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 ①⑦⑤

首輪と鎖はつけたままだったが、女はそれを外そうともしなかった。裸のままで居させるのも良かったが、寒そうにしていたので、永剛のトレーナーとスウェットを着させてやった。


お腹が空いたか?と聞くと頷いた為、永剛は簡単な料理を作り食べさせた。


永剛は居間で横になりながら女が食べる姿を眺めていたが、女は何も言わず黙々と食べ続けた。


「刺して悪かった」


何故そのような言葉が出たのか永剛にもわからなかった。


「うん」


「痛むか?」


「うん」


「そうか。病院に行きたいか?」


「今は薬が効いてるから大丈夫」


「わかった」


永剛は女にバックを投げて寄越した。


「何もとってないから」


「ありがとう」


女は食事の手を止め、バックの中身を改めた。

一瞬、手が止まったのを見て、永剛は


「携帯使いたかったから使えばいい」


この女が知り合いや友達にメールで助けを求めようが、構わないと思った。


馬鹿な女なら直ぐにでもそうするだろうが、

この女はまだ、いや恐らくそれはしないと思った。そうしない理由は思い当たらなかったが、何となくそう感じただけの事だ。


「家に帰りたいか?」


女は携帯を握ったまま永剛を見返した。

その目からは怯えは感じない。


「帰りたいなら帰ってもいい」


口から出たこの言葉は本心だった。

この女は、自分が生きて帰れると思える可能性を、方法を平気で受け入れた。


普通、あの状況でそのような言葉を信じる事など出来やしない。最初から信じてないのかも知れないが、だがこの女はそれを行動に移した。


つい先程もそうだった。散々、殴られ、レイプされ続け殺されるかも知れないといった状況に追い込まれた後でなら、あのような行動に出る事は出来るだろう。だがこの女はこの家に連れ込まれ、衣装入れに閉じ込められた瞬間から、恐らくは腹を括ったのだ。その気持ちの切り替えや、強さに永剛は感服したのだった。

この女を逃す事で自分は捕まるかも知れない。だが、そうなるのならそれでも構わなかった。


女に気を許したわけではないつもりではいたが、心の根っこには既にこの女への熱い気持ちが吹き上がろうとしていたに違いなかった。


「まだいい。仕事、辞めたばかりの無職だから」


「そうなのか。けど、夜中まで一緒につるんでいた連中には連絡はしといた方がいいんじゃないか」


「あぁ。あの2人の事?」


「うん」


「クラブで知り合って、その時一緒に遊んだだけで、友達じゃないよ」


「連絡先とか交換してないのか」


話す言葉が、命令口調から次第に普通に砕けた口調へと変わって行っているのを永剛自身も気づいていた。刺して拉致した本人の方から心を許しかけ歩み寄ろうとしている事に、思わず吹き出した。


「どうしたの?」


「いや、なんでもない。食事中に話しかけてごめん」


永剛は立ち上がり、居間を出た。

自分が食べた洗い物を片付けながら、

殺して潰す為に拉致した女に、何気を許しているだ?頭の中でそう繰り返すが、再びこの女を裸にひん剥いて衣装入れに押し込む事が、イメージ出来なかった。


これがラピッドからの依頼であればこのように気持ちを揺さぶられる事はなかったのかも知れない。

洗った食器を棚の上に置くと永剛は女に向かって買い物に行くと告げた。


「あんたの服や下着、ぼろぼろにしちゃったし」


「男1人で女の下着を買うつもりなの?」


「あ、」


「変態って思われるよ」


女はいいクスッと笑った。


所々メイクが剥げ落ち落ちたその表情は、何処となく母や楓を思い起こさせた。2人とは体型が異なるが、筋張った首筋は似ている気がする。そのせいでこの女への殺意が失われてしまったのかも知れない。


「一緒に連れて行ってくれる?」


女がいうと永剛は静かに頷いた。


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