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 ①③③

「被害者は吉田萌、32歳、三重県在住の看護師で、9月19日から23日まで休暇を取っており、同僚には旅行に行くと告げた後、行方がわからなくなった模様。休暇があけても職場に現れない吉田さんを心配した同僚が自宅を訪ねた所、帰宅している様子もなく何らかの事件に巻き込まれたのでないかと危惧し警察へ連絡。と同時に静岡県で発見された遺体のニュースと関連があるのではないかと警察が遺体の歯型の鑑定を依頼。吉田萌さんの歯の治療痕が一致した為、静岡県で発見された遺体を吉田萌さんと断定。静岡県警と三重県警は合同捜査本部を立ち上げ、犯人逮捕に全力を尽くすと発表した」


そのネットニュースを最初にみつけたのはマリヤだった。例の人体模型のような惨たらしい死体が吉田萌だというのは死体発見時から想像はついていた。


だがいざ改めてこうしてネットニュースをマリヤに見せられた圭介は、しばらくその記事から目が離せなかった。わかっていた事とはいえ、こうして事実として突きつけられると何故だか鳩尾がキリキリと痛んだ。


吉田萌に同情している訳でもその死を悼んでいるわけでもないのだが何故か胃の中がぐるぐると動き微かな痛みを圭介に示していた。まるでそれは肉体を失った吉田萌が圭介の鳩尾に対し、復讐を願って注射針を打ちこんでいるかのような、そんな風な事を想起させる痛みだった。


圭介はスマホをマリヤに返すと大きく伸びをした。

このニュースを自分に見せたという事はマリヤ自身も自分を殺そうとした人間が何者かの手によって惨たらしい最後を迎えた事を知ったという事になる。


圭介は白々しくも欠伸をするふりをしながらマリヤの顔へ視線を向けた。


マリヤは圭介に横顔を見せる形で片膝を立てて座っていて、その向こう先にあるTVには先程まで2人で観ていたホラー映画のエンドロールが流れていた。


マリヤはエンドロールが始まると直ぐにスマホを手に取った。このような行動をする人間と劇場で鑑賞したら、恐らく真っ先に席を立つタイプだ。


圭介といえばエンドロールも最後までしっかりと観て、尚且つ、劇場から出るのは最後にするようなタイプだった。もし今後2人で映画を観に行く機会があるとするなら、その事でちょっとした言い合いになるかも知れない。


そんな風な事を考えながら圭介は床から立ち上がった。クッションはマリヤに占領されていた為、少しばかりお尻が痛かった。圭介はそのままキッチンに向かい冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出した。

キャップを開け、半分ほど飲み干した。


それを持ちリビングのソファまで行くとテーブルに置いた自分のスマホを手に取った。画面に2件のメール受信の印が示されている。圭介は飲みかけのペットボトルをテーブルに置くと、指先でメールをタップした。


1つは父親からで今現在、2人は下関市にいるという。美味そうなフグの刺身の写メが一緒に添付されていた。


もう一つはラピッドからだった。ラピッドからメールが届くのも久しぶりだったが、その内容はメールを開くまでもなく大体予想がついた。先程、マリヤに見せられたネットニュースの件でほぼ間違いないだろう。


が、そこで圭介は「ん?」と思った。無意識にメールを開こうとする指が止まる。


ラピッドが、在籍している漂白者が殺された事に対しわざわざ連絡を寄越して来るだろか?と思ったからだ。


殺されたのが処理人であるのであれば、わからないでもない。処理人が殺されたとなればそこには様々な人体処理の痕跡が残っており、それを警察に調べられると万が一にもラピッドとの繋がりが発覚する恐れがある。その為に、素早くその痕跡を消す必要性が生まれる。それを実行させる人間を募る為に連絡を寄越して来るのであれば、なるほどと圭介も納得出来る。


だが殺されたのは漂白者である吉田萌だ。ラピッドがそのような事をする筈があるとは思えなかった。


何故なら漂白者は他の漂白者や処理人などといった者に対して横の繋がりは殆どないと言っていいからだ。それに殺害した死体の後始末、つまり漂白者がターゲットを殺した後、その殺害場所から死体を運び出しそれを始末する為に呼んだ処理人へ届けるのはラピッドの職員の仕事だ。


だが今回は最初から死体そのものは捨てられていた。そして捨てられた死体は吉田萌であり漂白者だ。ラピッドがそれについて関わる必要性はない。なのにラピッドから連絡がくるというのはやはり解せなかった。


勿論、内容を見ていない今、自分の想像が的外れな場合もあるだろう。久しく来ていなかった新たな仕事の依頼かも知れない。だが、圭介にはそう思えなかった。何故ならメールが届くタイミングが余りにも良過ぎるからだった。圭介は受信したメールを開いた。そこには端的にこう書かれていた。


「吉田萌が最後に連絡を取ったのは貴方だとわかった。何か知っているなら報告を」


それだけだった。何故、ラピッドが吉田萌と自分が連絡を取った事を知っている?


まさか吉田萌はあの時、まだ自宅にいたという事なのか?いやそれはない。萌は今から行くと自分に話した。


その深夜の時間帯を考えれば先ず自宅にいたとは考えられない。既に何らかの手段で英永剛の居場所を掴んでいた萌であるならば、間違いなく英永剛の近くにいた筈だ。


だからスマホ自体、英永剛の手により処分されていると圭介は思っていた。圭介に電話をかけた後、メール便や宅急便で自宅、もしくはラピッド関係者へ自分のスマホを送ったとでもいうのだろうか?


吉田萌ならやりそうな感はあるが、個人的な恨みでラピッドと関わりのある英永剛を殺害しに向かおうとしている人間が、自分がしでかそうとしている事を、ラピッドに教えるような真似をするだろうか?普通はしない。

絶対にだ。


だからこそラピッドが圭介と吉田萌とが連絡を取り合ったという事を知っている理由がわからなかった。電話会社にラピッド内部の人間がいて、吉田萌の通話記録や着信履歴を調べでもしたのだろうか。あり得ない話ではなかった。


ラピッドという組織はそもそも表向き、様々な職業の人間がいるという。元々は民間の小さい集まりからラピッドという組織は形成されて行ったようだ。自分の記憶が確かなら、草創期はラピッドという名前ではなく見守りの会と呼ばれていたと前に父に聞いた事があった。


それがいつしか全国へと広がりを見せ、父のように処理専門や漂白者となる者、その手伝いや情報処理をする者達と言った風に分業性に枝分かれしていったようだ。


今現在、現役時代の父のように処理専門を生業にしている者は少なからずいる筈だ。が、それでも全国的に見れば恐らくは少数だろう。死体を処理するにはそれなりの設備が必要というのが、その理由に挙げられる。


おまけにそれなりに人目につかない場所にあるという事も重要視される。だからだろう、ここ数年、処理人の数は急激に減って来ていると耳にした事もあった。実際、圭介が鰐を譲り受けたのも引退した処理人からのものだった筈だ。


その為、一時期は圭介自身、かなりの遠出をしなければならない事もしばしばあった。最近はめっきり処理の依頼は来ないが、それでも関東近辺や北陸、関西方面まで死体を受け取りに出かける事もあった。その一つが五月女マリヤであった事は言うまでもない。


圭介はどのように返信するべきか迷った。だが長い時間、連絡を返さなければ余計な疑いをかけられるのも嫌だった。吉田萌と自分が関わっていた事を今更隠せる筈もない。ここはある程度、吉田萌と連絡を取り合った事は認めその内容を誤魔化す事で、ラピッドからの注意を別な方向へと向けようと圭介は考えた。


メールの返信を打っている最中、圭介はラピッドが吉田萌の死体の在り方から英永剛へと辿り着いている可能性も考慮しなければと思った。


圭介は吉田萌と連絡を取り合った事を認める返信した。吉田萌とは五月女マリヤの仕事の一件以来、頻繁ではないが、連絡をしていたと告げた。


その内容として、圭介は吉田萌の仕事の処理を一手に引き受けさせてくれないか?とい内容だったと告げた。要するに専属としての処理人だ。これはルール違反ではなかった。だが、決してこれは良い風には捉えて貰う事は出来ない。何故なら漂白者にも処理人にも拠点という物があり、それをわかりにくくする為、目眩しの為にターゲットの近隣の街や県に拠点を置く処理人や漂白者に対し、ラピッドは仕事の依頼しない。


何故なら漂白者や処理人達が圭介と萌との関係のように頻繁に連絡し合ったり、顔合わせをしている事を第三者に目撃されたくないからだ。


だから全くの部外者と思われる人間に仕事の依頼が来るわけだが、今回の場合、互いの拠点が離れているとはいえ、連絡を取り合っていた事がバレている以上、下手な言い訳は通用しない、という判断の下、圭介は専属依頼を申し出た事をラピッド側へ伝える事にしたのだった。


これについて何らかのペナルティーがあるかはわからないが、それは甘んじて受け入れるしかないと圭介は思った。そうしなければ余計な粗探しをされマリヤ自身の事もバレるかも知れない。


圭介は再びペットボトルに手を伸ばした。キャップを開け残りを一気に飲み干した。マリヤは止まったDVDを取り出し、それをパッケージにしまった。


その後で身体を小さく丸めTV台の下を覗きながら次に観る映画を探している。圭介はそんなマリヤの後ろ姿を眺めながら、今後、今まで以上に、警戒を強めなければならないと思った。

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