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 ①④⑧

2件ほど梯子して永剛は男を自宅へと誘った。意気投合した振りをしながらドライブに誘い出す。


男は直ぐに永剛の誘いに乗って来た。カーステにカセットを入れジューダスプリーストをかける。男はうるせー音楽だなと嫌がったが、永剛は構わずにかけ続けた。

そして数年間、下見をする中で見つけた山中まで男を連れて車を走らせた。


人気はおろか街灯すらない山道の中で車を止めると永剛は男にこう言った。


「この辺りって女が拉致られてよくレイプされているんですよ。上手く行ったら見れるかも知れませんよ?どうです?行きません?」


永剛の誘いに男はニヤけ顔で頷いた。


「やられた女で良ければ出来るかもしれないです」


「お前、悪だなぁ」


「まぁ、それはお互い様って事で」


永剛はいい男を車から下ろさせた。

トランクを開け、ハンマーを手に取り、それを腰に差した。


「そんな物騒なもん持ってどうすんだ?」


「レイプ犯に見つかった場合の備えですよ。だって向こうは一人じゃないですからね」


「あぁ、そういう事か」


「拳銃でもあれば良いんですけど、生憎、ここは日本ですからこんな物で脅すしか方法がないですよ」


永剛が笑いながらそう言うと、男はそれなら刃物の方がまだマシじゃないか?と言った。


「刃物だと間違って刺しでもしたら大変じゃないですか?僕はこんな事で人殺しになんてなりたくありませんよ。その点、ハンマーなら打撲程度で済みますから」


「頭に当たったらそうはいかないけどな」


男はヘラヘラしながら言ったが、永剛がハンマーを持つことには納得したようだった。


「武器要りますか?」


と尋ねたら、男は首を横に振りいらないと言った。


「ダメだ。調子に乗って飲み過ぎた。お陰で周りの物が回ってみえてるぜ。こんな酔っぱらいに武器なんて不用さ。万が一、見つかった場合はお前に助けてもらうさ」


永剛はニヤリと笑い頷いた。


男に慎重に進むよう指示を出して、2人は草むらを掻き分け雑木林の中に入って行った。


数分進んだ後、永剛が男の前に腕を突き出した。

しゃがむよう指示を出す。男はそれに従い腰を屈めた。永剛は男に向き直り腰に差したハンマーを掴んだ。


「いたのか?」


永剛は頷いた。


「ですが、まだやってない感じです」


「チッ、とっととやっちまえよ。なぁ?」


男が立っている永剛を見上げた瞬間、永剛は力の限り男の側頭部へ向けてハンマーを振り抜いた。ビールの栓を開けた時のような音がし男はゆっくりと横倒しになった。口から泡を吹き出し、身体が痙攣している。永剛はその男の両足首を掴むと、腰の位置まで持ち上げた。永剛は男を引きずりながら車へと戻って行った。


手拭いを口に巻きつけ手足をロープで縛った後、永剛は男をトランクへ押し込んだ。後部座席でも良かったのだが、万が一運転中に意識を取り戻したら面倒な事が起こらないとも限らない。これは田山さんから学んだ事だった。


細心の注意を怠らない。準備もしっかりと行う。殺害する現場を決めたらあらゆる時間帯で、その現場を下見する。ここ何年か永剛はそれを怠る事はなかった。


今更ながら、見守りの会という組織は恐ろしい組織だと自宅へ向かう車の中でそのように思った。永剛としては見守りの会の極悪人限定という部分が少々気に入らなかった。


自分としては殺すのは誰でも良かった。ただ死体が欲しかっただけなのだ。だが上手く行かなかった。


それで拉致が開かないと感じ永剛は見守りの会を辞めたのだ。もし永剛の希望を田山さんが認めてさえくれていれば、きっと今でも見守りの会に席を置いていただろう。だがそうはならなかった。死体の処理に時間をかけてはいられない、というのが田山さんの考えだったのだ。


速やかに行動を起こす。そして速やかにその姿を消す。それが出来なければ必ずいつか警察に捕まってしまうのだそうだ。果たして田山さんの言葉が本当かどうか、この男を殺した後、きっとわかる時が来るだろう。永剛はトランクから引き摺り出した男を、父の骨が埋まっている畳の部屋へ運び込んだ。


畳は既に上げてある。床下にはブルーシートも敷いてある。血の臭いを消す為の石灰や塩素系洗剤も準備万端だった。永剛は男の衣服を脱がし背中を蹴り飛ばした。


男は反転しながら床下へと落ちて行く。永剛は車にハンマーを取りに行った。ノコギリや包丁、鋏にノミ、大工が使うカンナは既に部屋に用意してあった。

永剛はそれらの工具を床上にまとめて置いた。そして改めてハンマーを使い男の頭部を殴りつけた。ドスンドスンと鈍い音が家の中に響く。


が、外に漏れる程ではなかった。頭蓋骨が割れた手応えがあった。永剛は一旦、ハンマーを置いて鋏で男の髪の毛を切り落とした。額を潰し、鼻を叩く。唇は裂け、歯が飛び散った。生爪を一枚一枚剥がして行く。これは初めてやったがかなり楽しい行為だった。


だが、わかっていた事とはいえ顔面一つ潰すのにこんなに大変で重労働なのがいかんせん、気に入らなかった。


なので今まで永剛が思い描いた潰れた人間を作るには更に日にちがかかりそうだった。だが永剛は全く苦にしなかった。遅々として進まない行為に腹立たしさはあったものの、放り出す事はなかった。


永剛は小さい頃夢見た念願の死体をついに手に出来たのだ。辛い筈がなかった。永剛は朝になれば郵便配達員として仕事をし、この人間を潰したいと思わせた人の住所や名前を控えリストを作成した。その生活の中にあって永剛は約、数ヶ月を使って男の身体を潰し切った。


だが全く納得出来るものではなかった。骨という物が、潰れた人間の美しさを損なっている、永剛はそう思った。


その骨を何とかしなければならない。細かく砕けば良いだけだったが、それをする忍耐力がまだ備わっていなかった。そこまでしていたら、男を潰すにはまだ数ヶ月は必要だったに違いない。永剛は思った。


車で轢き殺し踏み付け続ければ骨も砕け、潰しやすくなるのではないか?永剛は次の夏に来る休みをその為に使おうと決めた。


そしてその夏に三重で暮らしていた吉田萌の両親が英永剛の魔の手にかかったのだった。永剛は吉田萌の両親を盗んだ乗用車で轢き、再びバックで戻ると倒れた2人を轢き、又、速度を上げて轢いたのだった。永剛は車を止めドアを開けた。外に出ようとした瞬間、直ぐ側から悲鳴が聞こえた。声がした方へ目をやると何者かが電柱の陰に身を潜めていた。見られたと思った。大声をあげられた永剛は慌ててその場から逃げるように車を走らせた。大声をあげたその目撃者はゆっくりと電柱の陰から身を出し地面に横たわる2人の人物の側へと歩み寄った。1人は男でもう1人は女だった。


男は頭から血を流し苦悶の表情を浮かべている。女は手足が変な方へ折れ曲がり肘から骨が突き出していた。既に息はしていないと思われた。その2人の人物は虫の息の男に近寄り腰を屈めた。髪の毛を鷲掴み引き上げる。地面に向けて叩きつけた。数度、繰り返すと男は息をしなくなった。その2人の人物は周囲を確認した後、その場から離れて行った。おしどり夫婦を気取っていたが、その実、あんたらは何人もの人間を蔑み、中傷しそれをみて嘲笑い、更に追い詰め苦しめ続けて来た。時に言葉の暴力は肉体の暴力より人を傷つけるのよ。自分達のしている事への償いや反省する時間はたっぷりあった筈。でもあなた達は自分を顧みる事をしなかった。だからこのような目に遭う羽目になったの。その2人の内、女の方がそのように頭の中で言葉を囁いた。


そして徐に携帯電話を取り出すとある人物へ電話をかけた。闇の中に携帯電話の画面の明かりがぼんやりと浮かび上がった。画面には田山相談役と表示されていた。その人物は歩きながら呼び出し音を聞いていた。数回で田山相談役が電話に出るとその人物は先程起きた事を詳細に話した。


「本当に英君で間違いないのですね」


「はい。間違いないです」


「三代子さん」


「何でしょうか」


「静岡へ行って貰えますか」


「英君を処理するのですか?」


「いえ、まだわかりません」


「そうですか」


「今回の事を踏まえると、どうにも彼が私達を必要としている気がしてならないのです」


「相談役の言いたい事はよくわかります。確かにそうかも知れません」


「このままだといずれ英君は捕まるでしょう。幼少期の不遇な家庭環境に同情しているわけではありませんが、それでも彼は私達の元メンバーです。辞めた理由も今回の事と繋がりがあると考えて間違いないでしょうね。英君は過去に私にこう言いました。処理した死体が欲しいと。勿論、私は断りました。きっと英君は死体を使って何か実験的な事をやりたいのかも知れません。もしそれがしたいだけであれば見守りの会に、いえラピッドにいればかなりの確率で安全を保障され且つ自分がしたい事を出来る筈です。シェフとなれば殺害する相手をどのように殺しても構わないのですから。それが終わって初めて処理屋に回される訳ですから死体がどんな状態であろうとも関係ありませんし」


「ひとつ聞きたいのですが、相談役はどうしてそこまで英君を守ろうとするのですか?」


田山はしばらく沈黙した後、こう言った。


「愛おしいからですかね」


「愛おしい?」


「ええ。見守りの会に初めて英君が来た時の事を今でも思い出します。きっとその時からでしょう。私が彼を愛おしいと感じたのは。私は子供を産んだ事はありませんが、英君の事は我が子のように思っていました」


「そこまで、想っていられたのですか」


「他人さまの息子さまにそのような感情を抱くのは何ともお恥ずかしい話しですが、でも嘘偽りない気持ちです」


「そこまで相談役が想いになられていらっしゃるのであれば、私は再び英君がラピッドへ戻って来る事に反対はしません」


「三代子さん、ありがとう」


田山相談役はいい、三代子はとんでもありませんと返した。


「話は戻りますが、幸い、英君のお陰で私達が吉田夫妻に殆ど手を下す手間が省けましたね」


「はい」


「長話の後で申し訳なく思いますが、三代子さん。お手数ですが今から待機してくださっているメンバー達へ連絡をし、撤収するよう指示を出してくださいませんか?」


「良いですよ。わかりました」


「三代子さん」


「何でしょうか」


「愛しています。どうかご無事で」


「私も同じく愛しています」


三代子はいうと携帯電話を切った。そして新たに組織化された死体処理専門の人間、処理人に連絡を入れ、もう待ち合わせ場所で待機しなくても良い事を告げた。


その後で見守りの会から変名したラピッドの会員である、殺害後の死体移動、処理人へ死体を届けたり現場の後処理などを手掛ける処理班へと連絡をつけた。


その後でシェフ(元は漂白者)なる者へ公衆電話から電話を入れた。三代子は連絡を終えると警察や救急車は呼ばず、1人その場から離れて行った。


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