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集合場所に着いた時は既に何組かのバスは出発し始めていた。永剛と遠藤の2人は、やばいやばいと言いながら息を切らしそちらへと駆けて行った。自分のクラスのバスの乗車口に担任の先生が立っており乗り込もうとする2人に、それぞれ、頭に軽くゲンコツを食らわせた。
「イテッ」
という永剛に担任の先生が遅れるお前らが悪いとぶっきらぼうに言われながら、2人はバスに乗り込んだ。
永剛は、中央の通路を後方寄りの席へ向かって歩く。既に待っていたクラスメイトの視線が一斉に注がれるが、永剛に文句を言う生徒はいなかった。1人席に座ると永剛はポケットの中を確かめた。夢中で駆けて来たから落としたかも知れないと思ったからだ。だが例の2つの物はしっかりとポケットに収まっていた。一息つくと遠藤に愚痴をいう複数の女生徒の声が車内に響いた。遠藤はそんな声に対して
「ごめんごめん」と謝っている。
永剛と一緒だった事を突っ込まれているが、
それについては、直ぐそこで会ったと誤魔化していた。そんな遠藤の声を聞き、少しばかりホッとした。
いつもの遠藤に戻った感じがしたからだ。バスが動きだすと再びポケットの中に手を突っ込んだ。
ここには失禁した遠藤の下着と男の顔面を破壊した石がある。それに触れていると喉の奥が熱を帯びて来る。振り返ると自分ではそこまで興奮していたと感じていなかったが、それは間違いのようだった。
ゆっくりとだが気分が昂揚して行くのが感じられた。指に巻いていた布は、集合場所へ向かうバスの中に捨てて来た。深泥池の死体がいつ発見されるかわからないが、車内に捨てた布がその死体と関連付けられる事は先ずない筈だ。今日1日が終わりあのバスも点検や車内清掃に入るだろう。その時に車内を掃除する人が見つけ、こんな所に捨てるんじゃねーよ、なんて文句を言いながらゴミ袋行きだ。遅くとも2、3日の内に焼却処分される筈だ。
永剛はその2本の指で石に触れた。撲る度に、擦り切れる皮膚。その傷からドロッとした血液が流れ出していく。だが既にに死んでいるせいだろう、その血は直ぐに止まる。が、永剛自身血には興味をそそられなかった。
それ以上に徐々に顔面の形が変わって行く様が堪らなかった。永剛は石から指を離しポケットから手を引き出した。わかっていたとはいえ、人1人を完全に潰すにはかなりの時間と労力が必要となる。その為の施設として、今の家は充分と言えるだろうか。床下をコンクリートで固めれば可能かも知れないが、周囲に物音が響く可能性も考えられた。土の上にシートを敷いて死体を潰す?その死体をどうするかというのは、今は何の計画もなかった。慌てなくていい。焦る必要もない。時間をかけゆっくりと考えていけばいい。永剛は物思いに耽りながら、去りゆく京都の街並みを眺めていた。
大阪のホテルに着くのが何時になるのかわからないが、とりあえず京都では良い思い出が出来たと思った。遠藤のいった将来思い出して笑顔になれる良い思い出が出来るかも知れないというのは、満更嘘ではなかったようだ。
永剛は頭を窓にもたせかけ動き出したバスの揺れに身体を預けた。緊張の糸が切れたのか自然とアクビが口をついて出る。瞼が重くなり眠気に襲われた。永剛はそのまま目を閉じ、ホテルに着くまでの間、泥のように深い眠りの中へと落ちていった。
ホテルに着くと既に夕食の支度が始まっていた。生徒達は各6名ずつに部屋割りされ、そちらへ荷物を置いて直ぐに大広間へ来るように言われた。食事は2クラスずつに振り分けられ、永剛のクラスも他のクラスの生徒達と一緒に夕飯を取るようだった。普段、全く会話をした事のないクラスメイトと同じ部屋で寝るのは永剛にとってそれなりにストレスだった。
それは向こうも同じだろうが、この夜を境に下手に仲良くするつもりもなく、ただただ面倒だなと永剛は思っていた。荷物を置くと直ぐにリュックから着替え用の私服を取り出した。制服を脱ぐとシャツについた血を他の生徒に見られないよう気をつけ急いで丸めリュックの底に押し込んだ。その後でズボンを脱ぎ、私服に着替え1人部屋を出た。
修学旅行にはしゃぐ生徒の会話を耳にしながら食べる大広間での夕飯はとても美味しいものではなかった。
勿論、食事自体はさほど不味くはなかったけど薄味過ぎて好みではなかった。それでも永剛は綺麗に食べ終えると大広間を出て行った。担任がそんな永剛の姿を見て席を立ちかけたが、他の生徒に話しかけられ、渋々、思い止まった。
永剛は1人部屋へ戻るとタオルと石鹸を持ち、浴場へ向かった。簡単にお風呂を終えて部屋に戻るとまだ1人も姿がなく、誰も大広間から戻って来ていないようだった。
永剛は制服のポケットから遠藤の下着が入っているビニール袋を取り出し、トイレへと行った。大便器用の個室に入り便座を下げジャージと下着を脱いでからビニール袋の口を解いた。遠藤のオシッコによって塗れている下着を持つとそれを顔の前に持ち上げた。濡れた箇所に鼻を押し付け匂いを嗅いだ。アンモニア臭はさほど感じなかったが、この下着を脱がした時の事が脳裏に蘇りペニスが勃起した。便座に腰掛け遠藤の下着を身につける。
勃起したペニスが濡れた下着に押し付けられると自然と喉の奥から掠れた息が漏れて出た。キツキツの下着の中に無理矢理手を入れペニスを弄る。指先に残った微かな遠藤の性器の肌感を思い出しながら鬼頭を弄った。あの時、遠藤は性器に触れる僕の手を押さえつけた。
どういう事をされているかくらい遠藤にもわかっていただろう。だから止めたのだ。愛撫をされたのが初めてかどうかは永剛にはわからないが、あの時、遠藤が拒否したのは正解だったかも知れない。受け入れていたら永剛も自分を抑える事が出来なかっただろう。そうなれば、あの男に見つかっていたかも知れないのだ。
損した気分がないと言えば嘘になるけど、今はこの下着を手に出来た事で充分満足だった。
射精しそうになると永剛は下着をズラしペニスを出した。押さえつけ便器にむけて射精した。
出し切るとペニスが萎む間、湿っている遠藤の下着に指先を這わせ続けた。
永剛は遠藤の下着をつけ、その上に自分のパンツを履いた。ジャージを引き上げ、便器の水を流した。ホッと一息ついてから部屋戻り、1人だけ布団を敷いて寝転がった。持って来た文庫本をリュックから出しそれをダラダラと読み耽った。
風呂から帰って来た5人のクラスメイトは、
用意されていた浴衣に着替えていて、布団を敷き始めた。それが終わるとクラスの女子の話や好きな女子を1人1人告白して行った。その内の1人が、永剛の方を見たのだろう、
「あいつは放っておけよ。1人が好きなんだろうからさ」
というと他の3人がわざとらしく「そうだよ」と、永剛に聞こえるようにいい、その場をまとめ上げた。
もしもそれを押し切って聞いてくる物好きがいたら、楓には悪いけど、今の永剛なら迷わず遠藤冴子だと答えただろう。
だがそうはならなかった。
5人は馬鹿みたいに雑談に興じ、夜中の1時過ぎまではしゃいでいた。腹が立ったが、文句を言うのも面倒で永剛は読書に集中した。雑音が入ると中々、集中するのは難しい事だが、それは慣れていた。押し入れで寝かされていたのが、こんな所で役に立つとは永剛も思いもよらなかった。
翌朝早い時間から起こされ欲しくもない朝食を皆んなで食べるとバスに乗って大阪観光に出かけた。午前中は大阪城を周りその後は自由行動に移行した。永剛は通天閣や南、難波といった場所に興味があったが、そこまで行くのが面倒で、大阪城近辺で時間を潰した。楓に大阪城のキーホルダーを買ったが、買った後で、こんな物誰が喜ぶんだと思い後悔した。流石に捨てるのは勿体なく、一応、お土産として持って帰る事にした。
その後で、たこ焼きを買い、こじんまりとした公園のベンチに座り1人でそれを食べた。美味しかったが、言うほど感動はしなかった。共有する友達などがいたら、修学旅行中という場の雰囲気に飲まれより一層美味しく感じられたかも知れないが、生憎永剛にそのような友達はいなかった。
食べ終わるとゴミをベンチ横のゴミ箱に入れてバスが待っている場所に戻った。正直、奈良には行かずこのまま帰りたかった。だがそういう訳にも行かないので、永剛はそさくさとバスに乗り込んだ。暇だったから小説の続きを読んだ。いつしか眠ってしまい、気づいたらバスは奈良に向かって出発していた。奈良での自由行動は僅か1時間だった。
だから永剛は楓のお土産にその時間を使った。多くの鹿を見かけたが、その都度、永剛は鹿の肉は美味いのだろうか?と思った。
そして何個かお土産を買い込み、帰宅するバスに乗り込んだ。結局、楽しかったのは初日だけだった。だがまぁほとんど期待していなかった分、初日は濃すぎるほどの思い出となった。
この2日間、深泥池の死体が発見されたというニュースは聞いていない。このまま発見されないかもと思ったりしたが、恐らくそれはないだろう。あのように故意的に木々は折られ踏み付けられていたら、管理する側も不審に感じる筈だ。だがその時になっても自分は関西にはいない。犯人は地元の人間かも知れないが、こいつも捕まらない気がした。永剛にはどっちだって構わなかった。
高速道路に入って行く。窓にもたれていた顔を持ち上げると、後ろを向いて友達と話している遠藤と目があった。遠藤はしばらく永剛を見返していたが、直ぐに会話の輪の中へと戻っていった。僕がどんな目で遠藤を見ていたかはわからない。けど恐らく遠藤が不安になるような視線でない事は確かなようだった。




