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 ①⑧⑥

安原智治(やすはらともはる) 28歳


大型チェーン店100円ショップの店長であり、盗撮魔。そして痴漢の常習犯だ。


安原の存在を知ったのは偶然だった。スナック天使のママを張っていた頃、開店までの時間潰しの為、偶々、入った古びた喫茶店に安原は数人の仲間といた。


店内に入るなり、顔をつけ合わしヒソヒソと会話する姿が、目に止まり気になった圭介はその席の近くに座った。ホットコーヒーを注文した後、安原達の会話に耳をそば立てた。時折、何かを見せ合い、嘲笑したり、互いを褒め合ったりする言葉に直感的に嫌悪を感じた。


会話に集中しているとどうやら安原達はチームで痴漢行為に及んでいるらしかった。通勤ラッシュ時の都内へ向かう電車が安原達の主戦場らしい。


安原意外の1人が言った。


「時間に融通が利く安原さんが羨ましいです」


「まぁそうだけど、その分、1人の時が多いから捕まるリスクも高いからね」


安原は誇らしげに語った。


この会話の時点で圭介は安原達がチームを組み何をしているかを理解した。


この時は痴漢程度で、と思ってリストには加えてはいなかった。だが、この後、偶然にも数回に渡り、安原達と遭遇し、このような会話を耳にした。その時、安原は女子中学生の足に精液をかけた事を自慢していた。スマホを持ち出しその時、映したであろう、映像を仲間に見せびらかした。感嘆の息遣いと仲間達からの尊敬の眼差しを受けた安原は、誇らしげにアイスコーヒーのグラスを持ちストローを口に咥えた。その時にみせた爛々とした眼差しに圭介は嫌悪を覚えたのだ。それで安原をリストアップし、住所を特定し素性を洗った。


1週間から10日程、張り込み、安原のルーティンを把握したが、いつしかその存在すら忘れてしまっていた。


だが偶然にも千切ったノートには安原の事が書かれてあった。改めて読み直し、あの時見た表情を思い出した圭介は、安原殺害に何ら迷いはなかった。


そして圭介は車で安原の住居があるマンションへ向けて車を走らせた。


長時間、路駐する訳にもいかず、一旦、パーキングに入れ、職場である100円ショップへ向かった。

圭介の調べによると、今日は出勤している筈だった。


思った通り店舗内で安原を確認した圭介は、安原が帰宅する時間まで、駅前のあの映画館で時間を潰した。


深夜11時40分。安原が自宅マンションへと帰宅して来た。


車は路駐してある。安原はイヤホンをつけスマホを片手に画面を見ていた。


表通り面したマンション付近に、安原以外に人の姿はない。付近に飲食店もないせいか、街頭も少なかった。

道路に面した植木も伸び放題だった。その前にしゃがんでいても、パッと見、人がいても見分けは出来ないだろう。


ノタノタと歩く安原は自宅マンション前で、いきなり足を止めた。部屋に戻らずガードレールに腰掛け耳からイヤホンを外し、画面を打ち始めた。痴漢仲間との連絡だろうか。


辺りが暗く、圭介は安原のその表情までは確認出来なかった。だがそんな事は圭介には関係なかった。

静かに助手席から降りる。そっとドアを閉めた。

歩道の方へと足を踏み出した瞬間、背後に気配を感じ取った。圭介は踏み出した足を止め、ケースに差した手斧へ手を伸ばし同時に後ろを振り返った。暗がりの為、ハッキリと顔は認識出来なかった。だが、そこにいるのは骨格と雰囲気で男だというのは理解出来た。


「お久しぶりです」


いきなりそう言われて、圭介はより警戒心を高めた。手斧の柄を握る手に力が入る。


男はいい、更に圭介へと近づいて来た。安原がマンションへ入る姿が横目に見えた。内心、舌打ちをしながら圭介は自身と対峙している男を見やった。お久しぶりですという言葉から、恐らくラピッドの人間であるのは、ほぼ間違いない。警戒心はそのままに圭介は口を開いた。


「どちら様でしょう?」


未だハッキリと顔を視認出来ない男へ向けて圭介は言った。


「私ですよ」


男がいい、更に圭介へと近寄った。


その顔を見て、圭介は手斧を握っていた手の力を抜いた。


「あぁ」


男は静岡の処理班の人間だった。英永剛の死体を含めた2体の処理を圭介が請け負った時、会った男だ。


咄嗟に佐江取締役からの電話を思い出す。

英永剛の事は黙っていたがその連絡の直後に、こうして静岡から現れたのは、何かしら意味がある筈だ。


恐らく死体の件でラピッドから連絡が来た事を確認する為に、圭介の前に現れたのだろう。圭介は解いた警戒心を再び、戻した。


「お久しぶりです」


さほど久しくもないが、圭介はそう言った。


「こんな所まで、どうされたのですか?」


「いえね。今日私の知人の結婚式がありまして、とは言ってもそいつは4度目なんですが、それで千葉まで来てたんです。で、ホテルで休んでいたんですが、眠れなくてですね。小腹も空いたので買い物へ出掛けたんです。その時、偶然、見覚えのある車を目にしたものでして。それで、一応、ナンバーを見たら何となく覚えていた番号でしたので、もしやと思い、近寄ってみたんです」


嘘だ、と圭介は思った。ラピッドから死体処理の依頼が来た場合、毎回では無いが、車のナンバーは交換するようにしている。


静岡へ出向いた1回目、そして2回目も共にナンバーは他県の物だった筈だ。正直、1回目は記憶が曖昧だが、遠出する時は、決まって他県ナンバーに付け替えている。地元のナンバーは付けていない筈だ。2回目は確実に他県に付け替えた記憶がある。どちらにせよ、現在、地元のナンバーを付けている車を見て処理班の男が、何となくであろうが覚えている筈がなかった。


ナンバーが似通った数字の配列だったとしても、やはり男の言動は疑わしかった。それに余りにも出会うタイミングが良すぎだ。


昼間や夕方ならまだしも、こんな深夜に出会すなんて普通は有り得ないのではないか。この男には何かしらの企みがあり、圭介の前にこうして現れたのだろうと思った。


「そうでしたか。この辺りはコンビニも少ないですから夜中にお腹が空くと何かと不便ですよ」


「私の地元に比べたら、全然ですよ。歩いていける距離にコンビニなんてありませんから」


男はいい、両腕を後ろに回したまま圭介に歩み寄った。

その手に何か持っている可能性を含め、圭介は助手席のドアの上に手をかけた。半ドアの隙間に指を差し込む。男が向かって来た時、ドアを開き、防御しようと圭介は考えていた。その為の指だった。


「仲野部さんは、どうしてここに?」


間違いない。この男は何かを企みこうして自分の前へと現れた。それに自分は、この男に名前を名乗った記憶はなかった。なのにこいつは俺の名前を呼んだ。処理班の人間だから、ラピッドから処理人の名前を知らされている可能性は充分考えられたが、だからといって今、油断し、安易に近づくのは危険だ。圭介の直感がそう告げていた。


「お茶でもしにファミレスでも行きましょうか」


圭介はいい、運転席側へ体重を移動した。


「いいですね」


処理班の男はいい、更に擦り寄って来た。


「なら、助手席へ乗って下さい」


圭介はいい、手斧に手をかけた。と同時に背後で砂利を踏むような音がした。圭介は素早く助手席のドアを開くと同時に手斧の引き抜き、車のボンネットに飛び乗った。


その僅かな瞬間に、圭介が立っていた場所へ背後側から男が突っ込んで来た。それ寸前に交わした圭介は素早く手斧の振り下ろした。


刃は男の延髄へ深く突き刺さると助手席のドアに頭からぶつかった。圭介は処理班の男へ視線へ向けた。


その男は助手席のドアを閉めようとしていた。圭介は顔面へ向け爪先で蹴り上げた。


足を引くと地面へずり落ちる太った男の背に乗り、助手席のドアを力の限り押した。ドアは倒れかけた処理班の男の身体を挟み、反動で再び開いた。


圭介は踏んでいる男から手斧の引き抜くと血飛沫が舞う中、ドアを押し込み、埋めき声を上げながら車へ持たれている処理班の男の肩へと力の限り手斧の振り落とした。


そしてドアを押したまま、男の側へ移動しそのまま後部座席に男を押し込んだ。そして既に息絶えている太った男も、同じように後部座席へと引きずり、無理矢理に押し込んだ。


後部と助手席のドアを閉め、運転席へ飛び乗った。素早くエンジンをかけ、慌てるなと言い聞かせた。


右へとウインカーを出して、その場からゆっくりと車を発進させた。




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