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 ①③⑤

阿波さんが持って来た母の情報は永剛にとって少しばかり驚くものだった。


何故なら母は今、東京のとある病院で入院していると言ったからだ。


入院している原因は病気ではなく、重度の怪我のようだった。その怪我の原因までは親族でない阿波さんには教えて貰えなかったようだ。


「病室内を見ましたけど、かなり酷い怪我のようでした。足は折れているのでしょう。ギブスがなされていました。顔の半分は青あざが出来て片目に眼帯をしていました。布団がかけられていた為、わかりませんが、あの様子だと全身に打撲痕があると思いますね」


「事故にでも遭われたのかしら」


阿波さんに向かって田山さんがそう尋ねた。


「そこまではわかりません。が……」


「が、何でしょう?」


「あくまで私の推測ですが、英くんのお母様は恐らく日常的に、酷い暴力を受けているのではないかと思います」


「どうしてそう思うのかしら?」


「私の母も英くんのお母様と似たような怪我で、何度も入院していましたから」


「つまり、それって……」


「ええ。私の母は父から酷い暴力を受けていました」


「わかりました。ありがとうございます。

病院の名前、住所、電話番号は後で教えて下さい」


「はい」


「では、阿波さん、引き継ぎよろしくお願いします」


田山は椅子から立ち上がり頭を下げた。


阿波さんの報告を受けて、集まった人を前に田山さんはこう言った。


「先ず、英くんのお母様が、阿波さんの推測通りだと仮定してですが、皆様は今後どのように対処するのが良いと思われますか?」


田山の言葉に機械工の八木が手を挙げた。


「仮定の話にどうこうと言う意見は述べられないなぁ」


「なるほど」


田山さんが頷く。


「他に意見のある方はいらっしゃいますか?」


「それが仮定だとしても、間違っていようが、現実にそこの坊やのお母様は入院なさっている訳でしょ?なら問答無用で見守ってあげましょうよ」


広田のおばさんはそういい額に浮かんだ汗をハンカチで拭った。太り過ぎなのか座っているだけで息苦しそうだった。でも広田のおばさんが言った見守るとはどういう意味だろう?病状の経過を見ていくという意味だろうか。


「ありがとうございます。広田さんの意見はわかりました。ではその広田さんに賛成の方はいらっしゃいますか?」


今日の見守りの会の参加者は八木のおじさんと阿波さん、そして広田のおばさんの3人と、今まで1度も見た事のない中年の女性が田山さんの正面の椅子に座っていた。


全く化粧っ気がなく、剃った眉毛は半分もなかった。髪もセットらしいセットもしてない感じだ。


服装もケミカルウォッシュのジーパンに緑のトレーナーの裾を突っ込んでいた。裸足にビーチサンダルという出立ちに、首につけたネックレスがやけにアンバランスな高級感を醸し出していた。


そのおばさんが手を挙げた。


「例え阿波さんの意見が推測だとしても、出来るだけ早く見守るべきだと私は思います」


「交通事故、という事も考えられますが?」


「だとしても、そうなった原因があるわけですから、一刻も早く、阿波さんに調べて貰って、坊やのお母様を酷い目に遭わせた人物を特定して、見守りましょう」


「明山さん、ありがとうございます。お気持ちはわかります。ですがその辺りは慎重に致さなければなりません。それはお分かりですよね?」


「えぇ、わかっております。ですが、これ以上、事が大きくなったら、手遅れになりますよ?」


「わかっております。ですが今の議題は仮定の話です。そうであった場合どうするか?という事を話しているわけです。真実が明るみになっていない今だからこそ、その辺の事を最初に詰めておきたかったのです」


喋っている言葉は優しいが、明山というおばさんに対しての田山の声はやけに刺々しく感じられた。


明山は田山の言葉に少しばかり不満だったのか、頬を膨らませる。誰が見てもわかるほど、不満げな表情でわかりましたと言った。


このおばさんは明山未子と言って年齢は43歳で独身らしかった。本人は言わなかったが、会の終了後に皆が解散した後、阿波さんが僕に教えてくれた。


その情報によると、明山未子は既に3回もの離婚歴があるようだった。その内の3番目の元旦那が阿波さんのお父さんのように暴力を振るうタイプの男だったようだ。


明山さんの場合、3番目の元旦那は酒癖が悪く酔うと必ず明山さんに暴力を振るったらしい。そこで見守りの会の田山さんと3人で話し合い、多少の金銭を払う代わりに明山さんとの離婚を承諾させたようだった。


「けど、明山さんってあんな感じの人でしょ?

自ら元旦那を見守ったのよ」


阿波さんはいい、少し驚いた顔を作ってみせた。


「ねぇ。阿波さん」


「何でしょう?」


「皆んな、見守る見守るって言うけど、見守るってどういう事をするわけ?」


永剛が阿波に問うと、阿波は口に出かけた言葉を飲み込んだ。


「会に参加していれば、じきにわかると思います。私は引き続き英さんのお母様の事を調べて参りますので。次回の、いえその次辺りの会の開催の時までは全て調べ終えたいですね」


阿波さんはいうと永剛に向かって笑みを作った。市役所勤めだからバカ真面目な人だとは思っていたが、そんな人が笑顔をみせると、何だか信用しようという気持ちにさせられる。


職業から受けるその人の印象というものは、意外と大事な事なのかも知れない。永剛は思い、阿波さんにお辞儀を返した。


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