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 ①⑤④

中越洋二(なかごえようじ)32歳。職業無職。

先月まで都内の派遣会社に登録していたが、遅刻、無断欠勤癖が酷く登録を解除された。


実家であるマンションにて両親と妹と4人暮らし。妹は来月結婚が決まっている。そんな妹に旦那になる男の会社に入れろと冗談めいて言うが、妹はそれを本気だと捉え直ぐにでも家を出たがっていた。


中越洋二は幼い頃から柔道をやっていて、高校1年生の時、県大会の個人戦でベスト8に入った。理由はわからないが、大会後に柔道部を退部し、2年の初めに高校を中退した。


中越洋二に何があったのかわからないが、高校を辞めたその日から、家にほとんど帰らなくなった。


いわゆる半グレや反社との繋がり出したのもその頃だと思われる。だがここ数年は自宅へ戻り、派遣会社に登録し仕事をしていたようだが、その契約も解除された。


圭介の調べた所によれば、派遣会社に登録したのは、振り込め詐欺の受け子などのバイトを集める為だったようだ。


こいつが次のターゲットだった。

身長はそれほど高くないが、柔道をやっていただけあって、横幅が大きかった。一見、肥満体に見えなくもないが、力はかなりありそうだった。


見た目からして誰もがそう感じるように、中越洋二にマリヤをあてがうのは無理があると圭介は考えた。だからこいつは自分1人で殺る事に決めた。その代わりと言ったら、マリヤは膨れるだろうが、処理を全て任せる事にした。


例の刑事の事もあり、アリゲーターマンとして活動を控えていたが、その間も屑共はのうのうと生き、他人を苦しめ続けている。要するに圭介自身、我慢の限界が来たのだった。


許せない気持ちと殺人を犯したい欲求が高まり、刑事の事はどうでも良くなった。捕まるわけには行かないが、屑共も生かしておくつもりもなかった。


圭介はマリヤにその事を伝え、しばらくは動向を探る為に、留守にする時が増えると言った。


「私も一緒に行く」


「駄目だ」


「どうしてよ」


「そんなの決まっているだろう。1人より2人、2人の男より、2人の男女の方が目立つからだよ」


納得いかないと言う表情を浮かべたが、文句は口にしなかった。


素直でよろしいと言いたい所だが、これはデートなんかじゃない。殺人という仕事なのだ。


その辺りを察して反論せず、何故わかったと言えないのか。10代という年齢的なものか?それとも女だからだろうか。


圭介は10代の頃からこの仕事に携わって来たが、一度でも父に反論した事はない筈だ。勿論、父は処理専門だったから、漂白者との違いはあるにせよ、だからといって浮き足立つ事はなかった。


「その代わりと言っては変だけど、処理は全てマリヤに任せるから」


「うん。いいよ。けどさ」


いいよ、という言葉に圭介は少しイラッとした。やはり、マリヤはまだ仕事として捉えていないようだった。いいも悪いもない。やるんだよ。そんな言葉が喉まで迫り上がっていたが、何とか言わずに堪える事が出来た。


「けどさ、何?」


「ちゃんと処理をやるから、次は私の番にして欲しいなって」


「マリヤでも充分に出来ると俺が判断出来たら、それで良い。けど無理な場合は次のターゲットと同様に処理に徹してもらう」


「圭ちゃんの判断なわけ?」


「当然だろ?他に誰が決めるんだ?」


「私」


圭介はあまりにも呆れ過ぎて溜め息をついた。


「今のマリヤがやったら、必ずボロが出てほぼ確実に捕まってしまうさ。良いか?万が一にでもマリヤが捕まったらどうなるかわかる?マリヤが口を割らなくても、警察は絶対にこの家まで辿り着く。そうなったら困る事が、ここには沢山あるんだ」


「捕まらなきゃ良いんでしょ?」


いい加減、物事をそんな簡単に捉えないでくれと圭介は思った。油断や慢心は命取りなのだ。どれだけ細心の注意を払っていても、ミスは起きてしまうもの。マリヤがしたいと望んでいる事が殺人でなければ、それでも良いだろう。だがそうじゃない。俺達は人を殺す事が仕事なのだ。


「とにかく、そういう事だから」


「面倒臭さがったなぁ」


マリヤは言った。


圭介はマリヤに中越洋二の顔写真を見せた。体躯も大きな中越を見てマリヤが言った。


「こんなぶーちゃん相手、圭ちゃん大丈夫?」


「大丈夫な為に、監視をするんだよ」


「そうだったね、うん」


圭介はマリヤの手から写真を返してもらうと部屋へと向かった。


引き出しから手斧を取り出す。その後で鰐のマスクを付けた。体内の血液が沸騰したかのように、圭介の中で沸々と血がたぎる。


一撃に全ての力を集約する。圭介は手斧を振り上げ、力の限り振り下ろした。空気を切る手斧の重たい音に圭介は鰐のマスク越しに中越洋二の血塗られた顔を見た。


2発目をくり出す為に圭介は跳ねた。両手で握った手斧が中越洋二の脳天へ叩きつけられた。頭蓋骨が砕ける音が耳の中で反響した気がした。大丈夫だ、と圭介は思いゆっくりと鰐のマスクを取った。




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