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 ①⑤⓪

自宅へ戻るとマリヤがリビングで寝転がり、圭介の机の引き出しから抜き取ったノートを広げ器用に指の間でペンを回していた。


圭介の存在に気づいたのかこちらを見ずに


「おかえり」


と言った。


マリヤのその太々しさというか呑気さというか、自分が勝手に持ち出した癖に、それがバレる事も恐れずノートを戻しもしないその態度に圭介は呆れてものも言えなかった。


当然、怒る気力さえ失った。


「ただいま」


圭介は寝転がるマリヤの側に胡座をかいて座った。


「何してるんだ?」


「ん?次の私のターゲットを選んでるの」


「それってさ。俺のノートだよな?」


「うん。そうだよ。圭ちゃんが許せないと思ってる奴等。どうせ殺すなら圭ちゃんが憎い奴等にしたいじゃん?だから勝手に借りちゃった」


「借りちゃったって……」


マリヤの言葉に圭介はただ苦笑いするしかなかった。


「あのさ」


「何?」


マリヤはペンを回す事を止めた。口を尖らせペンを鼻の下に置く。挟んだまま圭介を見上げた。



「1人でどこ行ってたんだ?」


「あ、ごめんね。圭ちゃん忙しそうだったから声かけなかった。最近、何か悩んでるぽかったら1人の時間が欲しいのかなぁって思ってさ。悪いとは思ったけど、ノート借りて下見に行っちゃったんだよね」


「そうか。気を遣わせてごめんな」


「気にしないで良いよ。誰だってそういう時あるからさ」


全く。誰のせいで気疲れしたと思ってるんだ。だがそれを言った所で、マリヤは意に返さず、圭介が怒る理由がわからないと言い返して来るだろう。


だから圭介はその事には触れず、それでも1人で出かけるのは危険が伴うという事をわからせる為にこう付け足した。


「変な奴に見られた感覚はあったか?つけられてるとかさ」


「んーどうかなぁ。意識してなかったからわかんないや」


全く呑気にも程があり過ぎる。ラピッドではマリヤは死んだ事になっているのだ。それに今の俺は吉田萌との関係を勘ぐられてもいる。


もしかしたら既にラピッドの社員に行動を見張られている可能性だって考えられるのだ。


そんな状況下の中で1人出歩くのは危険だとあれほど言ったのに。


大胆さは時に人の目をだまくらかす事が出来るが、だとしてもやはり行き過ぎだと圭介は思った。せめて自分と一緒であるならわからないでもないが……


今のマリヤはとにかく次のターゲットを決めたいと願っている。確かに次が決まれば殺害のモチベーションも爆上がりするのは分かる。その為に労力は惜しまないつもりだ。だが……ふと横断歩道ですれ違った刑事の顔が脳裏を掠めた。圭介は歯噛みしながら再びノートに目を落としたマリヤを見下ろした。


奴が千葉県警の人間であれば、自分が下した事件の事は知っている筈だ。もしかしたら担当刑事かも知れない。わからないが、圭介は嫌な予感がした。


奴がいる事で厄介な事になりそうな、そんな予感が頭から離れない。考え過ぎだというのは自分でもわかっていた。


ただ、吉田萌の件に都内の刑事だと思っていた奴との遭遇。不運というのは続くものだというのを、経験上、圭介は知っている。そのように習ってもいた。


そういう場合は餌を求めて彷徨うのではなく、真冬の飢えた獣のようにただ、餌が現れるのを息を潜め、じっと待っている事の方が正しい結果へと導かれる事の方が多いのだ。


マリヤの希望を叶えるのは構わないが、その為だけに2人でターゲットの行動を監視する事に、圭介は一抹の不安があった。


何故ならあの刑事が圭介を感じとるアンテナのようなものを持っているような、そんな気がするからだった。


とにかく今後は絶対に1人で出歩かない事をマリヤに約束させると圭介はシャワーを浴びるといい起き上がった。そんな圭介にむくれた顔を向けたマリヤだったが、圭介は気づかないふりをして風呂場へと向かった。


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