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OTRA VIDA  作者: 杜松沼 有瀬


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6.幻獣と加工と調剤と変人 13

 とりあえず、いつも通りにお風呂に入ろう。いつも通りにやってみて、駄目だった部分は、後でカササギさんにでも聞いてみよう。あの人も別に髪長いわけじゃないから、長い髪の洗い方は知らないかもしれないけど。

 シャワーカーテンの隙間からスペースを出て、バスタブの方に近づいていく。真っ白い陶器のバスタブの中を覗き込むと、お湯がバスタブの半分くらいまで溜まっていて、湯気が立ってる。手を入れてみると、お風呂として十分温かい温度だ。

「キュキュイー」

 鳴き声の方向を見ると、バスタブの縁に捕まって、つま先立ちでバスタブの中を覗こうとしてるニニがいた。お前、バランス崩したら床に真っ逆さまだけど?

 危ないなぁとニニをつかんでバスタブの中を見せてやる。興味深そうなニニを、そのままそっとバスタブのお湯に足先がつくくらいまで降ろせば、ニニは足先をお湯につけて、「キュゥイィ~」と若干とろけたような声で鳴いた。

 熱がってはいないみたいだから、とりあえず水で温度は下げなくても大丈夫そう。

 ニニをいったん台に戻して、室内を見回してみる。ニニをのせた台以外にも、少し離れた位置に高めの棚が備え付けられていて、その中に洗面器とか、お風呂の時に使える器具がいくつもおいてあった。

 その中から、ニニが十分浸かれるくらいの大きさの洗面器を取り出して、バスタブの中のお湯を洗面器半分くらいまで掬って、ニニをのせた台に、ニニの代わりにのせる。それから、ニニを洗面器の中に足からゆっくり入れてやると、ニニは洗面器の緩やかな縁に背中を預けて、でろんと溶けた。

 お湯の温さにニニの顔が完全に緩み切ってて、手足も投げ出されて野性を全く感じられない。気持ちよさに眠いのか、しぱしぱと瞬きしていたかと思うと、がっつり目を閉じて喉を鳴らしてる。喉なるんだ。

「ニニ、滑って溺れないようにね」

「キュゥゥイィ~」

 一応、そのままずるっていって溺れたら怖いから声を掛けたら、わかってると言いたげに頷いて見せたから、一旦ニニはそのままにしとく。後で一応ボディソープで洗おうとは思うけど。

 僕もちゃんと洗わないとなぁと思いながら、そもそもこのバスタブはどうやって使えばいいのかと悩む。シャワーのノズルは完全にバスタブの端に固定されてて動かせない。高さは僕の身長よりちょっと低いくらいにあるけど、向きもバスタブ側に向いてるから、バスタブの外では何もできなさそう。

 現実にもこういうのあるの? と思いながら、柄の長めのお揺れ入れられるやつ(何て名前なのか知らないや)でバスタブのお湯を掬ってかけ湯で軽く流す。足先は、少し冷えていたのかお湯がかかるとちょっとしみる様に熱さを感じたけど、何度かお湯をかけてなじませてから、バスタブに足を入れる。

 滑って転ばないようにと集中して、両足をお湯につけると何とも言えない感覚だった。元々バスタブに入っていたお湯はそこまでの量ではなかったので、僕の足の脛の真ん中あたりまでがお湯に沈んだ。

 バスタブの中に入って立つと、普段よりも少し視点が高くなるのがなんだかおかしかったけど、立ったままじゃ何もできないから、一旦バスタブの中に腰を下ろす。

 バスタブに座れば、おへその辺りまでは軽くお湯で覆われて、お尻からお腹がすごく温い。確か、半身浴っていうのを小耳に挟んだことがあるけど、これなら確かにちょっと長くお湯につかっててものぼせる確率は低そう。

 現実では毎日必要動作として入浴の時間はあったけど、こんなバスタブはなかったし、一人で入れるような場所ではなくて介助役も万が一のために必ず一緒にいたから、こうやって一人でお湯につかるのは本当にどれくらいぶりだかわからない。

 誰にも気兼ねすることなくお湯の中で足を延ばせるのって、なんかいいなぁと思いながら、ひとまず問題の髪の毛をどうするか考える。考えるけど、何も考えないでバスタブの中に座り込んだせいで、すでに髪の毛の毛先はお湯に浸かって濡れちゃってた。

 毛先だけだけど、結構がっつりとお湯に入っちゃって濡れてたのもあって、もういいかと思ってそのまま頭を洗ってみよう。バスタブに設置されてるシャワーの根元にあるハンドルを回す。

 シャワーヘッドから少しずつ水が出てきて、僕を通り過ぎた先に降り注いでいく。シャワーヘッドは僕の手のひらと同じくらいの大きさで結構大きくて、そこからあふれてくる水はすごく細かく細いから、水温を確かめるために伸ばした手に触れた時には、すごくやわらかく感じだ。水温は水を流し始めたばっかりなのに、もうあったかい。

 シャワーヘッドの位置は移動させられないから、自分の体を動かしてシャワーの水の下に移動する。お湯を浴びながら頭皮をまずほぐそうとして指を入れるけど、みつあみのせいで指がうまく通らない。

「んー……こうしたら……っ、痛った……」

 みつあみの隙間から指を差し込んでみるけど、付け根が指で引っ張られて鋭い痛みが走った。これは無理だ。みつあみを一回ほどいたらいけるのかな。とりあえずほどいてみるか。

「……えーっと、どうやってほどけばいいんだろ……毛先はどうなってんの? ……あ、なるほど、みつあみってこうなってるのか。じゃあ、こうすれば……あ、いけそう」

 片側のみつあみのつかんで、全体をじーっと眺めてみる。でも、どうしたらいいかわからなくて、毛先側を見てみれば、みつあみの部分がなくなってるところと、みつあみの部分の境目があった。そこをよく見れば、みつあみが三つの毛束を交互に交差させて編んでるのがわかる。だからみつあみなんだ、納得。

 で、それがわかれば構造からして、この毛束同士の交差をほぐせば、みつあみはほどける。それがわかれば難しくはない。根元からやったら絡まりそうだから、毛先からゆっくりとほどいていく。

 片方を根元までほどき終わって、もう片方も同じようにほどいてみたら、みつあみだった部分がうねうねうねっててちょっと面白かった。

 これで引っかかるところもないから、シャワーのお湯で頭皮を洗う。けど、髪の毛があると結構洗いづらい。長いせいで指の間で髪の毛が絡まっていくのは、どうしようもならない。

 前頭部から後頭部、側頭部も含めて2~3往復してしっかりともみほぐす。爪を立てず、指の腹で擦って垢を落としていく。それが終わったら、いつもはボディソープで軽く洗ってたんだけど、髪の毛があるときはどうしたらいいんだろう? シャンプーがあるのは知ってるけど、使ったことないしなぁ。

 分からないから、備え付けのボディソープを少しだけとって足元のお湯と混ぜて泡立てて、頭皮を洗おうとしてみたんだけど、髪の毛が邪魔になってうまく頭皮まで泡が届いていないような気もするけど、どうしようできないからそのまま継続する。ボディソープは増やしたくないから、何度も指を往復させて補う。

 これ以上はやっても変わらないかなって感じるまでやったら、泡をしっかりとシャワーで流す。頭皮に泡が残らないように、指先で髪の毛を軽くかき分けながら、ちゃんと頭皮の泡が流れるようにする。

 そうして頭は洗い終わったんだけど、髪の毛がお湯を含んですごく重たい。みんな、濡れた髪の毛ってどうしてるんだろう? 体にも張り付くし、結構困ると思うんだけど……。

 わからないからどうしようもなくて、もう髪の毛はそのままにして体を軽く洗っていく。バスタブの中で体を洗うのは少し違和感だったけど、そこ以外スペースがないから仕方がない。

 自分の体を洗い流した当たりで、元々溜まっていたお湯は気づいたら新しいものに入れ替わっていて、僕の足元のお湯は綺麗なお湯のままだった。どうなってるのかはわからないけど、これは快適かもしれない。

 シャワーをいったん止めてから、バスタブの縁によしかかって一息つく。おへそ辺りまでしかお湯がないから、手で軽く掬って上半身にかけて温かさを感じでいる辺りで、僕自身もニニと同じような体制になっていたことに気づいて笑いが込み上げた。

 少しだけお湯の温かさを堪能してから、僕は横の台の上の洗面器で寝てるニニをつまんでバスタブまで持ってくる。結構がっつり寝てるみたいで、ニニは僕が持ち上げたのに起きる気配がない。

 今のうちに洗っちゃお。人間用のボディソープはさすがにまずいと思って、ニニの体をお湯につけてから指先で毛の中の砂を払うように手洗いする。

 頭もやっても大丈夫かな? とりあえず顔だけお湯につけないようにしよ。

 顔をぬらさないようにやさしくお湯の中でニニの全身を洗い終えたら、ニニが起きないうちに洗面器のお湯を入れ替えて、新しいお湯に変えて、そのお湯に突っ込んだ。

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