表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
271/302

 ①⑥①

小川が現れて数分もしない内にパトカーのサイレンが聞こえて来た。


泡沢は小川の肩を借り床から起こされると、カウンター前の椅子に座らされた。


スーツの上まで滲み出た血を見た小川が、


「ったく、お前はとことん悪運が強えーなぁ」


と呟いた。


前にチッチと桜井真緒子に殺されかけた事を含め、小川はそう言ったのだった。


「鰐野朗とやり合って殺されなかったのはお前が初めてかも知れねぇな」


そういいながら小川はスマホを取り出し、泡沢の上着を脱がすと、救急車を要請した。


「で、顔はみたか?」


小川の問いに泡沢は首を横に振った。その時、肩に痛みが走り、泡沢は奇妙な声を上げた。


「小川さん、検問は?」


「安心しろ。大丈夫だ。ここへ来る前に所轄にもお願いするようしっかり頼んでおいた」


「ありがとうございます」


泡沢は言った後、鰐男が黒のジャンパーを着込みボストンバックを持っていた事を告げた。


「中身に着替えが入ってるとしたら厄介だな」


小川はやって来た警察官に鰐男の特徴を伝え、全署員に情報が行き渡るように無線で連絡を取るよう警察官に命令した。


鑑識が到着し、手際よく現場保存を開始する。フラッシュを焚きあちこちの写真を撮り始めた。小川は泡沢を連れ立って店内を後にした。


店の前にはパトカー数台が止まっていた。何処に隠れていたのか野次馬達が続々と集まって来る。整理する警察官に何があったのか尋ねて来る者もいたが、誰一人として鰐男が現れた事は口にしなかった。


救急車で運ばれている間、泡沢の頭の中は対峙した鰐男の姿が浮かび上がり、消えなかった。


自分でいうのもおかしな話だが、連続殺人鬼の鰐男の印象は、言われている程では無く、さほど恐怖は感じなかった。


それは鰐男が悪人以外、殺していなかったせいかもしれない。流石に襲われた時は焦ったが、それでも殺される事はないかも知れないと泡沢は思っていた節があった。


まぁ、結果的にそうなったが、だからといって鰐男を見逃すつもりも無く、出来るなら今夜逮捕したかった。

逮捕寸前で逃げられたくせに、泡沢はこの手で捕まえられない事に憤りを覚えながら肩の傷や、折られた腕の痛みを堪えていた。そのせいで身体が熱を帯びて来ている。熱のせいか物事を考え難くなり吐き気が催して来る。泡沢の顔色を見て心配し始めた救急隊員に泡沢は無事な方の手を突き出した。


「大丈夫です」


額に浮いた脂汗がその言葉から説得力を奪っていたが、隊員は渋々と頷いた。


病院に着く頃には泡沢は既に高熱にうなされていた。救急車に乗る時は自力だったが、今は救急隊員の手を借り、担架で病院内へと運ばれて行った。


泡沢の意識がしっかりと元通りになったのは翌日の昼過ぎだった。捜査は以前、続けられていたが、ベッドの上まで、吉報は届いて来なかった。


「逃げられたか……」


思えば泡沢は、自分が追う犯人にはよく逃げられる事が多い気がした。実際は杉並署に配属していた時の桜井真緒子と、今回の鰐男の2人だったのだが、その2人共が凶悪な連続殺人犯となれば、取り逃した事が泡沢の心に大きくのしかかって来るのは当然の事のように思えた。


捕らえた事より取り逃した事で気を病むのは刑事としての性であるが、その大きさは1人の刑事が抱えられる程、軽いものではなかった。


勿論、小川さんや他の仲間も鰐男を逃した事を悔やむに違いない。だから泡沢1人でその悔しさを抱え込む必要もなき。その為に警察組織があるからだ。


だが、やはり直接、犯人とやり合った立場からしたら、そのように考えざる負えなかった。何とも情け無い刑事だな。泡沢は1人愚痴り、いつの間にか付けられていた腕のギブスを見て、深い溜め息をついた。


ただ、自分は鰐男を銃撃した。肩口辺りを撃ち抜いた記憶があったが、揉み合った際に発砲したから、自信を持って言える程、確証はなかった。


だが、念の為に、各病院にはその旨を伝えるよう、小川さんが手配してくれている筈だ。けれど泡沢自身は、鰐男が怪我の治療に病院を訪れるとは思えなかったが、今はその僅かな望みに賭けるしかないと考えた。


全く、不甲斐ないったらない。まだ痛み止めが効いているのだろう、自然とあくびがついて出る。泡沢は軽くなった気がする痛みを堪えながら、ベッドの上に横になったまま天井を見上げ、ゆっくりと目を閉じた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ