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ここ数日、生理中なのかマリヤのあたりがキツくなって来た。
圭介はそんなマリアをイラつかせないよう言葉に注意しながら接していた。程よい距離を保ちながら、痛み止めの薬やカイロを用意する。
食事も出来る限りマリヤが食べたい物を用意した。やたら外出もしたがる為に、圭介は渋々だが変装をさせないままマリヤを連れ出した。
ただ車椅子に乗って行く、という一点だけは、何故かマリヤはこだわりを持っていた。近所の目を気にして、マリヤなりに圭介に気を遣っているのかも知れない。
季節の変わり目というのもあり、圭介は車を都内へと走らせた。マリヤの服を買う為だ。気に入った服や財布、身につける小物などを買う事で、第二の殺人欲求を、多少なり緩和出来るかも知れないと考えての買い物だった。
午前中に出かけ、帰宅したのは夜の10時頃だった。
散財癖があるのか、それとも圭介に対するちょっとした嫌がらせのつもりなのか、マリヤは全く遠慮もみせず、新たな衣服やバッグを欲して、圭介は出来る限り、それらを購入した。
圭介自身、全くと言って良いほど物欲がない為、ラピッドからの給料の殆どは貯金に回されていた。考えれば手痛い出費ではあったが、マリヤの気分が良くなるのであればそれくらいは我慢が出来た。
これが毎月となれば話は違うが、数年に一度くらいのペースなら、海外旅行に行ったと思えば安い物だ。
帰って来るとマリヤは最近までの態度が嘘のように笑顔を讃え買って来た服に着替えては圭介に感想を求めて来た。
ちょっとしたファッションショーに付き合わされる羽目になったが、圭介はどの服も素敵だよ。よく似合ってる、可愛い、などとマリヤを褒めちぎった。
元々、美人であるマリヤだから何を着ていようが可愛いのだが、それでも女性は男性からのそのような言葉が欲しいのかも知れない。実際、マリヤは綺麗だった。既に成人式は終えているが、ここ最近、めっきり大人びて来ているように圭介は感じていた。稀にマリヤに見つめられるとドキッとさせられる事もあるくらいだ。
だがマリヤ自身の状況から言えば、軟禁状態にあるわけだが、それも吉田萌が殺害されたであろう今は、多少なりそれも緩和出来そうだ。
ただマリヤを連れて西の方へ行く事は避けなければならない。マリヤ殺害を試みた吉田萌は、個人的にラピッドが関わるように手を回した可能性も否めないが、結果としてマリヤはラピッドの指示により殺害される運びとなったからだ。
それを踏まえると現実、何処の誰がラピッドの人間かわからないのだから既に顔バレしているだろうマリヤを関西方面には連れては行けないのだ。何故なら圭介自身の連絡によりラピッド内ではマリヤは既に死亡扱いされているからだった。
買って来た服を全て着終え、小さなファッションショーが終わるとマリヤは満足したのかお風呂に入って来るといってリビングを出て行った。
その背をソファに座って見送った圭介の頭に、ふとある疑問が浮かび上がった。
それはマリヤの家族の事だった。最初にここへ連れて来た時、マリヤに家族との連絡は一切禁止させた。それによりマリヤの生存がバレる可能性があったからだ。
そうさせない為に圭介もマリヤを脅した。圭介の知る限り、マリヤが何処かに連絡をした可能性は限りなく低くい。
2人の関係性が密になるまでは、マリヤの行動に目を光らせてもいた。出来る限り常に一緒にいたし、いない時も頭の隅では意識していた。
マリヤの死体と一緒に処理する予定だったスマホも本人に返してある。その都度、チェックしているというわけではなかったが、月々の使用量を見せて貰った限りでは、基本料と通信料だけで通話料は一切使われていなかった。それでも通信料の中で、メールで連絡をしている可能性も含まれているという事が最近まで頭から抜け落ちていた。
圭介はソファから立ち上がり、風呂場の方に意識を保ちながら新しく買ったバッグの中を漁った。スマホは見つかったが、ロックがかけられていて動かせなかった。
圭介はバッグにスマホを戻し、又、マリヤに今月分の支払い金額をアプリで見せてもらうしかないと圭介は考えた。マリヤのスマホ代は月々圭介が支払っていた。マリヤから銀行カードを借りて余分に入金はしてあった。だが、電話会社は封書として請求書や明細書を送ってくる。マリヤが住んでいた家に送られて来ているのだろうが、もし両親が健在であれば、とっくにマリヤの行方を探しているはずだ。
警察にも捜索願い届けを出しているだろう。だが仮にマリヤが一人暮らしだったとすればどうだろうか?今頃は、とっくに家賃滞納で家の物は不動産屋に処分され、尚且つ、滞納分の支払い請求をマリヤかマリヤの家族に行なっている筈だが、その前にマリヤのスマホに不動産屋なり大家なりから連絡があるのが普通ではないだろうか。
勿論、24時間一緒にいるわけではないから、互いに離れる時を狙って、つまりそれはトイレやお風呂、小屋の清掃などで圭介がいない時を見計らって連絡を取っていたとしても不思議はない。その可能性はあるだろう。
例えば圭介に通話料を使っていない事を印象付ける為、マリヤがワン切りをし向こうにかけさせる手を使えば通話料は加算されず通話料は記載されない。マリヤがそのような姑息な手段を取るようなタイプとは思えないが、だからと言って絶対に無いとは言えなかった。
疑う訳ではないが、今後は意識の隅にその可能性も含まれるという事を捉えていなければならないと圭介は思った。
自分がマリヤを疑っていると知ればマリヤは烈火の如く怒り狂うだろう。一緒に暮らし肉体関係もあり、尚且つそれ以上の関係が2人にはあった。拉致し殺害し、死体をバラし鰐に食わせた。
これは肉体関係以上の深い交わりだ。だから疑う事は裏切りと捉えられても仕方のない行為でもあった。
今後、圭介はそのような可能性もあり得るとして、マリヤと接していかなければならないと思うと少しばかりゲンナリした。完全に信じない、信じられないのは10代からこの仕事をしているせいでもある。
付き合う事イコール相手を信じる、愛イコール相手を全面的に信じる、ではないと圭介は知っていた。
勿論、世の中にはそれが出来る人は沢山いるだろうが、圭介はそうではなかった。信じてはいるが、信じ切れていないという感じだろうか。
圭介は頭の中に浮かんだモヤモヤを消し去る為に、自室へ行って筋トレをする事にした。風呂場の前を通り過ぎるとき、楽しそうなマリヤの歌声が聴こえた。その歌は耳にした事はあったが、曲名やアーティストまでは分からなかった。圭介はそのマリヤの軽やかな歌声に少し頬が緩み、腹部が暖かくなった気がした。




