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ゴキブリを操る超能力に目覚めたんだけど  作者: 唯之助


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核の炎(一)

 ゴキブリの拡散とは別に、世界情勢は年々不安定化していた。


 そして二〇五〇年。九月。

 それが起こった。


 世界崩壊の始まりは南シナ海だった。


 台湾海峡を巡る緊張は、二〇四〇年代を通じて断続的にエスカレートしていた。中国の軍事力増強。米国の同盟網再編。台湾の防衛力強化。外交チャネルは開かれていたが、対話の実質は年々薄くなっていた。


 九月十四日。中国人民解放軍が台湾北部への上陸作戦を開始した。


 米第七艦隊が台湾海峡に展開。日本の自衛隊は後方支援態勢に入った。NATO諸国が声明を発表。ロシアは「中立」を宣言したが、極東の軍を増強させた。


 十月。通常戦力による戦闘が激化した。台湾海峡で米中の駆逐艦が衝突し、双方に死者が出た。中国の対艦弾道ミサイルが米空母ジョージ・ワシントンに命中。空母は大破したが沈没は免れた。米軍は報復として中国本土の軍事施設を巡航ミサイルで攻撃した。


 十一月三日。


 中国の早期警戒衛星が、グアムから発射された米軍の巡航ミサイルの赤外線シグナルを検知した。通常弾頭の巡航ミサイルだった。だが、中国側の判定システムは、そのシグナルパターンを核弾頭搭載型のトマホークと誤認した。


 北京の中央軍事委員会は十二分間の協議の後、報復的核使用を決定した。


 十一月三日午前十一時十七分(北京時間)。東風41型大陸間弾道ミサイルが発射された。目標はグアムのアンダーセン空軍基地。


 同時に、戦術核弾頭を搭載した東風26が沖縄の嘉手納基地に向けて発射された。


 米国の報復は自動的に発動した。SIOP(単一統合作戦計画)に基づき、大陸間弾道ミサイルと潜水艦発射弾道ミサイルが、中国の核戦力、指揮系統、主要軍事施設に向けて発射された。


 三十分後。グアム島が蒸発した。百五十キロトンの核爆発。島の南端にあった基地は、直径二キロメートルのクレーターに変わった。


 四十五分後。嘉手納基地に二十キロトンの戦術核が着弾。那覇市は爆風と放射性降下物で壊滅した。


 一時間後。中国の寧夏回族自治区、青海省、甘粛省の各ミサイルサイロに、米軍のW87核弾頭が着弾。北京、上海、広州の軍事指揮系統が巡航ミサイルで攻撃された。


 ロシアが動いた。


 ロシアは当初「中立」を標榜していたが、米軍の核ミサイルの軌道がシベリア上空を通過したことで、自国への攻撃と誤認するリスクが生じた。ロシア指導部は、「予防的報復」として欧州のNATO軍事施設への核攻撃を決定した。


 ドイツのラムシュタイン空軍基地。イギリスのレイクンヒース空軍基地。ポーランドのレジオノヴォ・ミサイル防衛基地。


 NATOは条約第五条を発動。米英仏の核がロシアに向けて発射された。


 十一月三日の夜が明ける前に、千二百発以上の核弾頭が大気圏を横切った。


 人類史上最も短い世界大戦が始まり、最も長い夜が訪れた。



 日本列島への直接的な核攻撃は、嘉手納のほかに五発。横田基地(東京)、三沢基地(青森)、岩国基地(山口)、佐世保基地(長崎)、横須賀基地(神奈川)。


 横田基地への着弾は十一月三日午後零時二十三分。百五十キロトン。爆心地から半径三キロメートル以内は完全破壊。福生市、昭島市、立川市の大半が消滅した。多摩地区全域で建物の倒壊と火災。東京都心は爆風の直撃を免れたが、風向きによって放射性降下物が新宿、池袋方面に降り注いだ。


 横須賀基地への着弾はその十五分後。三浦半島の先端が抉り取られた。


 秩父の山奥では、午後零時半頃、北西の空に閃光が見えた。


 環は畑にいた。大根を抜いている最中だった。


 閃光は一瞬で、音はなかった。空が白く光り、すぐに消えた。雷かと思った。だが、空は晴れていた。


 数分後、地面が微かに揺れた。遠い振動。地震とは違う。もっと鈍い、単発の振動。


 環は立ち上がり、北西の空を見た。地平線の向こう──山並みの向こう──に、白い雲とも煙ともつかないものが立ち上っている。キノコのような形。


 心臓が凍りついた。


 それが何であるか、環にはすぐにわかった。


 蔵に走った。扉を開ける。個体たちが不安そうに身を寄せ合っていた。振動を感じたのだろう。ハナが環に駆け寄ってきた。


「たまき。なに。ゆれた」


「大丈夫。ここは大丈夫」


 大丈夫ではないかもしれなかった。だが、秩父の山奥は横田から八十キロ以上離れている。爆風は届かない。放射性降下物は風向き次第だが、山に囲まれた谷間には直接降りにくい。


 母屋に戻り、テレビをつけた。映らなかった。ラジオ。雑音だけ。スマートフォン。圏外。


 電磁パルスだ。核爆発による電磁パルスが、電子機器を焼いた。


 環は窓際に座り、山の向こうの空を見つめた。キノコ雲は広がり、やがて横に流れ始めた。風は東から西。放射性降下物は、秩父には来ない方向に流れている。


 ひとまず、安全だ。ひとまず。


 その夜、空が暗くなった。普通の夜の暗さではない。大気中に巻き上げられた煤塵が、星の光を遮っている。


 環は蔵の中で、個体たちと一緒に過ごした。毛布をかけ、ヒーターをつけ──電気はまだ来ていた。秩父の水力発電所が無事だったのだ──夜を越えた。


 翌日も、翌々日も、空は暗いままだった。

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