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依頼されたターゲットは都内の女子校に通う17歳の少女だった。名前は仙道美月 同級生や下級生をまとめ上げ学校内や、他校の生徒たちを集め売春組織を作り上げているらしく、それの元締めが仙道美月という事らしかった。
仙道美月は自らどの生徒をどの男にあてがうか、全て1人で仕切っているようだった。永剛は少女1人にここまでの事が出来るとは到底考え難く、彼氏やその彼氏の後ろ盾にヤクザが絡んでいるのではないかと思いその事を三代子さんに尋ねた。すると、どうやらラピッドも同じ事を考えたらしく、調べたそうだ。結果、後ろ盾はない事がわかったらしい。
「平然とやる子もいれば、半ば無理矢理にやらされる子も多数いるらしいの。それらは属している生徒の半々といった感じらしいのだけど、だからといって、無理矢理やらされている子達がいるのが現実なわけ。売りを断ると仙道美月が、顧客を呼びあつめ寄ってたかってレイプを繰り返し、挙句にビデオに撮られてしまうらしいのよ。そのせいで既に4人もの女子生徒が自殺に追い込まれているの。昔の私のように、プロとして身体を売るならまだしも、無理矢理にさせられるのは絶対に許せないわ」
「けど、仙道美月を殺しても、次の奴が仕切り出すんじゃないですか?」
「それが無いとは言えないけど、でも、仙道美月に右腕的存在は見当たらないのね。だから彼女さえ居なくなれば客も連絡が取れなくて自然消滅するだろうと、私達は予想しているわけよ」
「でも、売りが平気な子達が集まってやり出す可能性だってありますよね?中には個人的に客と連絡先を交換している子もいるんじゃないですか?」
「そういう子達なら全然、構わないわ。やりたくてやってんだから」
なるほど、まさにラピッドらしい考え方だと永剛は思った。
「ところで、話は変わるけど」
「はい」
「当日、私達の誰かを迎えに行かせようか?」
「いえ、平気です。自分の車で向かいます」
「わかった。なら、メールで送った住所に深夜1時に」
「わかりました」
永剛は答え、携帯を切った。
17歳の少女か……と永剛は思った。世の中に年齢にふさわしい殺され方などが書かれたマニュアル本なんてものは無いが、未成年で命を失う事になるのだから、一瞬で息の根を止めるのはあまりに不憫だし、面白みもない。
やはり17年しか生きられなかった事への悔恨や、未来へ向かえない自分の不運や絶望をじっくりと味合せてあげるべきだろう。
自身の命がやがて尽きていく中で、仙道美月がこの世界との訣別の際に見るものが永剛である事に、少なからず興奮を覚えた。若くて張りのある肌が震え、艶やかな皮膚に一筋の血が流れ落ちる。
女だから生理で血は見慣れているだろうが、それでも別な箇所から流れる自分の血はそう見る機会はないだろう。助けを乞い恐れ慄く仙道美月。
やはり前回と同じく寝込みを襲う形となるのだろうか。もしそうであるならベッドの上で殺害する事になるのか……
そう思った瞬間、永剛の頭の中にある映像が浮かび上がった。永剛は直ぐ様被りを振り、その映像を頭から振り払った。仙道美月の口を塞ぎ時間をかけてレイプし殺して行く自らの姿が残像のように頭の中から消えていった。
殺害時、余計な事で時間を費やしたら、3度目の依頼は無い。田山相談役にもそのように忠告を受けている。やはり自分の欲望を果たすには個人的にターゲットを見つけるしか無さそうだ。
仙道美月を殺害する場所は自宅ではなく、クラブの中でだった。そこには仙道美月を慕う女子高生や、客などが集まっていた。耳をつん裂く大音量の音楽のせいで、隣にいるラピッドの処理班の声すらまともに聞こえなかった。
彼等は仙道美月をトイレで殺害後、窓からその死体を引き上げる為、店の裏で待機している事になっている。
クラブが地下になかったのは幸いだったなと永剛は思った。にしても仙道美月の周りにはまるで売れっ子芸能人のように複数の人間がたむろしている。
女共はほぼ、自身の学校の学生服を着、男共は私服やスーツ姿の奴等が多く見られた。ボディガード的な屈強な人間は1人もいなかった。単に仙道美月に気に入られ、良い思いをしたいと考えている奴等ばかりなのだろう。
そうであるなら仙道美月が1人になる時は必ずあると永剛は思った。持ち上げられ、この歳の人間であれば他人からチヤホヤされるのは良い気分だろうが、それでも客と取引は1人でやっている事を思うと、仙道美月は周りの人間を道具としてしか見ていないのだろう。
こんな場所で、そんな道具に囲まれていたら、嫌気が差す事は必ず来る。そこが狙い目だと永剛は考え仙道美月が座っているVIP席が見通せる場所に移動した。
しばらく眺めていると仙道美月は席から立ち上がり周りの人間達を押し退けフロアへと向かって歩き出した。
中央まで来ると、音楽に合わせ1人音楽に身を委ねた。踊るというより、音に流されるという感じに身体が揺れている。そんな仙道美月を見かけた踊り狂う客達が、仙道美月を中心に輪を作りだした。歓声が上がる中、仙道美月は我関せずといった感じで、短いスカートを揺らしながら踊っていた。
仙道美月の両親は共に外資系企業の重役クラスの人間らしかった。美月自身も帰国子女で3年前に1人、日本に戻って来たらしい。住まいは麻布の一等地のマンションで祖母と2人暮らしの生活をしていた。10歳歳の離れた弟がいるらしいが、弟は両親と共に外国にいるようだ。
仙道美月自体、絶世の美女と呼ばれる程の美貌の持ち主ではなかった。寧ろ、好みでいえば中の下といった辺りだ。だが、時折みせる中性的な眼差しや笑みは見るものを惹きつけて止まなかった。
長い黒髪を靡かせ踊る仙道美月に次から次へと男共がいいよって来る。が、今は仕事の気分では無いのだろう。誰一人にも返事はしなかった。男達は無視された形となったが、1人として不満を見せる事はなかった。
その態度からして、単に仙道美月に目をかけてもらいたい為に言い寄ったようだ。
永剛は出口付近のもたれていた壁から離れ、ゆっくりとフロアの方へ近づいて行った。
小型のナイフはさっき処理班の人間から受け取っている。その小ささに永剛は内心喜んだ。頸動脈を切り裂けば一瞬のうちに終わるだろうが、それをミスれば、多少の時間はかかってしまうだろう。その間に、仙道美月をレイプし……
永剛はムズムズする股間を触りながら仙道美月の方へと近づいて行く。もっと間近で仙道美月を見て見たかったのだ。それを逆手に取るように、仙道美月はいきなり揺れるのを止めた。
そして周りに出来た人垣を掻き分けながらトイレの方へと向かって行く。永剛はその後を追った。
幸い、トイレ付近にボディガード的な人間はいなかった。仙道美月の直ぐ背後につき、美月が女子トイレの中へ入ると、一緒に、中へと入って行った。
トイレ内にまで音楽が鳴り響いて来る。重低音が身体の骨という骨を砕きそうな勢いだ。運良くトイレ内に人はいなかった。3つある個室も皆、戸が内側へ開かれてあった。その1番手前の個室に仙道美月が入って行った。戸が閉まる寸前、隙間から手を差し込んだ。力任せに押すと痛っという声が耳に入った。永剛は構わず中に押し入り、戸を閉め施錠した。仙道美月は便座の上に座る形で永剛を見上げていた。永剛はその仙道美月の目を見下ろした。
「こんな所まで来て、何?私が用意した子の不満なら聞くつもりは無いから」
仙道美月は捲し立てトイレの戸を指差した。
「話はそれだけ。早く出てけよ」
威勢のいいのは嫌いじゃない。その威勢もナイフを見せれば治るだろう。
永剛はジーンズの後ろポケットから小型の折りたたみ式ナイフを取り出した。刃を出し仙道美月の顔の前に突き出した。
「そんなものでビビると思った?馬鹿じゃないの?」
トイレ内が重低音の音によって振動する。永剛はトイレの戸に背をもたせかけた。そのまま、ゆっくりと滑り落ちるように座っている仙道美月の目線の高さまで身体を下ろした。
「で、何?私、オシッコ出そうなんだけど?」
「ならすれば良いだろう」
永剛が返すと仙道美月は舌打ちをした。スカートの中に両手を入れ、下着を脱ぎ始めた。膝が下へ下げるとき履いているソックスが邪魔になったのか仙道美月が舌打ちをした。下着を足首まで下ろすと永剛を見上げた。
視線をそのままに仙道美月が鼻から息を吐いた。放尿する音は音楽によってかき消され、短い息を吐きながら、仙道美月はトイレットペーパーに手を伸ばした。巻き取り無理矢理に千切ると永剛の顔に向かって突き出した。
「拭きたいなら拭かせてあげる。それに欲しいならパンティも持っていけば?」
仙道美月はいい、拭くより先に下着を脱いだ。それを永剛に投げつけた。永剛は下着を無視し仙道美月の手からトイレットペーパーを奪い取った。座っている仙道美月の股の間に手を差し込み、仙道美月の性器にトイレットペーパーをあてた。ゆっくり丁寧に拭いてからその手を引き抜くと、その臭いを嗅いだ。
「あんた、変態なんだ?」
「どうかな」
「充分過ぎるでしょ」
仙道はいい立ち上がり水を流した。
「満足した?」
「まぁね」
「なら、そこ退いてくれる?」
永剛は立ち上がり、鍵を開けた。戸を引き、仙道美月に外へ出る道を作ってやる。
個室から出ようとした時、仙道美月が立ち止まった。
「あんたみたいな趣味に合う子、結構いるから紹介してあげよっか?」
「幾らだ?」
「今回はタダにしといてあげる」
「それは助かるな」
永剛の言葉に仙道美月が憎たらしい程の笑みを浮かべた。
「お前、処女だろ」
笑みを浮かべていた仙道美月の表情が一瞬にして凍りついた。
「だったら何?」
「処女のままってのも悪くない」
「まさか自分が私の初体験に相応しいとでも思ってんの?女のオシッコ嗅いだりするような男に誰が処女をあげるっての。変態は変態同士仲良くやってりゃいいんだよ」
吐き捨てるように言い放つと仙道美月は開けた戸を押さえている永剛の腕を押しのけた。
「とりあえず約束だから、女の子用意してあげる。ちょっとここで待っててよ」
仙道美月が恐らくこちらへ戻って来る時は、きっと大勢の男共を従えている事だろう。
まぁ、ナイフで脅された挙句、オシッコをしている所を見られた上に、未だ誰にも触られた事の無い性器まで触られたのだ。
馬鹿正直に別な女の子を用意するわけがない。
その程度の女なら買収組織を1人で仕切り、男や女を従わせる事など不可能だ。そこには悪意と嘲笑と暴力が介在しているからこそ、成り立っている。そんな女をみすみすトイレから出す程、永剛は色ボケした親父でもなければ、知能の足りない馬鹿でもなかった。
「あぁ。なるべく早く頼むよ」
永剛はいい、無表情のまま、仙道美月の首筋にナイフを突き刺した。水を入れた風船が割れるように首筋から仙道美月の血飛沫が待った。
仙道美月は、目を見開きワナワナと唇を震わせた。刺さったナイフへ手を伸ばす。永剛は仙道美月の身体を引き寄せ、個室トイレの戸を閉めた。片手で仙道美月のスカートを捲り上げ、もう片方の手でジーンズのチャックを開く。半勃ちしたペニスを仙道美月の性器へ押し付けた。無理矢理押し込むと渇いた性器のなかで永剛にペニスが膨らみをまして行く。直ぐに勃起した。
永剛は仙道美月の顔に自分の顔を近づけた。特別な殺し方なんてなかった。けど、と永剛は思う。腰は動かさず仙道美月の中でただジッと待っていた。けど、仙道美月から見れば。この殺し方は、特別な殺され方になるのだろう。ペニスに生暖かい液体が絡むのがわかった。血だ。永剛はこちらを見返す仙道美月の瞳がゆっくりと屈辱に歪むのを眺めながら、その身体からペニスを引き抜いた。仙道美月の内腿から血が流れ落ちて行く。
永剛は便座の蓋を下ろし、仙道美月の身体をそこへと座らせた。その後で上部にある幅広いガラス窓の鍵を開けた。それが合図となり、外から2本の腕が差し込まれた。永剛は仙道美月の両脇に腕を差し込み身体を持ち上げ、窓から入って来ているその腕に手渡した。あっという間に引き上げられた仙道美月を見送ると永剛はガラス窓を閉め、酔った振りをしながらトイレの出口へと向かった。
「ちょっとあんた、ここ女子便だぞ!」
「キモっ!」
複数の低脳な女共の声を聞きながら、永剛は千鳥足を装いながらトイレを出た。踊り狂う人間を押しのけながらフロアを横切った。
その時、永剛はある事に気がついて、思わず、口を開いた。
「あー。ナイフを抜くの忘れてた」
呑気な言葉がついて出る。だがクラブの中で永剛のその声を聞く者は1人としていなかった。
大音量の音楽が全てを掻き消したからだった。
永剛はクラブを出ると、自分の車が止めてある有料パーキングへと向かって歩き出して行った。
その途中、自動販売機の側で立ち止まり、チャックを下ろした。萎んだペニスを取り出し、自動販売機の明かりを頼りに、ペニスを眺めた。既に固まりつつあった仙道美月の血を指の腹で拭いとると、その指を口へと運んだ。
指を咥えながらペニスをしまいチャックを閉じた。自分の指についた仙道美月の処女の血を味わいながら、死に際に見せた仙道美月の悔恨の滲んだ瞳を思い出た。
彼女は自分の手によって、特別な死を経験出来たのだ。永剛にはそれが誇らしかった。そして仙道美月の死には、一切の不幸など存在しえないと永剛は思った。
金を払い車に乗り込んだ。エンジンをかけ、有料パーキングから出る際、永剛は心から久しぶりに女を抱きたいと思った。




