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 ①④①

母からの荷物が届かなくなって3ヶ月が過ぎた。

その理由は母が入院していた事が大きな要因だった。


その間の生活費や光熱費、その他、学校で必要となる諸々のお金は貯めていたお金を使って何とかカバーした。

母は約2週間で退院したらしいと阿波さんが教えてくれた。


その後、迎えに来た30代と思われる男性と共に病院を後にしたらしい。が、阿波さんの話によればその男が母をそんな目に合わせたのは間違いないという事だったが、証拠がなかった。


ただ残念なのはまだ腫れの残っている顔のまま母は男に向かって笑顔をみせたらしい。入院する程殴られたのにも関わらず、未だ母はその男にべったりな様子だったようだ。


「住所は前のままで、退院されたお母様も一緒に住んでいます。入院されたのが直接的な要因とはいいかねますが、英くんのお母様は仕事をクビになったようです」


「といいますと、今はその男性に養ってもらっている状況という事ですね」


見守りの会の田山さんは阿波さんに向かってそう言った。


「そのようです」


「その男性の周囲からの評判は如何ですか?」


「すこぶる宜しくありません」


「どういった所が、でしょう?」


「職場では遅刻、無断欠勤が多く、同僚とのトラブルも絶えません。特に金銭の貸し借りが酷く、主に借金の方ですが、その返済について同僚と揉めて怪我を負わせた事も何度かあるようです」


「そうですか。では改めて皆様にお伺い致します」


田山さんは言い、座っているメンバー1人1人の顔を見ていく。


「私としてはこれ以上、待つ必要はないと考えています。何故なら今現在、お母様からの仕送りが途絶え英君の生活が支障をきたしているからです。勿論、英君のお母様はわざとそうしているわけではないのでしょうが、退院されてから2ヶ月は過ぎております。怪我の具合が芳しくないのかも知れませんが、だからといって入院されてから退院を含め3ヶ月以上、仕送りが出来ないとはどうしても考えられません。2人の親子関係に口出しするつもりは毛頭ございませんが、最低限、英くんが生きていけるよう取り計らうのが親としての勤めでもあります。それを妨げる要因となる者や環境はやはり即刻、見守るべきだと思います」


永剛以外の人達全員が田山さんの言葉に頷いた。


「賛成の方はご起立願います」


その言葉に永剛は違和感を覚えた。

確か永剛の母を見守る対象とするか否かを決めた時、その時は挙手だった筈だ。だが今回は起立となった。その違いは何だ?全員が椅子から立ち上がるのを見て、永剛は訳も分からず同じように立ち上がった。


同時に全員の視線が永剛に向けられた。誰もが微笑んでいる姿に永剛は背筋が震え冷んやりとした汗が首筋に流れた。


皆んなが怖いわけじゃなかった。それはこれから何かが起きる、見守りの会の決断により何かが、永剛の知らない何かが行われるのだという、その予感めいた事に永剛は高揚し震えたのだった。


「満場一致ですね」


そう言う田山さんの表情は心なしか硬く、引き締まって見えた。田山さんは皆んなに着席するよう促した。


それぞれがそれぞれのタイミングで席に座って行き永剛もそれに習った。


「では、次は誰がその男性を見守るかと言う事ですが……」


「相手は男性という事もあり、ここは女性で見守るよりは男性の方の方が良いかと思います」


阿波さんが言った。


「阿波さんはその男性を見ていらっしゃいますものね。屈強な感じの男性でしょうか?」


「見た目はそれほどではありませんが、やはり噂では暴力的な性格ですので、万が一反撃を受けた場合の対処が、女性だと難しく感じられます。後、それとは別に……」


「別にとは?何でしょうか」


田山さんが阿波さんを見ながらそういった。


「相手は東京住まいです。ですので、その、なんて言いますか、仕事等で数日は開けられる人を選ばないと厳しいと思います」


「なるほど。確かに、東京に行き直ぐにその男性を見守りが出来るとは限りませんものね」


田山さんは言った。


「私の考えですが、今回は複数名を見守るメンバーとして選びたいと考えております。

理由は先程、阿波さんが仰った事と、且つ場所が東京という事もり、見守り実行者と、もう一つの2班にわけ、迅速に執り行いと思いますが、皆様どう思われますか?」


「今、ここに来てないメンバーもその中に含んでも良いのかな?」


永剛と同じように毎週欠かさず顔を出している八木さんがそう言った。


「勿論、構いません。ですが、今まで通り、来られていないメンバーに対しこの決定をこの場意外でお伝えするつもりはございません。つまり、電話や手紙、はたまた偶然出会ったとしても、この決定は口外しないで欲しいのです」


どういう事だろうと永剛は思った。来たくても会に参加出来ない人もいるのではないか。そういう人達の中には今回の決定で見守りのメンバーに入りたいと思う人もいるだろう。


反対にこの中には仕事や家族などの都合で参加出来ないメンバーばかりだったらどうするのだろう。

決定した2班に分けられる程の人数がいなくて延期となるのだろうか。それに実行日というものも明確になってなければ、未だ、見守るという意味すら永剛はわかっていなかった。だから永剛自身、この決定には参加しようと思った。


「では、この中で今回の決定に参加出来る方は挙手をお願い致します」


田山さんが言った直ぐその後に、入り口の戸が開いた。皆んながそちらへ一斉に振り向いた。


入って来たのは、確か明山未子という名前の人だった。


「遅くなってごめんなさい」


明山未子は頭を下げながら後ろ手に戸を閉めた。


「どうぞ」


田山さんが空いている椅子を薦めた。

明山は座り、一息つくと


「決まりましたか?」


と言った。


田山は頷き、それに続くよう皆も頷いた。


「私、見守りで参加します」


明山は言った。内容も知らない筈なのに簡単に参加するという明山に、永剛は興味が惹かれた。


「明山さんは前回も参加されてますが、本当に大丈夫ですか?」


「ええ。大丈夫ですよ。ですが、既にメンバーが決まっておいでになるのなら、辞退しますけど?」


「いえ。その点はまだ大丈夫です。これから決める所でしたので」


田山は言うと、今回は2班に分けて行う事を付け足した。


「2班で行うというのはどういった風にしようとお考えになられています?」


明山未子が未子が問う。


「相手は男性ですので、見守りは2人以上が好ましいと考えます。そして、その後の片付け、つまり処理をするメンバーを3人、無いし4人はいた方が良いかと、私個人の考えですがそのように思っております」


田山が言うと明山未子は少し考えてから、頷いた。


「わかりました。それで構いません。ちなみに見守りは私の他には誰かいらっしゃるかしら?」


明山はいい来ているメンバーを見渡した。


八木に阿波さん、そして永剛と今日参加しているメンバーは明山を除いて3人だった。永剛は手を挙げていたが、まだどちらに回されるかは決められていない。


「阿波さんと英君は処理の班でお願いします」


手を挙げていなかった阿波さんだったが、否応にメンバーに選抜された形となった。だが阿波さんは不満な表情も見せず文句も言わなかった。


「阿波さんには引き継ぎその男性の動向をチェックして頂くと同時に、当日の手引きもお願いします」


「わかりました」


とあっさり阿波さんは引き受けた。

その態度からして最初に見守る人間の素性を調べる役割を担った人は、必然的に、処理というものの担当を任せられるのかも知れない。それは永剛にも何となく理解が出来た。何故なら見守る人間の普段の生活を知っているのはその人物だけだからだ。


だが、見守る方は何をするのだろう。何となく想像はついたが、母と別れさせる為に、その男と母を説得するにはおばさんでは無理だと思った。処理というのはきっと話し合いの後、事務的な手続きを行う人達に違いない。永剛はそう考えていた。


「残る3名、明山さんのパートナーとなる人と処理する為の2人、もしくは1人の方は次回の時にでも決めたいと思います」


田山はいい


「何か質問はございますか?」


と尋ねた。誰も何も言わなかった。


そして解散となった。


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