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 ①⑦⑧

その日から3日間、夢子と2人、ラブホで寝泊まりした。永剛が殴った顔の腫れもかなりひいている。そのアザを目にすると胸が痛んだ。


なるべく見ないようにしていたが、暇を持て余している2人のする事なんて知れていた。互いが互いに身体を求め、2人してこれが初体験かのように身体を貪りついた。


早漏気味の永剛に対し、夢子は可愛い可愛いと言いながらも、


「直ぐに2回、3回と出来るから、早くても許せる」


と意地悪そうな笑みを浮かべ、半ば脅し文句のような言葉を吐いた。


それについて永剛は頭を掻いて照れるしか無かった。現実、何度抱いても1回目は直ぐに出てしまった。それは楓の時でも同じだった。


そんな永剛に楓が言った事がある。


「えーちゃんの私を求める気持ちが一杯で破裂しそうだから、早く出ちゃうんだと思う。客観視しないで、私の全部を欲しいと思ってくれてるのが私には感じられるから私はそれが嬉しいし、だから私も一杯気持ちいいの」


夢子が楓と同じように思ってくれているかはわからないが、とりあえずは夢子の言葉を肝に銘じておくしかない。


3日目の夕方、ラブホから出た後、永剛の班の班長から連絡があった。その時、2人は家に向かって車を走らせている所だった。永剛は路肩に車を止めて、その電話に出た。


班長は恨み節な口調で、いつ復帰出来そうか知りたいらしいぞと、自分は別に永剛なんて戻って欲しいとは思っていないと言う風に、あくまで気にしているのは上司に他ならないという風にそう言った。


永剛自身、夢子の傷が治るまで働きたくはなかったが、そんな生活をずるずると続けた所で、夢子が東京に帰ると言い出したら、その翌日から働かなくてはならず、それならいつ仕事に復帰しても同じだと思い直し、来週の頭から復帰していいそうですと、こちらもまるで医者の言いつけだと言う風に返した。


「わかったよ。ならそのように話ておくから」


班のリーダーはいい、お礼をいう永剛の言葉の途中で電話を切った。


「職場から?」


「うん。顔の傷の抜糸が終わったら復帰する事になってたから」


「なら、一緒に居られるのは後4日だね」


夢子はいい永剛の太腿を軽く叩いた。


「夢子は今は無職なんだから、好きなだけ家に居れば?」


「いいけどさー。今はむしろそっちの方が嬉しいし一緒にいたいけど……」


「ならいてよ。いて欲しい」


「良いよ。けど条件がある」


「ゴキブリなら全部殺すし、家の中も綺麗にするから」


「そうだね。それは必須事項だよ」


と夢子は言った。


「プラス別な条件って事」


「何?」


「私と出会うまで、永剛がして来た全てを

嘘偽りなく、全て話す事。それが私からの条件。のめるなら、私がこの田舎に飽きるまで一緒に暮らしてもいいよ」


永剛はわかったといい


「家に帰ってゴキブリ掃除が終わったら、全て話すよ」


「うん」


夢子はいい、ラブホの駐車場に設置されてあった自販機で買ったミルクティーを美味しそうに一口飲んだ。


見渡せる限り、ゴキブリを処分し終えると夢子を家へと迎え入れた。長年蓄積されたゴキブリ臭と薬品の匂いが混ざり合い、異様な匂いが家中に充満していた。


それでも夢子はゴキブリがいるよりはまだマシと言って家の中に入ってくれた。


2人居間に入り膝を付け合わせる形で、永剛は自分がして来た事を全て話し終えた。


すると夢子は


「人を殺す気持ちってどんな感じ?」


と聞いて来た。


永剛は気持ちというより、昔から生き物を叩いて潰してみたいという欲求が強くあったと話した。


「きっとそれはお母さんからの影響だろうね」


永剛の初体験が母だと聞いた時、夢子は僅かに目を見開いた。だが気持ち悪い、信じられないといった永剛の全てを否定するような言葉は吐かなかった。


内心では侮蔑しているのかも知れないが、それをおくびにも出さない夢子は、永剛に対し何らかの考えを隠し持っているのかも知れない。

それならそれで構わなかった。


元々は夢子を殺すつもりでいたが、今は何故かその気持ちは失われていた。これが愛なのかはわからないが、永剛は心から夢子を大切にしたいと思い始めていた。


「多分。俺もそう思う」


「けどさー」


「何?」


「自分達が寝てる直ぐ下に、2人の人間の死体が、と言っても今は骨なんだけどさ。ちょっと気味悪いわね」


それはごく普通の人の、当然の反応だった。


「わかった。なら床下の骨も全て処分するよ」


直ぐに取り掛かろうとする永剛を夢子が止めた。


「今日はもう遅いから良いよ。それよりお腹空いた」


永剛は夢子の脇腹の傷の事もあるので、風呂は沸かさなかった。そして質素な夕食をつくり2人で食べた。


夕食の後片付けをしている最中、夢子は携帯と睨めっこをしていた。素早い指の動きでメールを打っているようだ。打っている内容や、誰に送るつもりか気になる所だが、そんな不粋な事は聞けるわけもなく、永剛は気づいていない振りをした。


「やっぱり、まだ臭いね」


携帯から顔もあげず夢子がそう言った。

それは遠回しに芳香剤などを買って来いという意味だろうなと永剛は感じた。


「後さー」


「ん?」


洗い物を終え、タオルで手を拭いていた永剛は背中を夢子の方へ向けたまま頭だけ振り返った。


「お布団欲しい」


黄ばみの汚れが目立つ煎餅布団を摘み夢子は言った。


「ごめん、そうだよね。明日買いに行くよ。その前にさ」


「うん」


「コンビニ行ってくるけど何か欲しいものない?」


夢子はアイスやスナック、洗面用具、そして生理用品とコンドームなどを挙げたが、芳香剤の事は一言も言わなかった。


きっとそれくらい気づけ、という事なのだろう。


永剛は車のキーと財布を持ち、家を出ていった。




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