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OTRA VIDA  作者: 杜松沼 有瀬


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6.幻獣と加工と調剤と変人 12

 真鯛(マダイ)の刺身さんに引っ張られるままに拠点の中に足を踏み入れると、足元からザリっとした音と感触がして、足元を見たら服や足が土やらなにやらで茶色く汚れていた。

 採掘の時に屈んだりしたときについたんだろうと思うけど、ここで土汚れを払ったらエントランスが土埃で汚れてしまう。これ、どうすればいいんだろうと考えていると、真鯛の刺身さんが不思議そうにこっちを見て、僕の足元を眺めてなるほど、と頷いた。

「あぁ、急に引き込んじゃったから……。それなら、拠点の個室に設置されてるシャワーブースで洗浄すればいいよ。お昼は鸞瑪(スズメ)たちが戻ってきてからだから、自室で少しゆっくりしてきたらどうだい? 戻ってきたら声をかけるから」

 シャワーブース? そんなのあったっけと思い返すけど、個室は仕切りのないワンルームだった記憶しかない。どういうことだろう。

「そんなのあった?」

「個室の入り口付近に、シャワーブース用のパネルがあったはずだよ。えーっと、正式名称なんだったかな、クリーンブース? とりあえず、それを操作すればいけるよ」

 若干あいまいな真鯛の刺身さんの説明に、本当に大丈夫かな、と少々不安にもなったけど、さすがに全くのでたらめをいう人じゃないだろうと思いなおして、「試してみます」と答える。

 困ったら声をかけとくれ。と言い置いて、真鯛の刺身さんは食堂の方へと進んでいく。その後姿を見送ってから、僕は真鯛の刺身さんに聞いたことを試してみようと三階にある個室に向かって階段を上り始めた。

 階段がじゃりじゃりするのに少し嫌な気持ちになりながら、一番手前にある自分の部屋に入る。さっき、真鯛の刺身さんは入り口付近にパネルがあるって言ってたっけ。

 部屋に入ってから、出入り口のドアを振り返る。すると、ドアの向かって左側の壁に、インターホンのモニターくらいの大きさのパネルがついてるのに気が付いた。入り口ドアの辺りなんてよく見たりしないから気づかなかった。

 ただ、このパネルはつるりとしていて、操作するような場所は特に見えない。これ、どう操作すればいいんだろう。それとも、見えてるのは操作パネルのカバーか何かなのかな。

 つんつんとつるりとしたそのパネルを突いてみると、ブンッという独特の音がして、パネルの上にホログラムの操作パネルが浮かび上がった。

 なるほど、操作パネルはこうなってたのかと思いながらその操作パネルを見ると、クリーンパネルと表示されていて、いくつかの操作ボタンがある。一番右にある大きなボタンは決定ボタンらしくて、左側にある小さいボタンで設定したものを確定させるっぽい。

 左側には、右の大きなボタンを三分割したくらいのサイズのものが二列三段に並んでいて、左列にはクリーン小、クリーン大とマニュアル、右列には浴槽ブース使用無しオート、有オート、有マニュアルとあった。

 一瞬なんのこっちゃ? と思ったけど、おそらくこのオートとマニュアルは、そのまま全自動と手動という意味でいいんだと思う。ただ、結局これで何ができるのかがいまいちわかんなかった。

 どこかにHELPでもないかと思って眺めてみるけど、それらしいものは見当たらない。まあ、書いてることも怖いことじゃなさそうだし、一先ず触ってみよう。それにしても、浴槽ブースの、有無の意味は何だろう。あと、オートって何をオート?

 とりあえず、両方マニュアルのボタンを押して、決定ボタンを押す。ボタンを押し下げた瞬間、僕はニニと一緒にオフホワイトと水色のタイルで構成された、小さな部屋にいた。

 なんだこれ。そう思ったけど、部屋の中央になんだか豪華そうなバスタブがおいてあったことで、ここが浴槽ブースなんだって理解できた。バスタブから少し離れたところに脱衣スペースと思われるシャワーカーテンで仕切れるスペースがあって、そこは水濡れ対策にか少しだけ高い隙間がいっぱいある台が置いてあり、その上には脱いだ服を入れたり着替えを入れたりできる籠が置いてあった。

 バスタブは床に接着されてるのじゃなくて、人一人が入れそうなサイズの陶器の浴槽を、小さい四つ足で持ち上げてた。バスタブを支えてる四つ足や、バスタブの縁とかのワンポイントが金に装飾されてるのが、豪華に見える要因だと思う。そのバスタブにはシャワーヘッドも備え付けられていて、シャワーはそこで使うんだということが分かった。

 ここで、マニュアルの意味に納得する。要は、普通に入浴ができるという事みたいだ。それで、この入浴スペースは常時使うわけじゃないから、あの操作パネルを使わないと来れないようになってるってことだと思う。

 ゲームの中だから、お風呂とかそういうものについて全く意識してなかったけど、こんなところも作りこまれてるんだと驚かされた。

 そして、お風呂があることを知ると、このゲームの中で何日間入浴してないんだろうと気になってくる。そこまで綺麗好きってわけじゃないけど、それでも何日もお風呂に入ってないのはさすがにどうかと思う。

「……ニニ、お前、水洗いしても大丈夫?」

「キュィ!?」

 お風呂に入るなら、ついでにニニも丸洗いしちゃおうかな。さっき石屑の山にもぐってたから、多分細かい砂埃とかが毛の隙間隙間に入り込んでるっぽいし。

 僕が聞いた時点では何言いだすんだと言わんばかりの反応だったけど、ニニも自分の体をくしくしと小さい手でまさぐってみて、こりゃいかん。となったのか、素直に、神妙そうに「キュイィ」と頷いて見せた。

 さすがにニニも砂埃だらけの体は嫌だったらしい。一応自分の手で砂埃を払っては見てるみたいだけど、うまくいかなくて若干しょんぼりしているのを、先にバスタブの近くにある、ボディソープなんかをおけるような台に載せて、僕はひとまずシャワーカーテンで仕切られた空間へと足を進める。

 その空間は大人一人が余裕をもって着替えられるだけのスペースがあって、休憩もできるようにか、一人掛けのソファと、靴を置くための小さなケースもあった。

 まずは靴を脱いでケースに入れて、上着を脱ぐ。服を入れられる網かごに軽くたたんでから入れていく。もらった服を脱いで、インナーも脱いでから自分の体を見下ろしてみると、本当にどうやってるんだろうなぁと思うくらい、現実で毎日見ていた自分の体と変わらなく見えた。

 さすがに傷跡はない。でも、ほくろはある。どうやって反映させたんだろう、これ。服を着てたら絶対に見えない場所にあるほくろや、背中にあるはずの傷跡がある辺りを指先で辿って確認しながら関心するばかりだ。

「あ、髪の毛ってどうすればいいんだろう……」

 服を脱いだせいで直接肌に触れた髪の毛のくすぐったさに、一先ずぐっとひとまとめにつかんで、若干途方にくれる。頭を洗ったことはあっても、髪の毛を洗った経験はほとんどなくて、しかもこんなに長い髪の毛は、どうやって洗えばいいのか皆目見当もつかない。みつあみみたいな髪飾りも、改めて触ってみたら普通に僕の頭から生えてる髪の毛が髪飾りみたいになってるだけだったし、これも洗うときどうすればいいのか……。

 もしかして、オートにした方がよかった……? うぅ、失敗したかもしれない。

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