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OTRA VIDA  作者: 杜松沼 有瀬


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6.幻獣と加工と調剤と変人 20

 現れた三つの素材は、さっき最中(モナカ)さんのところで見たものと瓜二つだった。メランカリシャに至っては、まるでその形に整形されたのかと思うくらい形も一緒に見えた。

 小さい瓶はちゃんと二つあって、それぞれを手に取って軽く振ってみると、片方はさらさらと揺れて、もう片方は少しもったりと揺れたのも同じに見えた。

 改めて瓶の液体をそれぞれ鑑定してみる。


 ボシャフト剤

 性質:雷/火属性 品質:B 売価:400B

 調合、調剤、調薬、すべての作業で(しばしば)用いられる薬剤。調剤師によって作成された。

 ボシャフトと魔力水を加工することにより、様々な化合物を作成する際の調整薬として選ばれる。

 比較的入手が容易なため、類似効果を持つ薬剤よりも採用率は高い。

 内服しなければ、皮膚に触れても支障はないため、初心者や子供でも扱いやすい。

 

 魔力溶ゲル化剤

 性質:風/水属性 品質:B 売価:300B

 魔力を内包するゲル化剤。調剤師によって作成された。

 牙猪のゲル化剤から生成されたため、魔力質が風に寄っている。

 安価かつ、生成方法や素材も扱いやすいもので生成できるため、重宝されている。

 生成前の素材となった魔物によって魔力質が異なるため、最終生成物の属性を固定したい場合は注意が必要になる。

 また、素材によってはひどい悪臭がする場合もあるため、元となった素材の確認が必要となる。


 想像していた通り、サラサラな方がボシャフト剤で、粘度のある方が魔力溶ゲル化剤で間違ってなかったんだけど、書いてあることに目を通して、ちょっとおもしろいなって思った。

 僕が今まで作ったものは少ないけど、それでも感じてたのは、素材には何かしらの性質ってのがついてること。そして、その性質が違う素材を使ってアクセサリーを作ったら、性質がスラッシュ表記になること。

 属性っていうのはよくわかんないんだけど、スラッシュで区切られることで感じられたのは、複数であることの表し方なんじゃないかっていうこと。

 僕が一番最初に作った「初心者のマクラメアミュレット」は性質の欄に「風/雷属性」って表記があった。「初心者のマクラメアミュレット」のを作るのに使った素材は、エルガー草とウェアツヴァイフル草の二種類で、前者の性質が「雷属性」、後者の性質が「風属性」って書いてあったのを覚えてる。

 で、雷属性のエルガー草は芯材だから量が少なくて、風属性のウェアツヴァイフル草はそれに巻き付けて編む分だけ量が多くなる。多分、制作物の性質が複数ある場合は、多い方から表示されるんだろうなって考えてた。

 でも、そうしたらフレシェバーン液とかの、素材加工時の加工用薬剤は? って話になるんだけど、フレシェバーン液は治癒属性で、ファベルレイン液は水属性、ミットファブフェン液は土属性だったから、多分全体の中で一番量が多いものの上から二種が表示されてるんじゃないのかな。

 あくまでも自分で作った範囲での想像だけど、この性質っていうので耐性ってやつが変わってくるなら、ちゃんと素材の性質を確認して考えながら作らないと駄目な奴だと思う。

 正直、「初心者のマクラメアミュレット」についてた耐性って必要なものなのかどうかも理解できてないとは思うけど、ないよりあった方がいいんだろうなとは思うから、作りかけのやつができたら内容を確認して、それからカササギさんに聞いてみよう。

「キューイ?」

「モノを確認してたんだよ。お前は飛んだのとかがかからないようにだけ気を付けなよ?」

「キュイ!」

 なかなか作業を始めない僕の様子を不思議に思ったのか、ニニがどうしたの? と言わんばかりに鳴いたので、作業中にどうしても飛散する粉とか飛沫に注意するように促せば、もちろんと言いたげに胸を張っていい鳴き声を上げた。

 ニニが少し離れたのを見ながら、僕はさっきの最中さんの作業風景を思い出す。

 最中さんは、見ただけじゃわからないような複雑な手順はしてなかった。鉱石を細かく砕くのと、最後は手早く混ぜ続けるだけだった。ただ、多分それだけじゃないと思う。

 もう一度作業テーブルメニューを出して、設備の中に鉱石を砕く工具がないか探してみる。一覧をスクロールしていくと、下の方に金槌があったからそれと、テーブルを傷つけないように下敷きにできるものも選んでみる。

 出てきた下敷きの上にメランカリシャを置いて、動かないように押さえながら金槌を軽く持ち上げて、金槌の重さで石にヒビを入れていく。一回で砕くことはできると思うけど、それで派手にかけらが飛び散ってニニに当たるのも怖いからね。

 金槌の重さでヒビの入った鉱石を、二度、三度と同じようにしていけば、鉱石はそれなりの小さい欠片まで砕けたので、それをこぼさないようにすり鉢に移す。

 ちょっと重たい陶器みたいなのでできてるすりこ木に持ち替えて、欠片になった鉱石をすり鉢の凹凸に押し付けるように細かくしていく。

 最中さんはさらっとやってたけど、あんな風に軽々と砕けたりはしなくて、すりこ木がうまく回らなかったり、凹凸に押し付けた欠片がすり鉢の外に跳ね飛んで行ったりした。

 時間をかけて砂粒くらい細かくできたけど、一部分だけ塊が大きめだったりして中々うまくいかなかったけど、何とか一定以上まで細かくすることはできた。

 その細かくなった欠片の入ってるすり鉢の中に、次の薬剤を入れる。最中さんが入れてたのはサラサラなボシャフト剤だったから、瓶を軽く揺らして間違ってないか確認してから入れた。

 見てた時は感じなかったけど、ほんのりと薬臭い匂いがする。こんな匂いがするんだと思いながら、すり鉢の中を軽くかき混ぜた。最初はメランカリシャの粉が浮かんでたけど、かき混ぜるのをやめたらすぐに沈殿していくから、意外とメランカリシャの粉は重たいみたいだ。

 全部沈殿しきってから、最後に残ってた魔力溶ゲル化剤を入れる。魔力溶ゲル化剤の瓶の蓋を開けたら、結構鼻を突くような臭いが漂い始める。長時間嗅いでたら頭が痛くなりそうなそれを、鼻呼吸から口呼吸にして少しだけ匂いを感じるのを緩和しながらすり鉢の中に流していく。

 片手で瓶を傾けながら、もう片方の手ですりこ木を握ってかき混ぜる。最中さんが軽々とやっていたのを見てたけど、これ、めちゃくちゃ難しい……。

 一気に入れずに少しずつ流し込むのに集中したらかき混ぜる手がおろそかになるし、かき混ぜるのに集中したら、瓶の角度が急になったり平行になったりしちゃう。しかも、片手で最中さんみたいにすごい勢いではかき混ぜられなくて、すり鉢が傾きそうになったり、すりこ木がすり鉢の範囲外になったりした。

 そんな四苦八苦しつつ、魔力溶ゲル化剤を入れ終えた後は速度を上げてかき混ぜていると、徐々に最中さんのところで見たのと同じような変化が始まる。最初は、すり鉢の中が濁った薄黄色になって、それがどんどんと層になっていく。

 最中さんの時はすぐに層がなくなったけど、僕は混ぜるのが遅いのか、層がなくなり始めるまでに少し時間がかかる。しかも、層がなくなり始めたあたりからかき混ぜるすりこ木が重くなって、手早く混ぜるのが難しくなっていく。

 多分、粘度が上がってるのが理由なんだろうけど、どうやったらあんな素早くかき混ぜられるんだろう。何かコツでもあるのかな。

 まあ、今はわからないからとにかくかき混ぜる手は止めないようにする。最終的に層がなくなった辺りで手を止めて、すり鉢の中身を鑑定してみる。


 すり鉢入りの材木用接着剤(強)

 性質:雷属性 品質:D 売価:1000B

 材木専用の接着剤。調剤師によって作成された。

 材木以外に使用するとうまく接着できない場合がある。

 模範的な調剤レシピで作成されており、材木と植物系素材を接着するのに最適。

 鉱物系素材も接着できなくはないが、接着力は弱め。

 金属系素材に触れさせると、若干の腐食を引き起こすため、金属系素材とは相性が悪い。

 密閉された瓶に入っていないため、現在酸化して変質している。酸化が進むと、材木用接着剤の塊となり、使用できなくなる。


 なるほど、瓶で密閉しないと悪くなるのは納得だし、そうなったら使用できなくなるんだ。ふぅん。

 とりあえず、せっかくできたものを使えなくするのは嫌なので、出しておいた空の瓶の中にすり鉢から中身を流し込む。粘度があるのでなかなか入らなかったけど、すりこ木も使って最大限流し込んでから瓶の蓋を閉めた。

 蓋を閉めた瓶に対して鑑定すれば、最中さんにもらった材木用接着剤と品質以外はほとんど変わらない表示になったので、ひとまずほっと息をついた。

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