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 ①②④

埃の匂いが鼻孔をくすぐり空気は湿っぽくとてもひんやりとしていた。その中は薄い闇が広がり、帷のようにその空間を埋め尽くしていた。ここに来たのはこれで3度目になる。


とは言え1度目はチッチ姉妹に拉致監禁され連れて来られたわけだが……


今更ながら良く自分は生きていられたと泡沢は思った。懐中電灯で倉庫内を照らしながら当時の事を思い出す。


チッチに裏切られたとは思わなかった。そして刑事としての正義を失ったのか?という憤りも感じなかった。


ただもう2度とチッチを抱く事が、愛する事が、捜査途中に車内で意地悪なチッチに焦らされる事も叶わないのかという焦燥感で一杯だった。


眠らされ目隠しされたままスナック天使から運び出された自分がこの倉庫へと連れて来られ、拘束されていた鉄骨を目指して泡沢は歩を進めて行った。


当然ながら、深夜にここへ来た理由など泡沢にはなかった。単に昼間見た時とは違う顔を見せてくれるかも知れないと思っただけだ。


それに自分も夕方から夜にかけてあの2人の手によりここへと運び込まれた。いわば、自分の殺害現場になる予定だった場所だ。


それが運良くチッチ姉妹を殺害しただろう犯人の手によって今世に命を繋ぎ止める事が出来た。


泡沢はいつしか無意識にチッチに刺された首の傷に触れていた。埃のせいで鼻の奥がむず痒い。


思わずくしゃみが出てしまった。倉庫内にくしゃみの音が四散し反響する。


泡沢は指紋を見つけた時と同じ道筋を辿り、自分が縛り付けられていた鉄骨の前まで辿り着いた。


こんな夜に倉庫内を調べさせて欲しいと告げた泡沢に対し、警備員は露骨に嫌な顔を見せた。


その理由は夜遅い時間帯という事と、近々、新たな借主が入る予定の場所に刑事が捜査するという事が気に入らないという、その2つの事で嫌な顔を見せた。


つまり、この倉庫内で起きた殺人事件の事は新たな借主には秘密にしているからだろう。


そんな警備員に泡沢は敢えて強気な態度を示した。本来の自分なら平謝りとまではいかないが、謙虚さは示した筈だ。だがそうはしなかった。


自分自身、焦っているのかも知れない、倉庫の施錠を開けてくれた警備員の早めに終わらせて下さいよと棘の含まれた口調を耳にしても泡沢は返事をしなかった。


今更ながら自分の横柄な態度に辟易するが、警察という権力を盾にしたのは泡沢自身だ。終わったら警備員に丁寧に挨拶をしよう。そう心に思い泡沢は鉄骨の前に立った。


泡沢は剥き出しの鉄骨に向けて照らした懐中電灯を床に置き、ベルトに手を伸ばした。靴を脱ぎ靴下だけの状態でスーツのズボンを下ろし下着も脱いだ。


今夜ここに来たのは他でもない。2人の女性が殺され、自分を助けた半分の指紋を残した犯人に辿り着く為に、直に現場でシコってみようと思い立ったのだ。


下半身だけ裸になった今の時点では勃起どころか、萎れている。こんな場所で射精して精液を残して行くわけにもいかないので、それを受け止める為のビニール袋も持って来ている。


スーパーで無料で手に入る、肉や魚、主に生物を買った場合に使うあの薄い透明なビニール袋だ。


射精の瞬間に、そのビニール袋を広げ中に射精するつもりだった。泡沢はズボンと下着、そして靴を鉄骨から離れた場所に移動させた。その後で鉄骨の前に立ち、周囲を見渡した。


あの時、チッチと桜井真緒子がいたと思われる場所を想定する。そちらへ近づくが、チンポは無反応だった。


それはそうだ。ここ数日、数年間の日課であった寝起きからのシコるという事をやらなかったのだ。捜査前にシコってなければ犯罪現場に赴いた所で、泡沢のチンポは決して勃起する事はない。


勿論、犯人に繋がる手掛かりが現場にない場合でも勃起はしないが、反対にそういう物があれば、確実に泡沢のチンポは勃起した。だからこそ、泡沢は勃起刑事という異名がつけられたのだ。


泡沢は鉄骨に背中を預けるように地面に座った。両足を大股に広げ、ワイシャツの陰に隠れたチンポに触った。


今でも目を閉じるだけではっきりと思い出せるチッチの裸体や肌の温もり、息継ぎしながら出す喘ぎ声や激しい呼吸音は未だ瑞々しく、泡沢の中からその映像を頭の中に浮かび上がらせて来る。それだけで充分だった。泡沢のチンポは既に脈打つほど勃起していた。


チッチと最後にしたのはいつだろうか?

それ以来、泡沢は異性の裸に触れた事はなかった。性処理の為だけに風俗に行くという考えもなかった。金が無いわけではなかったが、それ以上に事件に追われていた。息抜きは大事だが、チッチ以外の女を抱きたいという欲や考えが泡沢にはなかった。


逆に言えばそれだけチッチ1人を愛していたという証でもある。知らなかったとはいえ、チッチは犯罪者の姉を匿い、自らも犯罪者であった。だからチッチに接していると頻繁に勃起していたのは当然の事だった。


何故なら側に犯罪者がいたからだ。だがその事さえ今の泡沢にはどうでもよく、ただただチッチは泡沢の性的対象であり続けるだけだった。


未練たらしいと言われれば確かにそうだが、

それだけ泡沢にとってのチッチは特別な存在だったという事だ。


真夜中の倉庫の中で鼻息が荒い中年の刑事が記憶の海に溺れながらチンポをシゴいている姿は、滑稽過ぎた。


だが泡沢は本気だった。射精する瞬間、持って来たビニール袋が間に合わず、そのまま床に飛ばしてしまったが、泡沢はその手を止めなかった。萎んだチンポに叱咤激励しながら、改めて勃起へと導いて行く。


完全に出し切るまで出して、その後で再び、倉庫内を捜査する。勃起刑事の異名に恥じない新たな証拠を探し出す為に、泡沢は激しく手を動かし続けた。


シコって出すのは2回が、限界だった。

3度目は幾らしごいてもチンポは萎んだままで、幾ら様々な場面でのチッチの記憶を駆使しても無理だった。


泡沢は2回目に出した精液が入っているビニール袋の空気を抜いて先を細め縛った。ワイシャツのポケットにそれを入れ立ち上がる。


泡沢は下着やズボンもつけず、靴も履かずに懐中電灯を照らしながら丁寧倉庫内をしらみつぶしに回った。


だが泡沢のチンポは全く無反応だった。その事に自分自身に腹が立ち憤りを覚えた。一体、どうやれば目撃者も、証拠も残さず殺人を犯せるのだ。


鰐男はまさに本物の鰐のようだと泡沢は思った。ゆっくりとその大きな体躯を忍ばせ静かに獲物に近づき、一気に襲い掛かる。まさにこいつは鰐男だった。


拘置支所内で自殺した明山未子に鰐のマスク姿を見せたと聞いた時、単なる愉快犯だと思っていた。逮捕するにはそう時間もかからないだろうと内心たかを括っていた。だが結果はどうだ?


何1つ鰐男に繋がる証拠を手にしていない。半分だけ見つかった指紋でさえ、鰐男の物かどうかも怪しいものだ。


泡沢は反応しないチンポと睾丸を叩きながら、


「降参だ」


と呟いた。


「お前を逮捕することは私には不可能だ。小川さんもほとんど諦めている。唯一の手掛かりを持っていたと思われる明山未子も、ラビューという言葉だけ残して死んで行った」


断られようがやはり毎日でも明山未子に面会に行くべきだったのだ。後悔が更に泡沢を攻め立てた。


「お陰でチンポは勃ちもしないじゃないか」


泡沢は埃の溜まった鼻な穴をほじりながら鉄骨の所へ戻った。着替えをすませ、床へと飛ばした自らの精液を革靴の底で踏み消そうとして、止めた。警備員、もしく新たな借主がこれを見つけた時の反応を想像すると面白かったからだ。


現職刑事が倉庫内で射精。中々絵になるじゃないか。

泡沢は苦虫を噛み潰したような表情で、倉庫内を後にした。警備員には改めて丁寧に礼をするつもりでいたが、その不遜な態度に苛立ち、泡沢は横柄な態度を貫いた。


泡沢に聞こえるように舌打ちをしたが、泡沢は舌打ちくらい許してやると目を見て伝えると、警備室の受付のカウンターを激しく叩き礼も伝えず、駐車していた車へ向かって歩いて行った。


遠く白んだ空から微か光りが広がっている。

スマホの時計を見ると午前4時を少し回っていた。


泡沢は車のエンジンをかけながら今日は、仕事をしたくないなと思った。



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