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 ①⑧④

弾正夢子。この名前に取り憑かれ30年近くが経過した。


未だ現役を名乗っているとはいえ、自分はとっくの昔から老いぼれている。夢子と結婚しいつしか浮気され、浮気相手がシェフであったあの時、それでも自分は夢子を信じていた。ちょっとした気の迷いに過ぎない、そう思っていた。だがそれは大きな間違いだった。

夢子は浮気相手のシェフを唆し、俺を殺しに来た。

当然、2人共、返り討ちにしたが、その時負傷した傷は未だ癒える事はなかった。左腕の神経がやられてしまい殆ど動かせなくなった。その事実はラピッドには隠し通している。言えば依頼が無くなるからだ。


人殺しを裏の生業にして生きて40年近くなるが、

自分が追い求めて来たものが、納得し満足出来たのは吉田萌くらいだった。あの死体は美しかった。半身だけペースト状の死体など世界広しといえど存在し得ない。それ程の傑作だった。


だから今度は全身ペースト状の死体を作り、要するに粘土を捏ねるようなものではあるが、作ってみたかった。


だが、ここ数回の依頼では加齢と腕のせいか、シェフとしてもミスが増え、処理班の人間に助けられてばかりだった。その中の1人、広田孝三とはいつしか旧知の中となっていった。広田も静岡県内に住まいを持ち、独り身で郵便局に勤めていた。表の仕事もそうだが、育った環境も永剛と似通っていた。だからゴミ屋敷、ゴキブリ屋敷の自分の家をみても、全く顔色を変えなかった。変えなかった所か、この環境が懐かしいですと楽しそうにする程の男だった。それが永剛達の距離を縮めるきっかけとなった。2人は、特に広田の方からプライベートで永剛の家をちょくちょく訪れるようになり、より仲が深まっていった。いつしか本音を語り合う程になると、広田から殺してやりたいリストを見せられた。


とてもじゃないがその数をこなすのは残りの人生を使っても出来ない程の数だった。全員殺すとしたら、爆弾1つじゃ足りない。それくらい多かった。


「なんか気に食わない」


リストの殆どがそんなどうでもいい理由だった。

その中に、一時期、千葉県内で起きた連続殺人事件の容疑者も含まれていた。蛇の道は蛇では無いが、警察内部ではその殺人鬼は鰐男と呼ばれているようだった。

そしてどうやって調べたのかわからないが、

広田はその鰐男がラピッドの人間で、シェフだという。


「大体の目星はついてんだ」


とある夜、広田は広田の嫌いな人間を殺害した永剛が畳の上で足を擦り潰している背中へ向かってそう言った。


「千葉県内のラピッドの人間は大体把握出来たんだ。シェフも処理人も、勿論、処理班もね」


20歳は歳上の永剛に向かって広田は最初からタメ口だった。こいつ仕事仲間だとはいえ、シェフを恐れないのか?と思ったが、かえってそれが良かったのか、それから永剛はやたら広田を気にかけるようになったのだ。


「なんて言ったって、そいつ家に鰐を飼ってるし、シェフと処理人の両刀だという噂もあるくらいだし。だからそいつで間違いないと思うんだ」


「孝三は何故、鰐男が嫌いなんだ?」


「なんか、鰐男とかアリゲーターマンって別称までついてヒーローぶってるじゃん?そもそも人殺しがヒーローなわけないし。人殺しは圧倒的な恐れを他者に植え付けるものだよ。絶対的な悪、それが殺人でないとダメなんだ。けど、そいつは違う。死体を飾ったりして恐怖を演出してるみたいだけど、永剛さんとは比べ物にならないくらい下等で、下劣だ。だから嫌い」


これだけ広田が饒舌になるのは、鰐男を殺そうという前振りに他ならなかった。これがいつものパターンだからだ。この会話の数ヶ月後、広田はラピッドからの依頼で殺害した人間を処理させる為に呼んだ処理人、つまり仲野部圭介と2度目となる接触する事が出来た。死体を渡す前、受け取りにくるのが鰐男だと広田は断言していた。何故なら、処理人の深刻な人材不足の為、受け取りに来れる処理人の数が限られる為だからだった。


その時、広田は永剛と体躯や顔が似た男を前もって殺害しようと持ちかけていた。理由は過去に永剛が殺害しペースト状にした死体の処理をその鰐男に手渡した時、やたらと永剛の事や名前を知りたがっていたからだと。

そこで予定にないシェフの死体、それが英永剛だと知ったら鰐男はどうするだろう?どう反応するだろう?

広田はそれを見たがっていた。その為の準備は全て広田が整えた。勿論、永剛に似た男の殺害もだ。


そうして広田は鰐男に2体の死体を手渡し、その1人が英永剛その人だと告げた。どういう理由で自分が殺された事になったのか、その詳細までは教えてくれなかった。


「まあ、そんなのはどうだって良いじゃない。重要なのは、鰐男、仲野部圭介が永剛さんが死んだと聞いた時、ホッとしていたって事なんだよ。それはつまり、永剛さんを畏怖していた証でしょ?シェフってのは他のシェフの事をさほど気にかけないし、恐れもしない。けど、仲野部圭介は、あ、鰐男ね。はそう感じていたよ。俺は何でだろう?って思ったね。で、よく考えた結果、鰐男はラピッドに対し、何かしら後ろめたい事があるんじゃないかと思ったんだ。それがバレたら、ひょっとしたら永剛さんに殺されてしまう、そういう想像があのような態度に現れた、と俺は思ったね。だからさ、永剛さん、世の中の為、千葉県民の安眠の為、鰐男をやらない?」





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