①⑥④
仙道美月を殺害後、有料パーキングから出ようとしたその時、目の前に金髪ロン毛の赤いボディコンに身を包んだ派手な女が1人、酔っぱらっているのか、左右に揺れながら歩いていた。
永剛はかけていたエンジンを止め、車から降りた。どうやら未だに仙道美月を殺した余韻が身体の中で燻っているようだ。興奮冷めやまぬその余韻は永剛のペニスに集中し、勃起した。
誰でも良かった。どんなブスだろうが太っていようがババァだろうが構わなかった。とにかく頭の中も身体の中も空っぽになるまでやり続けたかった。
永剛はふらつく女に近寄って声をかけた。
「大丈夫?送って行こうか?」
女は長い髪を掻き分けながら、一度、永剛を見返した。そして品物を見定めるかのように、永剛の全身を眺めた。
その目はまるで永剛を視姦するかのようだった。泣いたのかアイラインが崩れ、目の縁が黒ずんでいる。
女は再度、永剛の顔を見て鼻で笑うと、
野良犬を追い払うように、シッシッと手を振った。
歩き出す女に永剛は
「本当、大丈夫?」
と声をかけた。
追い縋るように女について行きながら、
ジーンズのポケットを弄った。
あーそうだった。ナイフは仙道美月に突き刺したままだったな。仕方ない。無理矢理連れ込むか。
そう考え女の肩に手を掛けようとしたその時、背後から複数の掛ける足音が聞こえてきた。
伸ばした手を引っ込め永剛は背後を振り返った。あっという間に5人の男達が、永剛と女を取り囲む。
「テメー、何、人の女に声かけてんだ?」
「あ、いえ、こんな場所でこんな時間に1人フラフラと歩いてたので、危ないと思って……」
そこまで言いかけた瞬間、いきなり背中を蹴飛ばされた。不意打ちをくらい永剛の身体は海老反り、前のめりに倒れた。
受け身が取れずアスファルトに顔面を打ち付けた。痛いと思う間もなく、複数の足で全身を蹴り飛ばされた。
1人の爪先が鳩尾に入り息が出来なかった。永剛は苦しみながら身体を丸め身を守ろうとした。
それでも構わず、男達は永剛を蹴り続けた。
散々痛めつけられた後、女の彼氏という男に髪の毛を掴まれた。俺は腰を落とした体勢で永剛の顔を覗き込んだ。
「テメーみたいなダサい奴がナンパなんて、1億年早えーんだよ」
「みっちー、そいつがナンパ出来ないようにしてやんなよ」
「あ?あー良いね。それ」
みっちーと呼ばれた男がそういうと、残った4人が永剛をうつ伏せにした。1人が永剛の腰に座り、後ろから髪の毛を掴み引っ張った。他の1人は永剛の太腿に座り、後の2人は左右から両腕を押さえつけた。
頭を海老反りにされた永剛に向けて、みっちーと呼ばれた男が顔面に唾を吐きかけた。そして飛び出しナイフを取り出した。
「靴、寄越せ」
みっちーが言うと足に座っていた男が永剛の片方の足から靴を剥ぎ取った。それをみっちーに渡すと無理矢理、永剛の口の中へ押し込んだ。
そして充分過ぎるほど、永剛にナイフを見せつけた後、永剛の頬へとナイフを突き刺した。
痛みで悲鳴をあげるが、靴を押し込まれている為、その悲鳴は周囲へ届かない。閑散とした場所だけに、聞こえたとしても助けが来るとは思えなかった。
「え?みっちゃん何?面白そうじゃん?私にもやらせてよ」
さっきの女が男からナイフを奪い、永剛の左頬へ突き刺した。
「テメー何様だよ?ったく何が大丈夫ですか?だよ。気安く話しかけてくんな。キメーんだよ」
いうとナイフ引き抜いた。生暖かい血が靴の隙間を縫って口内へ広がって行く。
再び突き刺した。抗う永剛に横からみっちーが蹴りを喰らわせた。
「切り裂いちゃう?」
女はいい、永剛の口から靴を引き抜いた。
そして口角にナイフの刃を当てた。
「昔、口裂け女ってのが流行ったじゃん?」
「あーあったな」
「こいつ口裂け男にしちゃおうよ」
「いいね」
みっちーがいい女からナイフを受け取った。
「こいつの頭、横向きにして押さえてろ」
永剛の髪の毛を掴んでいる男に、みっちーが指示を出した。そしてみっちーは永剛の口角に刃をあてた。
ナイフの柄を両手で掴み、永剛の頬を、切り裂き始めた。永剛は声を荒げナイフから逃れようと足掻いた。
「しっかり押さえてろ!」
言われて女が永剛の頭をパンプスで踏み付けた。何度も何度も踏みつけた後、しゃがんで永剛の頭を押さえた。
皮膚が裂けていくプチプチという音が耳の中で反響した。永剛は血を吐き出しながら悲鳴をあげ続けた。
それが終わると逆向きにされ、反対側の頬が切り裂かた。その最中いきなり、周囲が眩い明かりに照らされた。
「ヤベェ」
1人が言うと永剛を拷問していた奴等が一斉に逃げ出した。散り散りに逃げる奴等を追いかける複数の足音を耳にしながら、永剛は口腔内の空気が漏れる中、みっちーと呟き続けた。
気がついたら病院のベッドの上だった。
鼻から下が包帯でぐるぐる巻きにされている。
口は僅かに出ているが、痛みによってまともに開く事は出来そうになかった。
永剛が目を覚ましてから1時間が過ぎた頃、2人の刑事が病室を訪れた。
事情聴取をしに来たようだ。
「今は、喋る事は難しいだろうから、私達の質問には、頷くか、首を振るかで答えて貰えるかな」
話しかけて来た刑事の側に立っているもう1人の刑事が胸ポケットから手帳を取り出した。
永剛は頷いた。
「君を襲った男達の顔は見たかい?」
永剛は首を横に振る。
「いきなり襲われた?」
頷いた。
「何て呼び合っていたかはわかるかな?」
永剛は再び首を横に振った。
みっちーだ。だが警察に話せば逮捕され、傷害罪で刑務所に入れられてしまう。そんな事はさせない。だから永剛は知らないと答えた。
「何人組に襲われた?」
永剛は刑事に手の平を広げる形で突き出した。
「5人組?」
頷こうとして、首を横に振る。首を傾げ、指を4本立てた。
「4人組?」
頷いてから再び首を振った。
「それくらいだったと?」
今度はハッキリと頷いた。
人数はあやふやにしておきたかった。
そうする事で出来るだけ警察に捕まる人間を減らしておきたかったのだ。
「わかりました。ありがとうございます」
1人の刑事はそう言うと手帳を胸ポケットにしまった。
「何か思い出したら、連絡を下さい」
手帳をしまった刑事が名刺を取り出し永剛に手渡した。受け取ると永剛は頷いてみせた。
病室から刑事が出て行った後、永剛は職場に連絡をした。
唯一、メールアドレスを交換している、自分の班とは別の上司に、襲われた経緯を書いて送信した。その後で顔の写メを撮り、それも送った。
10分後に、連絡が返って来た。仕事の事は心配するな。しっかり治療し、働けるようになれば連絡をして来いと書かれてあった。
永剛はそれに対しご迷惑をお掛けし申し訳ございませんと返信し、携帯を閉じた。
傷が治るまでどれくらいの期間がかかるかわからないが、治ったら直ぐみっちーを捕まえ殺してやると永剛は拳を握り締めながらそう思った。




