6.幻獣と加工と調剤と変人 16
外の窯から真鯛の刺身さんが運んでいたピザは、綺麗に一切れ一切れ細長い三角形にカットされた状態で皿に載せられてそれぞれの前に配膳されてた。
さっきはよく見てなかったけど、野菜やキノコ、それから加工された肉類と思われる具材が色とりどりにぷっくりと膨れた生地の上に並べられてて、僕はこれ1枚を食べきるのも大変そうだなと思う。
ニニのお皿にも同じような感じだけど、小さいニニのことを気遣って、ニニの手でも持てるくらいの小さいサイズにカットされたピザを何枚も載せてくれていた。
「キュィイ~」
「お前、よく食べるよね……」
ピザを目の前にして、ニニは嬉しそうな鳴き声を上げたかと思うと、早速と言わんばかりに小さい手で小さなピザを持ち上げてかじりついた。口周りをほんのりとトマトソースで赤くしてるから、後で拭いてあげよ。
ほかの人ももう食べ始めている様子なので、僕もピザに手を伸ばす。僕の手のひらよりもよっぽど大きなその一切れを、上の具材をこぼさないように慎重に持ち上げる。
そのままとんがってる端っこに噛みつけば、イベントが始まってから何度も感じたものが、口の中にいっぱい広がっていく。そういえば、ピザって見たことはあったけど、食べたのは初めてかもしれない。
ところで、生地がなかなか噛み切れないんだけど、どうしたらいいのかな。堅いわけじゃないんだけど、噛んでも噛んでも生地に歯が押し返されて切れてくれない……。
一切れをそのまま飲み込むのは難しいから、とりあえず噛み続けてたところを強めに噛みながら残りの部分を強めに引っ張ると、何とかちぎれてくれた。具材は若干こぼれたけど。
「……カナくん、もしかして噛み切れてない?」
「……ん」
どうも隣で見てたらしいカササギさんに呆れたように声をかけられる。事実だから頷いたら、無言でナイフとフォークを差し出される。……ピザってナイフとフォーク使ってもいいものなの?
でも、噛み切れないから仕方ないか。
ちょっとだけ千切れて欠けたピザを皿に戻して、素直にナイフとフォークで一口で飲み込めそうなくらいの大きさに切っていく。その間に、口の中に残った分を何とか喉の奥に流し込んで、飲み込む。
小さく切ったピザをしっかりと噛んでから飲み込む、を繰り返していると、初日に食べた肉と同じくらい顎が痛かった。もう噛むのつかれた。
「あ、生姜ぁ。この後ってまだ採掘行く感じ? もしいかないなら、ちょっとこっち手伝ってほしいんだけど」
若干残ったかけらをどうしようか悩んでると、テーブル端に座ってたれるん。さんが生姜さんにそう声をかけた。
生姜さんはそれに最中さんを見る。
「最中、どうする?」
「ボクはそれなりに収穫があったし、ボシャフトの件を研究調査したいから、カナカくん次第かな」
「……僕?」
なんで僕? 突然振られて、僕は驚いて最中さんを見る。最中さんは、ピザのチーズをうにょうにょと伸ばしながらこっちを見ていた。
「ボクは十分に素材があるし、どっちかっていうとカナカくんの薬剤の材料メインだったし」
「……さっきので、作れる?」
「作れるよ」
「じゃあ、僕も大丈夫」
「だって」
「れるん。、大丈夫そうだよ」
僕と最中さんの反応を見て、生姜さんがそう答えれば、れるん。さんは「助かるわ」とニコニコしながら茶色い何かを口に放り込んでいた。
何だろうと思ったら、テーブルの中央にいつの間にかクッキーみたいなのが置いてあって、それをつまんでたらしい。
いつの間にか自分の分を食べ終わったらしいニニが、「キュ、キュイー!」とそれに興味をもって欲しがってたから、一枚とって小さく割ってから渡してみた。ニニはそれをもっもっと頬張ったかと思うと、気に入ったのか勢いよく手にした分を食べ終えて、割った残りを「キュッ、キュィッ」と要求してきたので、ニニの皿にのせてやった。
ニニがクッキーを貪るように食べているのを確認しながら、僕もまだ残ってたピザのかけらをゆっくりと口に含んだ。
先に食べ終わってたカササギさんとカチュさん、れるん。さんとあの変な奴、それに生姜さんが加わった面々が「治水工事行ってくるね~」と若干のんきな様子で食堂を後にする。
治水工事ってそんな気軽にすることじゃないと思うんだけど、まだ二日しか経ってないのに、カササギさんたちだもんなって感想が自然と浮かんでくるあたり、この人たちってきっと普通じゃないんだろうなって思う。
「さて、ボクも工房に行こうかな。カナカくん、調合したくなったら調剤工房までおいでね」
カササギさんたちを見送ってたかと思うと、最中さんがそう言って席を立つ。その手に、一抱えくらいありそうな大きさのバスケットがあって、そこから見える山のようなクッキー。……あれ、なんだろ。
僕は最中さんが出ていくのをみおくってから、まだ食べてるニニを眺めてた。ニニはその小さな体の一体どこにこんな量が入るんだろうってくらい食べるな。
そういえば、僕は食欲ってものをいつから気にしなくなったんだろうなぁとぼんやりニニを眺めてたら、何を思ったのか、ニニがかじりかけのクッキーを僕に向かって差し出してくる。
「キュイキュキュイー?」
「大丈夫、ニニが食べてるの見てただけ。僕はいらないよ」
差し出された添えをニニに押し返して断ると、ほんとに? と言わんばかりに首を傾げられたけど、大丈夫ともう一度押し返せば、ニニは食べるのに集中し直したみたいだった。
ニニのほっぺたが含んだクッキーでいっぱい名になってぷっくりと膨らんでる。ニニって頬袋あるのかなぁ。ちょっと突いてみたくなったけど、ニニの邪魔になるだろうからやめておこ。
ニニが食べ終わるまでそれから十分くらいかかった。食べ終わったニニは、満足げにお腹をぽんぽんと叩きながら、テーブルに仰向けに横たわってた。若干お腹がポッコリと出てるようにも見えるから、さすがに食べすぎなのかもしれない。
とりあえず、ニニをそのままテーブルの上で横にして置いたら邪魔になるだろうから、ニニを持ち上げて移動することする。
で、食堂を出てからどうしようかと考える。ニニは部屋においておけばいいかなと思ったけど、一匹きりにしたらどうなるかわかんないから、素直に持ち歩くことにする。
作業の続きは結局接着剤がないとパーツの量産をするだけになる。まあ、それでもいいといえばいいんだけど、どうせなら一個はちゃんと作り上げてから、パーツをもっと整えていきたい気持ちもある。
調剤工房って、たしか食堂の斜向かいだったよね。食堂の向かいには、廊下を挟んで並んだドアが二つある。初日にカササギさんに案内してもらったときに、鍛冶工房と調剤工房が並んでるって聞いた覚えがあるけど、どっちがどっちだったっけ。
ほんのりと、エントランスに近い方が調剤工房で、奥側にあるのが鍛冶工房だったような気がする。まあ、間違ってても間違えたと言えばいいし、鍛冶工房だったらだったで、四月朔日さんがいれば、金属の加工について教えてもらえばいいや。
そんな考えでエントランスに近い方のドアを開けた瞬間。
ドガアァァァンッ
耳を劈くような爆発音が室内から鳴り響いた。




