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 ①⑦⑦

夢子が脇腹の傷を医者にどう説明したのか、最後まで答えてくれなかった。余りにしつこく聞く永剛に対し夢子は


「いきなり刺されました。血がいっぱい出てたから、このままじゃ死ぬと思って自宅に帰って自分で縫いましたって言ったよ」


悪ふざけな表情を向けながら、殆ど間違いじゃない事実を言われた永剛はそれ以上、聞く事が出来なくなってしまった。


「とにかく上手く誤魔化せたし、傷も綺麗に縫ってもらったからもう大丈夫」


「化膿とかしてなかった?」


「ギリギリで大丈夫だったみたい」


「良かった」


この町で1番大きな病院を後にすると、車で夢子の下着や衣服、そしてゴキブリを退治する為の道具などの買い出しに向かった。


買い物を終えての帰宅中、ずっと窓の外を眺めていた夢子に永剛が声をかけた。


「東京まで送ろうか?」


うらびれた田舎の風景に夢子が飽き飽きして来たのだと思ったのだ。


つい先日までは夜中までクラブで遊び呆けていたのだ。東京からみれば、下町の下の下のような町にいるのは、やはり物足りないし飽きもするだろう。


「お腹の傷が治ってからでいいよ」


「うん。わかった」


それからしばらくの間、車内は沈黙に包まれていた。信号が黄色から赤に変わり永剛は緩やかに車を止めた。


「えーちゃん」


「何?」


「聞いてもいいかな」


「いいけど……」


夢子が聞きたい事については、何となく予想はついた。このように普通に会話をする仲になったのだから、夢子からしたら当たり前の事だろう。


「どうして私を刺したりしたの?最初から私だけを狙っていたの?」


「あの時は苛立ちがMAXで、だから誰でも良かったんだ。夢子だけを狙っていたわけじゃない。あの時間、あの場所に1人で現れたのが夢子だったってだけで……」


「やっぱ、えーちゃんのその顔の傷と関係があるのかな」


「うん。ある」


「そっか……つまりえーちゃんはあの夜、あの場所で、えーちゃんに酷い事をした人に復讐しようと待ち構えていたわけだね」


「そうだね」


「その中の1人が女だった。けど現れなかった。だから苛々して、私を刺した」


「ごめん、そう言う事になる……」


「で、まだ、その女に復讐したい?」


そう尋ねられた瞬間、言葉に詰まった。


「正直に答えて」


「したい。殺してやりたい。女もその仲間も残りの奴ら全員、ぶっ殺してやりたい」


「残り?」


夢子は言った。


「信号、青だよ」


慌てて車を発進させた。


「残りって事はさ」


永剛は黙っていた。


「何人か殺したの?」


「……うん。1人。リーダーらしい、みっちーって奴を、拉致って殺した」


「私を攫った時みたく?」


「うん」


「そっか」


その後に何て返せばいいか分からず、自宅に着くまで2人とも無言だった。


家に着くと直ぐに、夢子が口を開いた。


「ここで待ってるから、殺せるだけゴキブリ殺して来て」


夢子は顔も上げず、携帯をみながらそう言った。


「わかった」


買って来た大量の殺虫剤などを手に持ち、永剛は家の中へと入っていった。


ゴキブリが外へ逃げられるよう玄関は開けっ放しにしておいた。そうしておけば死んだゴキブリも、外へと掃き出せる。


家中の窓という窓を開け、マスクをつけた。

そしてワサワサと蠢くゴキブリ達目掛け殺虫剤を噴霧した。


10本あった殺虫剤は、あっという間に無くなり、足元や台所、ガス台の上や棚や押し入れの中、風呂場やトイレの中には大量のゴキブリがひっくり返り足や触角をひくひくさせていた。

その後で、アースレッドやバルサンを焚いて家から出た。


車に戻ると痛み止めが効いたのか、夢子はシートにもたれて眠っていた。


今日は家では過ごせないと伝えようと思っていたが、眠っているなら仕方がない。


ここでじっとしていてもつまらないから、永剛は再び、車を出す事にした。


玄関は開けっ放しだが、こんなボロ屋に盗みに入ろうとする泥棒などこの辺りにはいないだろう。いたとしても取られて困るような物など1つもない。


夢子の傷が完治するまでどれくらいの日数が必要となるかわからないけど、それまでには永剛も仕事に復帰しなくてはならないが、夢子が帰りたいと言えば、反論するつもりはなかった。


小さく寝息を立てている夢子をチラ見した後、

永剛はハンドルを切りながら夢子になら別に殺されてもいいかな、と思った。





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