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 ①③①

見守りと言うものを、阿波達が何をどうやるのか永剛にはいまいち良くわからなかった。


それでも田山は


「時間がかかるかも知れません」


と言うだけにとどめ永剛が尋ねても教えてくれなかった。


永剛はその場で楓と一緒に会員になり、そして1万円を2人分、計2万円を楓が支払った。会員カードや登録証等といったものは無く、会員の特典などといったものも存在していなかった。


しいていえば単に自由にこの会に参加が出来る事くらいだろうか。正直、それについては拍子抜けしたが、見守りの内容がわかるまで永剛は週に2回参加しようと思った。もしそれでつまらないものであればここに来なければいいだけの事だ。


それは楓も永剛と同じ意見だろう。


「月々頂く月謝は、今回の場合を例にするならば、阿波さんの為に必要な資金にあてる為です。調べによってはこの土地を離れて遠くまで出かけなければならなくなる事もありますので。その為に皆様から頂く月謝を使わせてもらっております」


と田山は淡々と答えた。永剛は阿波が永剛の母の行方を調べるのだという事くらいはわかっていた。


だけどそれがどう僕を見守る事に繋がるのか、そこの所がよく分からなかった。ただ単に母を見つけ連れ戻し、再び一緒に暮らさせ、二度と母が僕を捨てないよう見守り続ける、そのようにも取る事は出来るけど、それを僕が望んだり、助けて欲しいとお願いもしていない。


単に僕は今置かれてある状況を話しただけで、それは僕自身にメリットがあるかも知れないと考えたからだ。


だけど僕の希望も尋ねず、この田山という人は僕を見守ると決めてしまった。それがあったからこそ、余計に見守りの意味がわからなくなったのだ。


それならばと思い、会が終わって雑談した後の帰り道、三代子に尋ねてみた。三代子は永剛達より随分前に見守りの会に入っていた筈だ。そんな三代子であれば見守りという事が何かを調べたりすると言った以上の事があるのかどうか?くらいは知っているのではないだろうか。

そう思い永剛は三代子に尋ねた。


「それが私もまだよく分からないの」


「えぇ?」


僕は三代子の返事に心底驚いた。

知らないってどういう事だ?その疑問は永剛より早く楓が尋ねることで解消された。


「私、まだ見守りされた事もないし、その役割を担った事もないのよ」


「でも、三代子ちゃんさ」


「うん、何?」


「三代子ちゃん、私に見守りの会は凄いよって話してくれたじゃない?」


「言ったよ」


「その凄い所を私も知りたいのね」


「それはさっきみた通り、あ、と言っても今日は田山さんが勝手に永剛君を見守るって決めたからみた通りじゃわからないよね」


三代子が続ける。


「普段はね。集まった人全員が今の現状を話すの。けど他のセミナーみたいなものと違うのは絶対に良かった事は話さない事かな」


「何それ?普通今日はこんな事があったから良かったとか話すのじゃないの?」


「うん。どちらかといえば良かった事は誰も話さないよ」


「どうして?」


「さぁ、それは私にもよくわからないけど、でも私はそれでいいと思う。だってさ、毎日生きてるのって辛くない?辛いよね?そんな辛い気持ちを全部、あの場所で吐き出せるのよ?そんなのって無くない?懺悔するでもない。こっちの言葉尻をとって上手いこと誘導するような占い師みたいなものでもない。単純に不平不満や鬱憤をぶちまけられる所なの。それで多数決で決められた人が見守りをされるってわけ」


「それは毎週火曜日、金曜日にそれぞれ行ってるの?」


永剛が聞いた。


「ううん。大体、月に1回あれば良いくらいかな」


「なら、決められた日があるわけなんだ?」


「そういうのも無いみたい。ただ1つの見守りが終われば、大体、次の見守りの対象者を決める感じかなぁ」


なるほどと永剛は思った。僕の母に対して何が行われるかはわからないが、次に見守りがされるのは僕の事が解決してからという事か。


なら田山という人の言葉通りに時間はかかるだろう。だって息子の僕でさえ母から居所を教えてもらってなければ、何処にいったのかもわからないのだから。それなら僕の事がどうなれば、見守りの会としての完了となるのか、永剛はその現場をこの目で見たかった。


「そうなんだね」


永剛がいう。その時、三代子が楓に向かって言った。


「楓ちゃん、今日はありがとうね。私、これからお店に出なくちゃなんないから、ここでお別れ」


三代子はいう僕達2人に小さく手を振った。

三代子はそのまま真っ直ぐ路地裏を歩いて行った。


僕は楓と2人で横道に逸れた。お店のお婆ちゃんママにみつかりでもしたら楓が大目玉を食らうかも知れないから。


建物と建物の間を擦り抜け、商店街へと戻って行く。


「えーちゃん、お家に帰っても1人でしょ?」


「うん、だけど明日も午前中は学校あるし。家に帰んなきゃ」


「学校なら私のアパートから行けば良いじゃん」


わざと気を引こうとする時、楓は少しばかり鼻にかけた喋り方をする。それを拒めばきっと別な男を部屋に連れ込むに決まっている。それは嫌だった。だから永剛はうん、そうすると返事をした。


商店街を抜け楓のアパート方面へ向かう途中、楓の部屋にいた男が両腕に女を抱きながら歩いていた。チラッと楓をみたが全く気にする様子は見えなかった。

その男が2人の女に向かってこう切り出した。


「 悪いが俺はお前らを相手にするようなレベルの男じゃねーんだよ。たまたまよ。たまたま今日はお前らしかいなかったから連れ出してやったんだ。有難いと思えよ?あんな小汚い部屋なんかじゃ勃つもんもたたねーからな」


男はいい1人の女に自分の股間を触らせた。


「今晩は、寝かせねーからな」


そう言うとその場で立ち止まった。そしていきなり運動を、いや体操をし始めた。その体操は見覚えがある。誰しもが小さな頃、特に夏休みなんか毎朝集まってやらされる体操だ。そう。男はいきなりラジオ体操をやり始めたのだ。


「何だよあいつ」


目の前にいたら唾を吐きかけたくなるような気持ちで、永剛は言った。


「あたらしーいーあーさがきたーきぼうーのーあーさーが…」


楓は囁くようにラジオ体操の歌を歌いながら、永剛の手を掴んだ。その瞬間、永剛は思い出した。あの男は僕が、小学生の頃ラジオ体操に参加した時にいた男だ。

いつも最後に判子を押す役割をしていた。絶対に余計に押してくれる事もなく、ダラケて適当に体操をしていたりすると、絶対に判子は押してくれなかった。


あの頃はケチな大人だなくらいに思っていた。けどちゃんとしていればとても優しい人だった。そういう時はラジオ体操が終って朝の銭湯に連れて行ってくれる事もあった。僕の身体を全身くまなく丁寧に洗ってくれたりもした。だから嫌いじゃなかった。それが今は何だ。金で女を買う事しか出来ないのに、楓を見下したような口調で僕にアホ丸出しな事を言ってきたりした。そして今は見知らぬ女を侍らせイキがっている。


「アイツなんかに2度と抱かれないで」


「えーちゃんが言うならそうする」


楓はいい、ちょこっと飛び跳ね永剛に抱きついた。


「えーちゃん。お腹空いたね。何か美味しいもの食べて帰ろっか?」


永剛は頷き、未だ馬鹿みたいにラジオ体操をやってる男の顔を、忘れないよう目に焼き付けた。


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