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事件発生から二日間に渡って、楠警部と彼の部下たちは動物園内および、その周辺で捜査を続けた。しかし、園内からは有力な手がかりは発見できず、周辺の聞き込みも成果はでなかった。
それでも三日目には被害者の身元が判明した。名前は三上大星。隣県に住む三十五才の無職の男性だった。
楠警部が驚いたのは、この男性は、ここ数ヶ月間、世間を騒がせている窃盗グループ『ホロームーン』のメンバーの一人だったことだ。
『ホロームーン』はD市とその近隣のM市、A市を中心に活動している窃盗犯で、主に貴金属店や富豪の豪邸に侵入して、宝石や絵画、歴史的な美術品などをターゲットにしている。
被害者の男性が『ホロームーン』のメンバーであると断定された根拠は、被害者宅に、『ホロームーン』が以前、盗んだ宝石が複数見つかったこと、また『ホロームーン』の犯行と思われる事件の計画を記したノートが見つかったことからくだされたものである。
動物園で事件が起きた日の前日の午後十一時半過ぎ、D市駅前にある宝石店で強盗事件が発生していた。被害は店内に展示されていたダイヤモンドなど数点の宝石で、犯人は三人組、おそらくは『ホロームーン』の犯行であると考えられた。
というのは『ホロームーン』は犯行現場に、雲に半分隠れた月が描かれたカードを残していくことで、彼らの犯行であることを示すのだが、その宝石店にもそのカードが残されていた。さらに、彼らは黒いコートに身を包んで行動するのだが、防犯カメラに映っていた三人組はやはり黒いコートを着ていたからである。
そこで楠警部は『ホロームーン』の犯行を過去に遡って調べてみた。すると、二ヶ月前にホロームーンは北芝という大手電機メーカーのオフィスに侵入して、社長室にある有名な絵画を盗み出していた。その絵画は現在も行方不明だが、その時に試作品のアニマリンガルも盗まれていることが分かった。
盗まれたアニマリンガルは二つで、それ以外に試作品はなく、まだ商品が市場に出回っていないことも分かった。つまり、三日前に園内で一つが見つかっているので、捨てたり誰かに譲渡したりしていなければ、ホロームーンのメンバーがもう一つ持っていることになる。
成果といえるのはそれだけで、捜査はほぼ膠着状態だった。




