①④⑥
2月2日、見守り決行日、明山未子と久米悟は永剛達とは別行動となっていた。
田山代表と八木、阿波、永剛の処理班は一旦、見守りの会に集まり八木の車で都内へ移動する事になった。
永剛は散々悩んだがこの事は楓には言わない事にした。その理由としては殺人を犯す手伝いをする事に楓が反対すると思われた事と、三代子さんからも言わない方がいいと口止めされたからだ。
何でも楓は永剛のいない所で、永剛に愛されている事をのろけたり、永剛は私の最後の男なのよと言いふらしていたらしい。そこまで愛している男が殺人で捕まりでもしたら、きっと楓では狂ってしまう。
三代子さんはそれを心配し永剛に口止めするように言って来たのだ。それに対し三代子さんは殺人に関しては全く気にも止めていない風だった。
「世の中には生きていたらいけない人が沢山いるからね」
そういう三代子さんだったが、絶対に見守りの方には参加しないと決めているようだった。
「死体の処理はまだ何とか我慢出来るけど、生きてる人間を殺すのはさ、かなり怖いよ。だって反撃されたらこっちが死んじゃうかもでしょ?そんなのめちゃくちゃ怖いじゃない?それに私、まだ死にたくないしさ」
どうやら見守りを拒否するのはそのような理由からのようだった。それを聞いた時、永剛は自分は両方やりたいのに、と思った。僕は殺害してみたい。そして死体で色々と試してみたい、その気持ちが強かった。
夜11時に出発し、深夜1時前に都内へ入った。
八木は阿波さんの支持の元、車を走らせた。阿波さん自身、車で来るのは初めてだったらしく、時々、地図を頼りにしてながら八木をナビゲートした。
今村はそれまでの生活と同じように火曜日の夜は高円寺へと飲みに繰り出していた。阿波さんの話だと贔屓にしている店はないらしいが、代わりに出禁になっている店は多数あったようだった。
それでも候補として挙げられていた店舗の内、
2番目のスナックに今村はいたようだった。
この当時、まだ携帯電話は普及されておらず、明山と久米と連絡を取り合う手段がなかった為、店舗を特定するには阿波さんだけが頼りだった。
時間からして恐らく2、3軒は梯子酒をしているとよんだ阿波さんの指示通り、全員は高円寺北口の裏の方へ一旦、車を止めた。すぐ近くにはそこそこ大きな公園とふるぼけた神社らしき鳥居が見えた。時折明滅する街灯の灯りが朱色の柱が所々剥がれている鳥居を闇の中へ浮かび上がらせる。八木は公園の側で車を止めた。田山さんの指示で八木1人が車内で待機する事となった。
「いつでも出発出来る準備だけは怠らないで下さい」
助手席の窓から車内を覗くような形で言うと、既に車から降りていた永剛と阿波さんを引き連れ、今村勉の行きつけのスナックがある付近へ向かって歩いた。
駅方面へしばらく歩き商店街の方からいきなり喚き声が聞こえた。3人同時に顔を見合わせた。直ぐに声のした方へ向き直る。気づくと3人共、そちらへ向かって足早で歩いていた。声をあげたその人物は商店街の通りに尻餅をつく形で倒れていた。そんな人物を数人の男が見下ろしている。一言二言、忠告するようその人物の顔に向け指差していた。差された人物はその指を払い退け起きあがろうとするが、アルコールのせいか、よろめいて再び転んでしまった。
「今村です」
阿波さんが田山さんに小声で囁いた
それを合図に田山さんが永剛に車に戻り八木さんに準備をするように伝えた。
「私が車のある方へ誘い出します。阿波さんはこのまま明山さん達と合流して下さい。あの神社で落ちあう旨は2人に伝えてありますから。落ち合い次第、準備をさせておいて下さい」
「わかりました」
永剛と阿波さんはほとんど同時に散り散りになった。
エンジンを切って、八木と永剛は車内で息を潜めていた。八木は運転席のまま、永剛は運転席寄りの後部座席に位置していた。場合によっては殺す事が出来ず拉致を優先的にする場合もあると八木さんから聞いたからだ。
そういう場合、大抵、助手席側の後部座席の方へ押し込まれる形になると八木さんは話してくれた。
そうなった場合、ターゲットが逃げられないよう中の人間が捕まえなければならないのだ。その為の後部座席待機だった。
田山さんが今村をどう誘い込むのか見てみたかったが、あそこまで酔っ払い、店から追い出されたので有れば意外と簡単かも知れない。そう永剛は思った。
別の店で飲み直しましょう。何かあったんですか?と話を聞いてやり、同時に同情心を見せて、油断させる。こんなやり取りをしている田山の光景が永剛には見えた気がした。
数分も経たない内に、今村勉のがなる声が深夜の高円寺に響き渡った。だがその声は先程聞いたものより随分と違った印象をうけた。
時折、笑い声さえ混じっている。永剛は身を伏せながら後部窓から覗き見た。今村と腕を組んで歩く田山さんの顔が街灯に照らされる。
闇の影がその半分を覆っていたが、微かに笑みを浮かべていた。だが田山さんの今村を見るその目は、決して笑ってなどいなかった。
2人が神社の鳥居の前を通りかかった。
その前には公園があり、田山さんはトイレと言って今村の頬にキスをした。それが合図のようだった。
今村はニヤけながら早く戻ってこいよと鳥居の前に腰を下ろした。煙草を取り出し火をつける。田山さんは助手席の窓をノックしてからトイレへ向かう。後は明山さん、久米さんの出番だ。
そう思いながら視線を田山さんから今村へ向けた時、いつの間にか座っている正面には明山さんが、背後の階段からは久米が忍び足で今村へと近づいている。
永剛は思わず生唾を飲み込んだ。見ているこちらが緊張して来る。手の平が汗で滲み、無意識に握りしめていた。一歩、一歩、神社の階段を踏み降りる久米の足の音さえ聞こえて来そうだ。
見計らったように明山が今村へ声をかけた。
「一万円でどうかしら?」
「ん?テメーみたいなババアが一万円?ふざけんな」
「フェラは勿論、アナルも良いわよ?」
「クソが出る穴に興味なんてねーよ。向こういけ」
そういい、手で追い払う仕草を見せたその時、久米は今村の直ぐ背後に立っていた。明山の視線が今村から外れたのか、今村はとろんとした眼差しを明山に向けたまま首を傾げた。
気配に気づいたのか今村が後ろを振り返りそうになったその時、久米が両腕を肩幅の広さに広げた。手には革手袋をしており、その両手には細いワイヤーのような物が握られていた。
今村が振り返るより早く、久米は広げた両腕を今村の首の前に出し、ワイヤーを首にあてがった。そのまま後ろへと引き倒す。久米は両脚で今村の胴体を挟み込んだ。足首と足首を交差させ逃げられないよう両脚を固定した。
同時に左腕を今村の右側頭部付近から円を描くように腕を回した。押し付けられていたワイヤーが完全に首に巻き付いた。
今村はその細いワイヤーを外そうと掴むが細くて上手くいかなかった。
自ら指先を首に押し付け、その隙間から左右4本ずつの指を無理矢理にワイヤー下へと潜り込ませた。明山はダチョウのように頭を動かしながら周囲に注意を払っている。
久米は無表のまま淡々と首を締め付けていった。今村が足をバタつかせた。それに気づいた明山がハンドバッグから果物ナイフを取り出し、今村の側へ行くと太腿へ向かって幾度も突き刺した。久米がフンッと鼻を鳴らした。一気に力を加えたようだった。
瞬間、今村の片方の指先4本がプチっという音を上げ、切断された。第1関節から切断された4本の指先は今村の、胸を伝い、コロコロと転げ落ちて行った。
暴れる足が弱まるのを見て明山は今村の腹部目掛け果物ナイフを突き刺した。今村の身体から力が抜け落ちていく。切断された指の方の片腕がダラリと垂れた。それを見て明山と久米が頷きあった。久米は胴体に回していた両脚を解くと今村の首からワイヤーを外し、今村を引き上げた。今村の脇に頭を入れ持ち上げる。明山が久米に向かって手招きした。久米はその指示に従い今村を抱き抱えながら階段を降り車へと向かって行った。




