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 ①⑧①

田舎町の老人は家の施錠をしている者はそう多くはない。昔からの名残りか近所も顔見知りばかりで安心しているからだろう。


理由は知らないが、年寄りにはありがちだった。夢子が嫌っているこのジジイもその例外に漏れなかった。

玄関は閉まっていたが、裏戸はしっかり開いていた。


2人は裏戸が開いている事を確かめてから、しばらくの間、近くに止めた車の中で待機していた。田舎の老人の就寝はかなり早いので12時を過ぎれば完全に深い眠りの中へ落ちている筈だった。


その時間を見計らって2人は車を降りた。鎮まり返った畑や山々を背に建っている平屋の一軒家までの舗装された緩やかな登りの細道を進む。


田舎だから街灯などはないが、月明かりだけで充分な明るさがあり、見えないという事はなかった。ポツリポツリと点在している民家も既に明かりがついているものはない。


永剛は夢子の手を握りながら家の裏へと回った。安っぽい茶色のアルミ製の戸の前に立つ。用意していた革手袋をつけ、もう一つを夢子に渡す。ノブを回すと音もなく簡単に開いた。


夢子にここで待っているように伝えると、夢子はそれを拒んだ。


「お爺が死ぬ所、見てみたいし」


そういうと握った手に力を入れた。それは永剛の手を離さないという、夢子の意思表示だった。


靴のまま裏戸から入り、息を潜めた。平屋だから寝ているのは一階のどこかで間違いない。


大体、田舎の家というものは、居間以外に仏間があったりする。そこで就寝しているというのは考え難かった。客人などが来た場合、その仏間へ通す事があるからだ。となれば別の部屋と考えるのが普通だろう。


裏戸に面した場所にはキッチンがあった。

流し台の中には積み重ねられた食器類が洗われず放置されていた。蛇口から水滴が、ポツリポツリと茶碗の上へ落ちている。


そんなキッチンを抜けるとリビングがあり、一年中、出しっぱなしと思われる炬燵が置かれてあった。ジジイはその中に入り、高鼾を上げながら眠っていた。炬燵の上には一升瓶や、湯呑み茶碗、そして鍋と崩れた小銭の山があった。


ジジイは喫茶店に向かう時、この小銭の中から幾らか持って出かけるに違いない。そして唾液まみれにした後で、夢子に手渡すのだ。


それを想像すると胸がムカムカし始めた。

苛立ちと腹立たしさの両方が腹の中で沸騰していく。

永剛はジジイを殺す為に持って来ていたナイフをポケットから取り出した。それを夢子が止めた。


首を横に振り、自分の口を両手で押さえる振りをした。そして息が出来なくて苦しんでる様をパントマイムで表現した。


つまりジジイは刺し殺すのではなく窒息死させろという事らしい。永剛は炬燵からはみ出ているジジイの上半身の上を跨いだ。両脚を脇付近に置く。

座ろうとした時、夢子が永剛の胸を突いた。


再びパントマイムをし始めた。両手で首を絞める振りをした後、首を横に振り、今度は両手を口と鼻に当て、頷いた。つまり口と鼻を押さえつけ窒息死させろというのだ。これは簡単な事じゃない。


押さえつけても抗い顔を動かせば息は吸える。おまけに濡れたタオルやハンカチを使うわけじゃないのだ。永剛は首を横に振った。すると夢子はポケットからハンカチを取り出しそれを口の中に入れる真似をした。


確かにハンカチを喉奥へ詰め、両手で鼻と口を押さえればいけるかも知れない。おまけにこのジジイは高齢だ。襲われた事に驚き心臓麻痺を起こす可能性だって考えられる。


永剛は夢子に頷いてみせ、ハンカチを受け取った。それを丸めながら、高鼾をかいているジジイを見下ろした。意外と簡単に死ぬかも知れないと思った。


永剛は腰を屈め、丸めたハンカチを持った手を顔に近づける。両脚で飛び上がりそのままジジイの胸付近へ尻から着地した。


気分よく寝ている時に、いきなり重いものが身体にのしかかったジジイは、牛が鳴くような声を上げた。


その瞬間を見逃さず、永剛は丸めたハンカチをジジイの口の中に押し込んだ。ジジイは身体を襲った衝撃といきなりの異物によってパニックに陥り呼吸困難を起こしかけた。


永剛はそのまま両手でジジイの鼻と口を塞ぎ顔を押さえつけた。ジジイは身体を起こそうと必死に足掻くが、寝起きに80キロの男にのしかかられて、簡単に払い除けられるわけがない。


若く鍛えていたとしてもそう上手くはいかないだろう。

永剛は上半身を前のめりに傾け全体重を両腕に乗せ力の限りジジイの顔を押さえつけた。ジジイは両手を振り乱し永剛の身体を殴打する。


が、その力は全くもって弱々しかった。

永剛の服を鷲掴み、身体から引き剥がそうと足掻く。が、その力も直ぐに弱くなっていった。


永剛の衣服を掴んだ指から緩やかに力が抜け落ちていく。そんなジジイの両でが崩れるように落ちるのを永剛は視界の隅で捉えた。


そしてトドメと言わんばかりの力でジジイの顔を押さえつけた。ジジイの動きが完全に止まると永剛は口からハンカチを取り出し、ゆっくりと立ち上がった。夢子を見ると顔の前で、両の手の平を合わせていた。


まるでその姿は何かを必死に願い、すがるように祈っている人のようだった。


カーテンの隙間から入る僅かな月明かりに、夢子の顔が照らされる。瞳は爛々と輝き、その口は震えていた。


「死んだな」


永剛が言うと夢子はいきなり抱きついて来た。

股間へ手を当てジーンズの上からペニスを弄った。濡れた舌で永剛の顔を舐め回す。自ら服を脱ぎ、裸になると永剛の服を半ば、引き裂くように脱がして行った。


「冥土の土産くらいあげなきゃ」


夢子がそう囁いた。


「冥土の土産?」


「うん。ジジイに私達が気持ちよくしている姿を、見せてあげたいの」


「見せてあげたいって……もう死んでるから見たくても見れないよ」


「そんな事ないよ。身体から抜けていく魂は、彗星のように尾を引いてるの。その最後尾が視点なの。生きてた記憶より、最後に見たものが、肉体から最後に出て行くの。彗星の光の尾のようにね。だからまだ、ジジイは私が気持ち良くしてるのを見ることが出来るんだ」


夢子はいい永剛の手を取り自分の性器へと導いた。そのまま永剛をジジイの身体の上に座らせ、夢子はジジイの顔の上で腰を下ろした。


性器がジジイの顔に触れるか触れないかの近距離まで近づける。永剛は夢子にされるがまま濡れた性器を指で弄っていった……


喘ぎ声が漏れないよう口を塞ぐ永剛の指に夢子は噛みついた。


痛がる素振りを見せる永剛を他所に、夢子ば抜けゆくジジイの魂の目に焼き付けるよう永剛にしがみつきペニスを導いた。


今まで永剛とした時以上に激しく腰を振り、直ぐに永剛を射精へと導いた。射精の瞬間、永剛はペニスを引き抜こうとしたが、夢子がそれを許さなかった。


夢子の中で存分に果てた永剛に夢子が微笑みかける。その瞳には月明かりが映り込み夢子の瞳はより爛々と輝いていた。


その瞳を見つめながら夢子はまるで美女の生き血を吸ったばかりの吸血鬼のようだと永剛は思った。


ジジイの死体はそのままにして2人は脱ぎすてた衣類を身につけた。死んだジジイについて語る事などありはしないという風に2人は無言のまま入って来た裏戸へと向かった。


出る際、ドアノブの中央にある突起型の施錠式のポッチボタンを押す。これはドアを閉める際にポッチを押しておけばドアを閉めると同時に施錠がかかった状態になり、その後、再び外から入るには鍵を使わなくてはならない。


そのように設計された施錠形だった。永剛はそのポッチを押して外へ出て裏戸を閉めた。


施錠がされてある事を確認すると永剛と夢子は息を潜めジジイの家から遠ざかって行った。車へと戻ると夢子がラブホに行きたいと言い出した。


永剛は頷き、そちらへ向けて車を走らせた。

夢子の身体は未だ業火に焼かれた刃のように熱っているのかも知れない。


そんな夢子と対等に張り合うには、それなりの覚悟と狂うほどの欲望を剥き出しにしなければならないと思った。


これ以上、出来ない、そんな言葉で今の夢子が許してくれるとは思えなかった。そんな事を考えながらしばらくの時間、走りラブホに到着した。エレベーターに乗った瞬間から夢子は永剛に口付けをし始めた。


2人は互いの粘ついたネ唾液を啜りあった。部屋に入るなり永剛はその場に押し倒された。永剛はそんな夢子に引く事もなく、無我夢中で夢子を求め続けた。


ベッドの上で目を覚ましたのは13時を過ぎた頃だった。携帯には班長からの着信が8回も来ていた。


すぐさま電話をかけ、昨夜から熱が上がり朝に起きれなかった旨を伝えた。


当たり前だが、当然班長は良い顔など微塵も見せなかった。だが必ず明日は出勤する旨を伝えると、心なしか声の調子が穏やかに変わって行った。


「まぁ、無理なら無理で構わないから、連絡だけは忘れないでくれ」


永剛は返事を返し、再度、謝罪した。

そして電話を切るとシャワーを浴びて気持ち良さげに眠っている夢子の髪に触れた。顔を近づけその香りを思い切り胸へと吸い込んだ。


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