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 ①④⑤

目的のマンションに来たが、マリヤの姿はなかった。

室内に入り込んでいる可能性が無いとは言えないが、今日という日が平日である事を考えると、こいつはまだ帰宅してはいないと圭介は思った。


もしマリヤが早まり連れ込まれていたとしたら……

いや、顔も知らないのにみすみす、部屋の中に入るとは思えなかった。


いきなり殺害するという行為に及ぶのも考え難いが、ドライバーが無くなっている以上、マリヤにそのつもりは無いと言い切れない。


圭介はインターホンを鳴らした。マンション入り口の集合ポストには名前は記入されていない為、部屋番号が間違いの場合も考えられたが、迷っている時間はなかった。


3度鳴らしたが居住者からの反応はない。それが圭介に嫌なイメージを起こさせる。


舌打ちをし、別なターゲットの方へ向かう為、マンションのエントランスから出て行った。


そこで立ち止まり、記憶をほじくり返す。が、焦りからか全く思い出せなかった。


マリヤの姿をまるで彷徨うように探し出さなきゃならないのか。全くの油断だった。いつもならあの引き出しには鍵がかけられていた。


だが、マリヤとは仲良くしていたし、父達は旅行中という事もありいつしか開けっ放しの状態が続いていた。


こうなる事を全く予想出来なかった自分が心底情け無い。漂白者としての、処理屋としての自分に自信を持ち過ぎたせいかも知れない。


傲慢さから来た手痛いミスだった。マリヤの事は信用していたが、何をしでかすかわからない所があるのはわかっていた。


それでもマリヤが勝手に行動に出るなんて思わなかった。


圭介はマンション側の階段に座り、スマホを取り出した。連絡が来ていないか確かめるが、マリヤからもラピッドからも来ていなかった。


圭介は額に滲んだ汗を手の甲で拭うと大きく深呼吸した。何故だ。何故こうも焦ってしまうのか。


殺人を犯す方がよほど気が楽だ。初めて人間を殺した時のような精神的な不安定さが血液のように全身を駆け巡っている。


「クソっ」


圭介は歯噛みしながら次のターゲットの事を思い返そうとした。だが上手くいかなかった。


まるで最初から合わないピースを嵌め込もうとするかのように、圭介の中でそれらの人物が蠢き回る。


顔も体型もバラバラになり、万華鏡を回すかのように、ターゲット達は圭介の頭の中で目まぐるしく回転していた。


無理だ、と圭介は思った。


記憶も曖昧な上に、焦りが加味されてはどうにもならない。一旦冷静になれと言い聞かせるが、気持ちをコントロール出来なかった。


さっきすれ違った刑事のせいもあるかも知れない。マリヤを追いながら自分が追われている感覚は確かにあった。


その不安要素が圭介の精神の乱れを引き起こしたのは明白だった。だが圭介はそれには気づいていなかった。


いや気づいていたが、認めたくなかった。自分が怯えているだと?そのような気持ちが圭介の精神の世界の深い部分に身を潜めていたのだ。


だからこそ、圭介は今の自分を冷静に見る事が出来ていなかった。圭介はフルマラソンを走り切った選手たちのように、身体を曲げ両膝に手をついていた。


帰ろうと思った。ひょっとしたらマリヤも帰っているかも知れない。圭介は無理矢理にそう思い込んで車を止めたパーキングへとその足を向けた。


足取りは弱く、疲労感に苛まれていた。そんな圭介の姿を目に止めるものは皆、圭介が死に場所を求めて彷徨っている風に感じただろう。


それでも何とかパーキングにたどり着いた圭介はシートを倒ししばらく横になった。


目を閉じると小屋に放置していたマリヤの姿が浮かび上がる。死ぬなよと圭介は思った。


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