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その後、父と母は10日近く家にいた後、北へ行くよと言ってお昼前に出て行った。
両親が戻って来た当初、マリヤは2人の存在を疎ましく思っていたようだったが、その気持ちをおくびにも出さず、父と母とはそれなりに上手くやっていた。
最初の3日間は2人に対しての愚痴を圭介にぶち撒けていたが、5日6日と経つうちにそのような愚痴も少なくなり、終いには言わなくなった。
そんなマリヤの姿を見て、圭介は両親と打ち解けたのか?と思った。もしくはどちらかといえば圭介が2人を擁護する回数が多い事に腹を立て言わなくなっただけかも知れない。
だとしても両親がいた期間、圭介はマリヤの愚痴に対し、かなり譲歩しそれほど反論もせず、我慢もしていた。が、それでもマリヤはマリヤの全てを肯定しなかった圭介に対し不満を持っていたようだ。
ベッドで一緒に寝なかったのがその証であり、マリヤの無言の主張だったのだろう。
だが父と母は再び旅行へと出かけた。今度いつ帰って来るかはわからないが、とりあえずこれで2人の間にあった目に見えない緊張感が解けると思うと圭介は少しだけ気持ちが軽くなった。
あの夜、パーキングに停めていた車の事で警察から連絡が来るような事はなかった。父も、車を取りに行った時、付近に刑事らしい人間はいなかったと話してはいたが、警戒は怠るつもりはなかった。
この件は当然ラビットには秘密なのだが、もし近々に何かしらの依頼が来た場合は断る方向で考えていた。
刑事が家の車を見張り、動き出したら尾行するといった事はないだろうが、それでも油断は禁物だった。
スナック天使の付近には違法駐車していた車が多々あったしそれにパーキングに停めていたのも自分だけではない。
だから警察が車種を絞り、家の車をアリゲーターマンが使用した可能性有りと特定するにはかなり無理があると圭介は考えていた。警察の力を侮ってはいないが、特定するにしてもそれなりの時間はかかる筈だ。
父も圭介の意見に賛成で早朝の鰐の餌用の魚釣りも控えるよう釘を刺されていた。
「それでも行くとするなら、早朝より昼間の方がいいだろうな」
「かえって目立つような行動に出た方がいいってわけ?」
「何も目立てって訳じゃないさ。一般的な話で頻繁に早朝や深夜に家を出る方が、他人からしたら変に思われるだろう?」
「まぁ、そうだね」
「だから、単純に昼間の方がいいだろうって話さ」
圭介は父の言葉に頷いた。
「まぁ、それでも家の近所の人達は、恐らく、父さんが早朝から魚釣りに出かけているのは知っているだろうから、今更、変えなくても近所は不審に思う事はないだろうがな」
それでも父はある程度の期間は避けろと言った。圭介はその言いつけを守るつもりでいた。
が、それを破ろうとする者が、この家に1人いた事をその時の圭介は完全に忘れてしまっていた。
再び両親達が旅行へと出かけた翌朝、圭介はマリヤに叩き起こされた。
薄目を開くと煌々と灯った部屋の明かりが眩しく思わず顔を枕に押し付けた。
「時間だよ」
圭介を揺り動かすマリヤに圭介は怒気のこもった言葉を返した。
「何?」
「釣りに行くんだよね?」
「あぁ。それかぁ」
圭介は半身を起こした。瞼は閉じたまま、マリヤにしばらくは釣りは控えるという事を伝えて無い事を思い出し、ポカンと開いた口から溜め息を漏らした。
「しばらく朝の釣りは行かない」
「どうして?最近、ずっと鰐ちゃんに餌あげてないよね?」
「あぁ。マリヤの言いたい事はよくわかるよ。
けど、しばらくの間、釣りに行くのは昼間に変更するから」
圭介はいい、床に敷いた布団の上で身体を丸めながら掛け布団を引き上げた。
「お父さんに言われたから?」
「そうじゃない。自分の考えだ」
「あ、そ」
マリヤは言うと圭介の掛け布団を引っ剥がした。
「小屋の鍵貸して」
「はぁ?」
「いいから貸してよ」
「こんな朝から何するんだよ」
「んなの掃除するに決まってんじゃん」
「後で俺がやるからいい」
「私がやりたいんだって」
このままだと、このやり取りは永遠に続くと思い、圭介は布団から起きて小屋の鍵をマリヤに手渡した。
「水槽の中の掃除は、危ないからやめろよ?」
マリヤは何も言わず圭介の手から鍵を取ると黙って部屋から出て行った。




