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三重での件で結果的に再び見守りの会へ、いやラピッドへ戻る事になったが、三代子さんが言うように本当に自分に殺人の依頼が来るのかわからなかった。
人を殺す事に躊躇はないが、自分1人の手で完全に殺したのは、たった1人、いけすかないあの男だけだった。
車で跳ねた事はあってもそれ以上はやった事がない。
見守りの会に入っている頃は、刺したり殴ったりはした事はあった。けど息の根を止める最期の一撃はあの男以外に食らわせた事はなかった。
経験値の浅い事は恐らく田山さんはわかっている。永剛が見守りの会を辞めてからずっと何処かしらでラピッドの人間が永剛の動向を見張っていた筈だからだ。
24時間監視するわけではないだろうが、だからといって永剛が人を跳ねたりあの男を殺した所を目撃されていないとも言えない。寧ろ、今の永剛の立場からいえば、目撃され報告が上がっていた方が都合がいい。
見守る側の人間として、実績がある方が信頼される可能性が高いからだ。
ただ、今になって思う事は、ラピッドだけの依頼のみを受けるという契約は少々、息苦しさを覚えた。
悪人だけを狙うのは組織の在り方としては至極真っ当なやり方だし組織としての方向性にもブレがない。それは理解出来る。
けれど永剛にしては物足りない感じがしたのだ。ただ依頼を待つだけはいずれ、ラピッドのやり方に不満を覚えかねない気がしてならなかった。
まだ最初の依頼すら来てないのだから先の事をどうこう言っても始まらないが、監視が解けた今、時を見て個人的に殺人を犯す事もあり得ない話ではなかった。
田山相談役から最初の依頼が来たのは三代子さんが訪ねて来てから4ヶ月が過ぎようとしていた頃だった。
その間、永剛は気持ちを紛らわせる為に、数々の小動物を殺害した。深夜、小学校に忍び込み、ウサギ小屋のウサギを首を切り落とし、胴体だけ持ち帰ったりした。
哺乳類は勿論の事、魚類や爬虫類、両生類なども捕まえたり、盗んだりして殺す練習を繰り返していた。
それも飽きた頃に、依頼が舞い込んで来たのだった。
ようやくかと永剛は思った。
田山さんは特に永剛を懐かしむわけでもなく、相変わらず淡々とした口調で永剛に殺人の依頼をして来た。
「ターゲットの細かな情報はおって郵送させて頂きます。決行日時は、参加出来るメンバーの都合上、こちらで決めさせて頂きますが、もし、その日時に都合が悪ければ早めに三代子さんに連絡して下さい」
他人行儀な田山さんに永剛は砕けた会話は避け、ただ、「はい」と返事を止めるだけにした。
電話を切ると全身に鳥肌が立っていた。
武者震いだろうか。永剛は手の平で肌を擦り、郵便物が早く届けと思った。
その郵便物が届くまでのは間、永剛は淡々と仕事をこなした。相変わらず配達先の住人のチェックは忘れなかった。田舎だからだろう。他所から引っ越ししてくる人間はほとんどおらず、増えるのは赤ん坊ばかりだった。
永剛は殺人という意味では赤ん坊には興味がなかった。勿論、抵抗される事はないし殺すのも容易い。だが苦しみもがく姿が、ただ泣くだけではつまらないからだ。
赤ん坊をさらい、その親の目の前で赤ん坊の爪を剥いだり指を折ったり、ノコギリで首を切り落としたりするのは、思い描いただけでゾクゾクはした。
だがそうする為に母子を拉致誘拐するのはハイリスクだし、この田舎町で行へば直ぐに足がつきそうだった。
通り魔的殺人なら簡単にやれそうだが、それではつまらない。毎日、人を見かけてはそのような妄想を繰り返しながら、仕事に従事していた。
自分の分の配達先の郵便物を仕分けしている時、ラピッドからの荷物を見つけた。宛先は勿論、自分にだった。送り主は田山となっている。それをバイクの荷台に積み込むと、永剛は他の郵便物は後回しにして真っ先に自宅へと向かった。
封筒を開けると一枚のコピー用紙が入っていた。ワープロ?パソコンで打たれた文字がある。
新田美子 47歳。埼玉県狭山市の消費者金融支店長。独身。
そして住まいの住所にカラーコピーされた本人の写真が掲載されていた。
6月17日。住まいの付近に小さな公園があり、そこに深夜1時に待機。
その他の手筈は当日、メンバーから連絡。
尚、読み次第焼却願います
と書いてあった。
永剛は別用紙に内容を書き写し、顔の部分だけ切り取った。内容が書かれた残りの用紙は台所のガス台で火をつけ、それを流し台の上に移動し燃えて灰になるのを眺めていた。
まるでスパイ映画みたいだな、と永剛は思った。
だが、それ以上に高揚感が永剛の中に広がっていた。ついに来たと思った。
その直ぐ後で永剛は新田美子というおばさんを殺害する道具は何が良いだろう?という考えへと移行した。
ナイフか。包丁、もしくはロープで絞殺が良いだろうか?いや絞殺はダメだ。相手にもがき暴れられる時間を与えてしまう事もある。やはり初仕事はナイフが無難か、と思った。
永剛は書き写した紙と女の顔がプリントされた用紙を押し入れの中の本棚へしまった。
その後で、家を出て仕事へと戻った。
6月17日までの約半月。永剛は目が覚めてから眠りに落ちるまでずっと新田美子殺害に向けてイメージトレーニングを欠かさなかった。
イメージトレーニングといえば聞こえは良いが永剛の場合、それはただの妄想に過ぎなかった。
配達時、時折笑みを浮かべ、近隣の子供達に何か笑ってて気持ち悪いなどと指を刺される事もあった。
だが永剛はそんな子供達に更なる笑みを返してやった。お前ら何かにこの喜びがわかるわけがない。クリスマスや正月が同時に来るようなものなんだ。いや、それ以上だ。
そんな事を思いながら馬鹿にされるのを構わずに永剛は次の配達先へバイクを向かわせた。




