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 ①②⑧

約束した金曜日の夕方、永剛は楓のアパートのドアの前に立っていた。嘘でも高級とは言えないそのアパートのドアから漏れ聞こえる喘ぎ声に永剛は足止めされたのだった。


喘ぎ声に合わせ、静かにドアノブを回してみた。ノブは回り鍵が掛かっていない事を示している。


それでも永剛は回したノブを元に戻し、ふぅ〜と息を吐いた。楓の職業柄、このような場面に遭遇する可能性がある事は何となく想像はついていた。


けれどそれがどうして約束した金曜日なのだ。

来る時間も早くもなければ遅くもない。

にも関わらずドアの向こうでは楓の喘ぎ声が響いている。


どんな男に抱かれているのだろうか?と永剛は見知らぬその男に嫉妬した。つい数日前の夜、楓は永剛を貪り尽くした。永剛もまた楓に貪りついた。


そのまま朝を迎えても永剛は尚、寝ている楓を貪った。精液を出し尽くし尿道や睾丸にジリジリとした痛みが走ったが構わず楓を抱いた。その足で永剛は登校したのだが、その日の授業は何一つ頭に入らなかった。


さすがに、これは駄目だと思い、約束の金曜日まで、楓の事を考える事を止めた。止めたと言っても実際、頻繁に楓は永剛の頭の中に現れた。現れると同時にペニスが反応し、知らず知らずに触っている事もあった。だが永剛は射精寸前で、堪えては再び宿題に向かい、終わると予習と復習に取り掛かった。借りていた死者の奢りは読み切らずに返した。


今の永剛には死者より生きた人間に触れていたかった。勿論、その生きた人間を潰してしまいたいという欲求もあるにはあった。だがそれはこのアパートの前に来るまでは、その対象は決して楓ではなかった。そして喘ぎ声を聞いても尚、やはり楓ではなかった。


永剛は待った。身動き一つせず、楓を、自分の物の筈の楓を抱く男が出て来るのを永剛はひたすら待った。


ここに着いてからどれくらい時間が過ぎただろう。いつしか喘ぎ声は止み、何やら話し声に代わっている。男の方が話をしていて、それについて楓が笑った。


瞬間、永剛は唇を噛み締めていた。笑った。楓が男の話に笑った。その事が無性に腹が立った。恐らくは客との会話だから、愛想笑いの可能性が高いのは永剛にもわかっていた。だとしても楓は笑ったのだ。笑うという事は多少なりその相手に心を許しているという事だ。永剛はそれに腹が立った。


抱かれるのは構わない。楓の仕事だからだ。

だけどそうであるなら、せめて約束した日を避けるべきだ。僕に対して配慮をするべきだ。何故なら僕は、楓の性癖であるからだ。ただの客ではないんだ。2人の間に契約やルールは存在しない。あるのは欲望だけの筈だ。


その対象である僕との約束を反故にするかのように楓は自室で知らない男に抱かれていた。楓に対する怒りで全身がブルブルと震えだす。だが、永剛はその怒りを再び唇を噛み締める事で何とか抑える事が出来た。


会話する男の声が大きくなり、ドアに近づいて来る。どうやら帰るようだ。永剛は身を隠そうと思ったが、止めた。楓を抱いた男の顔を見てみたかったからだ。ノブが回りドアが僅かに開いた。又、来るから。そのような言葉の後に、ドアが開き永剛の前に男が姿を現した。


目と目が合った瞬間、永剛はその男を知っていると思った。何度か顔を合わせ話した事がある。だけどそれがいつ何処でかまでは思い出せなかった。男は自分を見上げる制服を来た男子を睨みつけた。開けたドアに再び振り返る。顔だけをドアの隙間に突っ込んでこう言った。


「弟がいるなんて聞いてなかったぞ?」


「え。弟?」


「来てるよ。今ここに」


男はそういい永剛に向かって顎をしゃくった。


「お前の姉ちゃん、スケベェだな」


下品な笑みを浮かべながら男はいい、永剛の腕を掴むと、無理矢理部屋の中へと押し込んだ。


「弟とやるなよ」


ヘヘッと笑うと男は背を向けて帰って行った。



「えーちゃん、どうしたの?」


布団を首まで引き上げ、うつ伏せになりながらそう言った。

永剛は玄関に立ったまま、楓のその言葉で肩を落とし溜め息をついた。


「どうしたの?じゃないよ。忘れたの?」


「忘れたって何?私、えーちゃんと何か約束してたかしら?」


「してたよ」


楓は顔を枕に埋めうぅと唸りながら頭を振った。


「ごめん、思い出せない」


永剛は呆れ顔でうつ伏せた楓を見返した。


「そんな所に立ってないで入れば?」


楓は枕元に放り出した下着に手を伸ばす。背中をこちらに向けたままブラジャーをつける。


「本当ごめんなさい」


パンティを履きながら楓はいった。


永剛は学校指定の革靴を脱ぐとコタツの側へと進んで行った。鞄を置いて座った。


「今日は見守りの会に行くって言ったよね」


永剛が言うと、楓はあっ!といい布団から飛び起きた。


「そうだった!三代子ちゃんにも話たんだった」


楓は申し訳なさそうに永剛を見つめた。四つん這いで這いながら永剛に擦り寄って来る。

両腕を首に回して永剛の頬に自分の頬をあてた。耳に息を吹きかけながら


「まだ時間、あるよ?」


と悪戯っぽく言った。


つい数分前まで他の男に抱かれていたというのに、一体、楓はどれだけ性欲が強いんだと圭介は思った。


正直、金曜日までの2日間、楓の事を思い出す度、勃起していた。本音を言えば毎日したかった。けどそれではまるで猿と同じだ。勉強をほったらかして肉欲に溺れるわけにはいかない。


けど、ここで楓の要望を突っぱねると、後々、面倒くさくなりそうな気もした。何故、楓が小児性愛者なのか、圭介は今の誘いで何となくわかった気がした。要するに初体験間もない男子であれば、頭の中はSEXの事で一杯だ。


これが大人であれば、仕事で疲れているとか、そんな気分じゃないとかで断られる場面もあるだろうけど、中学男子ならどうだ?断るわけがない。スタミナだって馬鹿みたいにある。下手すると余裕で24時間勃起し続ける事も可能かも知れない。きっと楓は求められる事に欲情するのだ。


テクニックとかそういう事は二の次で無我夢中で楓を求める姿に、楓は欲情し興奮するのかも知れない。


圭介は悪戯っぽく見つめる楓を押し倒した。楓は直ぐに両脚を圭介の腰に絡み付けて来た。

これでいい。今はこれでいい。自分の欲情を全て楓に受け止めて貰うんだ。永剛は楓の唇にむしゃぶりついた。


「もうこんな時間」


18時を少し回った時、楓は慌てて布団から飛び出した。お風呂に入り、しばらくしたら濡れたまま出て来た。適当に身体を拭きながら急いでメイクに取り掛かる。圭介はそんな楓の背中をバスタオルで拭いてあげた。


炬燵の前に胡座をかいて座りドライヤーで髪を乾かし始めた。そうしながら楓がキスを求めて来る。それに応えてから永剛は脱ぎ捨てた下着を拾った。布団に座ったまま下着を履く。制服に着替え終えても楓はまだメイク途中だった。マスカラを塗りながら


「1万円だったよね?」


「うん」


「なら2人分で2万ね、えーちゃんちょっと財布の中見てくれない?」


言われて確認すると現金は2万4千円入っていた。そう告げると楓は良かったぁといい、口紅を塗り始めた。


楓の支度が終わったのは18時40分を過ぎた頃だった。店の前でみたスケスケなショールを羽織った下着姿の楓と見違えるほど綺麗だった。


店の前に立って男を呼び込んでいるとはとても思えない。メイクの仕方の違いなのか、それともパンツスーツのせいなのか、楓の全身にはインテリジェンスな空気が纏われていた。


別人のような楓の姿に唖然としている永剛に対して楓は鏡越しにピースサインを寄越して来た。


「でも、これじゃえーちゃんの保護者っぽくない?」


「ううん。全然、そんな事ないよ。凄く綺麗」


「そう?嬉しいな。ありがとう」


2人でアパートを出てからも永剛はやたらに楓を見返した。


「何?」


商店街を進みながら楓が聞いて来る。


「出来るOLさんみたい」


「でしょ?そもそもは出来るOLさんだったのよ」


「そうなの?」


「3年前までは東京の丸の内でOLしてたんだから」


「へぇ。でも辞めちゃったんだね」


「辞めたっていうか、辞めさせられたの」


「何で?」


「知りたい?」


「うん、知りたい」


「えっとね。仕事中にね。オフィス抜け出してね」


「うん」


「会議室で、ビル掃除のオジさんと、課長とで3Pしてる所を人事部の人に見つかったてね。それでクビになっちゃった」


楓は良い思い出と言わんばかりに笑ってそう言った。


つまり当時から性欲剥き出しの女だったようだ。


「それでさ。仕事がなくてプラプラしてる時、スカウトされたの。渋谷に半年、五反田で1年、歌舞伎町で1年半、風俗店で働いたんだけどさ。その時、囲ってた男の子がいたんだけど、その子が急にホームシックにかかって親に連絡しちゃって、連れ戻しに来たのよ。何とかエッチはしてないと誤魔化せたから警察沙汰にはならなかったけど、私が子供を誘拐していたなんて、デマが回ってね。それでお店にいられなくなって、その時、偶然、東京で駄目になった女を、例えば私みたいな奴とか、家出少女なんかをスカウトしに今の店のママが来てて、そんなママに拾われる形で、私はここへ越して来たってわけ」


「そうだったんだね」


「まぁね」


楓の好きな所は、そのいやらしさもあるが、それ以上に卑屈さを感じさせない所だった。あっけらかんとした性格に好感が持てた。1人になった時に泣いているかも知れないけど、そんな影の部分を全く見せない姿に永剛は惹かれていた。


「さっきいた男の人、どっかで見た事あるんだよね」


「そうなの?」


「うん。いつかは憶えてないけど、多分話した事もある」


「へぇ」


「さっきの男の人は良い人?」


「そうは思わないかな」


「どうして?」


「何となく。殴られたり、お金払ってくれなかったりはないけど、なんて言うか、本性が歪んでる気がするのね」


永剛は横目で楓を見た。楓は前を向いたまま、見守りの会のある先の方を見ていた。


「SEXしたらさ、大体、その人の性格とか本質的な物が見えちゃったりするのね。これは多分、女だけの能力なんじゃないかな。勿論、全ての女が男の本質を見抜けるわけじゃないだろうけど、でも絶対、何かは感じてるわ。多分、そういうのって女としてもって生まれた性質なんじゃないかなぁ」


見守りの会のある場所の前に看板が出された。明かりがつけられると、その周りに複数の人影が見えた。見守りの会が開催するのを、既に待っていた人達がいたようだった。


「なら僕はどう感じた?」


自分でも嫌な質問をしたなと思った。そんな風に聞かれて悪い風に言える訳がないからだ。

案の定、楓は当たり障りの無い事を僕に聞かせた。


「けどね。えーちゃんは私にはわからない事が、感じられない?違う違う、何て言えば良いかなぁ。開かない扉?んーこれもピンと来ないなぁ。あ、秘密の箱を持ってる感じがするの。誰にも触れられない、触れられないから開ける事も出来ない秘密の箱。中に何が入っているのかはえーちゃんしか知らないのだけど、そのえーちゃんも、まだ秘密の箱の中に何が入っているのかは気づいていないような、そんな感じを、初めてのエッチの時に感じたよ」


秘密の箱か。永剛はそれが何を意味しているか何となく気づいた気がした。

だけどそれを楓に言うつもりはなかった。


見守りの会につくと入り口に1人の女性が立っていた。派手な服に化粧も濃いが、楓より随分と若い印象を受けた。


「三代子ちゃんこんばんわ」


楓が三代子に向かってそう行った。三代子は両手を胸付近に上げ楓に向かって手を振った。


「もう入れるのかしら?」


「うん、大丈夫。みんな入ってるから」


三代子はいい、チラッと永剛の方を見た。


「この子が例の?」


「うん、永剛くん」


「永剛くん、初めまして」


永剛は楓の立ち場を考え、丁寧に挨拶を返した。


「お金はいつ払えば良いの?」


「会が終わったらでいい筈だよ」


「わかった」


楓はいい永剛に向かって手を伸ばした。

永剛はその手を握る。恐らく僕に手を伸ばして来たのは楓なりの三代子に対してのアピールだと思ったのだ。永剛は指を絡ませる形で楓の手を握り返した。


三代子が引き戸に手を掛け戸を開けた。楓を先頭に2人は三代子の後に続いて中へと入って行った。


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