちら側に厨二のメインPTが配置されているらしい」
「……は? 厨二……?」
これ以上話すこともあらへんし、そろそろ戻って建築系担当と話詰めななんて考えてると、野々馳はんが取り留めのない雑談を言わんばかりの調子で言われたことに、一瞬頭がついていかへんかった。
厨二。正直に言って、他のどの最前線組よりおっかない単語に、マジで頭の中が真っ白になったわ。
厨二って単語が示すのは、特定のデカいギルドしかない。「厨二病上等」っつー、その名前だけなら「アホかいな」と言いたくなるような、どうしようもない名前なんやけど、このゲームで攻略を考えてる奴なら誰もが知ってる名前になる。
主要な面子は10人程度の少数の戦闘職と、それをサポートする生産職から構成されよるんやけど、その少数の戦闘職で、倍以上の戦闘職が構成する他ギルドやMOBを狩りつくす、狂っとる先頭集団や。
瞬閃の疊鴼鸞瑪を筆頭とした、二つ名持ちばっかりおるその集団を、ウチは実際に見たことはあらへんのやけど、実際に全線で競り合った自ギルドの古参から話を聞くだけでぞわぞわしてまう。
「こちらから振った話だが、そんなに怯えないでおくれ。完全Pvイベントならまだしも、今回はサバイベだ。それならやつ等はちゃんと話を通せば我々に手を貸してくれるだろう」
「……そうなんです?」
「一応、疊鴼らとそれなりに話をした経験もあるからね。一応、厨二のメインなら薬中と雷鳴、鷹の目に鉄壁、慈雨もいるはずだ。我々としても不足している部分があるだろう?」
野々馳はんの言うとるのは事実だ。ウチらも、野々馳はんのところも、最低限の人員はおるけど、鷹の目れるん。のような測量関係で現実レベルの技術を持ってるやつはおらんし、雷鳴ジンジャーマンクッキーのように正確に掘削できるやつもおらん。
治水関係やとこの二人が突出した知名度やけど、薬中最中食べたいなら、何かあったときの回復系ポーション類には事欠かんやろうし、MOB関係は鉄壁がいればどうとでもなる。今までのサバイベでBOSSクラスが出た話は聞かへんけど、そうなったときに慈雨エカテリーナのジャストタイミングのバフデバフや回復は必須や。
「話、できるんやろか」
「そちらがかまわなければ、ウチの方で話を通しておくよ。三団体合同での支流開拓なんてどうだい?」
「そんなうまくいかはるん?」
「我々が彼らに敵意を持たないという条件が飲めれば、だね」
少し茶化すような野々馳はんの言葉に少しの猜疑心もわくけど、かといってここで否定して敵対なんてできるわけがない。ウチらには選択権なんてあらへんやんか。
「せやね、お願いできますやろか」
「ああ、任せておくれ」
ホンマ嫌んなるわ。野々馳はんの思う通りに運ばれた無力感に打ちひしがれるばかりや。
「蘭花、どうだった……って、真っ青な顔してんなぁ……」
「うっさいわ、そない言わはるなら、龍陽が代わりに外交せぇや」
「はっは、内弁慶の俺にゃ荷が重いってよ」
カラカラ笑ってウチを煽ってきよった建築系担当のツラに一撃入れてやろうかと拳を振りかぶるけど、龍陽のやつは生産系のスキルのくせに、リアルスキルでさらっと避けよるから、龍陽の周りだけ水浸しにしてやった。
「おいおい、乾かすの大変なんだぞ」
「うっさいわ」
なんとか確保した情報整理用の個室のデスクに腰かけたまま、体を起こしてるのもしんどくてそのまま突っ伏してデスクの冷たさに癒されてると、さすがの龍陽もウチを気遣う気持ちがわいたらしい。
「なんだよ、蘭花だって拝んだことある、野々馳さんだったんだろ、相手」
「野々馳はん自体でも厄介やのに、おるんやって」
「は? 何が?」
ウチの確信的な名称のない発言に、龍陽の顔にいぶかし気な色がにじむ。ウチがこの単語を口にすれば、龍陽がどんな顔するのかは、正直予想に難くないんやけど。
「厨二のメインが。アリスブルー側らしいけど」
十数秒の間が開いたのち、拠点内は龍陽のバカでかい悲鳴が反響した。間近で聞く羽目になったウチの耳はしばらく機能しなくなって、それに文句を言ったら「自業自得だ」なんて言われたのは納得いかんわ。




