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責任は取らないと



「杖は聖遺物管理棟の地下にあります! ユリーナさん!」


宿の一室。


ロンドはユリーナの手を取った。


窓から差し込む夕暮れの光が、彼女の金髪を柔らかく照らす。


(天使……いや、女神か……)


ロンドは思う。


女神の役に立てている。

それだけで胸がいっぱいだった。


 

路地裏での交渉――

記者ロンドが提示した条件は二つ。


教会潜入への同行。

そして、ユリーナと会うこと。


以前からロンドは教会の裏を疑っていた。


だが編集長に止められていた。


――教会を敵に回すな。


禁じられていた調査を、今まさにやろうとしている。


そして何より。


(会える! ユリーナさんに!)


ロンドの顔が、へにゃっと緩んだ。



「おい」


低い声が飛ぶ。


「で?」


レイが腕を組んで睨んでいた。


「どうやって入るんだ? 簡単に侵入できる場所じゃないだろ」


(……悪魔め。なんでこいつがユリーナさんと一緒にいるんだ)


ロンドは心の中で毒づきながら答える。


「問題は三つあります」


指を立てる。


「まず一つ」


「聖遺物管理棟の周囲では魔法が使えません」


レイの眉がわずかに動く。


ロンドは続ける。


「二つ目。見張りの騎士が常駐しています」


「そして三つ目」


ロンドは声を落とした。


「地下への扉は、幹部の指輪がなければ開きません」


「見張りの騎士は任せろ」


ディランが腕を鳴らす。


「魔法が使えなくても問題ない」


ユリーナが静かに口を開く。


「指輪は」

「私が何とかします」


レイが首を傾げる。

「……どうやって?」


一瞬、沈黙。


ユリーナは微笑んだ。

「秘密です」


(ろくな方法じゃないな)

レイが眉をひそめる。


「心配です!」


ロンドが勢いよく身を乗り出した。


「俺もついていきます!」


ユリーナに詰め寄る。


「それに……杖を取り戻したら、大事なお話が……」


ロンドは神妙な顔で言った。


ユリーナは少し考えた。


数秒の沈黙。


そして自信満々に言った。

 

「もしかして、私への告白ですか?」


「! お恥ずかしい……バレていましたか」


ロンドは深く息を吸い、勢いよく頭を下げた。


「ユリーナさん、好きです!」

「俺とお付き合いしてください!」


部屋の空気が、ぴたりと止まる。


ユリーナは申し訳なさそうに微笑む。


「ごめんなさい。 私には大事な人が……」


そう言って、レイを見る。


「なっ」

ロンドの顔が引きつる。


「あの悪魔のどこがいいんですか!?」


「あ?」

レイが睨む。


「ひっ」

ロンドが一歩下がる。


「彼、私のこと必要だって言ってくれたんです」

(俺がいなくなったら調子が狂うって言ってくれた)


「くっ……」

「俺だってユリーナさんが必要です!」


ユリーナは少し頬を染めた。


「……それに」


一瞬、視線を落とす。


「もう、私だけの体では……」


そう言って、そっと下腹部に手を添えた。


沈黙。


ロンドの顔から血の気が引いた。


「ま、まさか……」


「この! 悪魔!!」

「ユリーナさんに手を出したのか!」


ロンドがレイに詰め寄る。


「は? 俺が手を出せるわけないだろ!」


「子供の責任を取らないつもりか!」


「は? 子供!?」


レイがディランを見る。


「っ」


ディランは口元を押さえ、

笑いをこらえていた。


「……責任は取らないとな、レイ」


ディランは肩を震わせながら言った。


「おい!」


宿の部屋に、ロンドの怒号とディランの笑い声が響いた。



*



壮麗な長テーブルが広間の中央に置かれている。

煌びやかな燭台が、柔らかく広間を照らしていた。


細緻な刺繍のテーブルクロス。

その上には純金のカトラリーが整然と並んでいる。


(……落ち着かない)


場違いすぎる空間だった。


「なんか、ルシエル様とノアくんの顔って、ちょっと似てますよね~」


紫の髪の少女が呟く。


「そう? でもまあ、僕のほうが綺麗でしょ」


ルシエルは肩をすくめる。


「フフッ。綺麗ですけど普通自分で言わないですよぉ~」


少女がくすくす笑った。


ふと、ルシエルが思い出したように言う。


「そういえば、そろそろなんだよね」


視線がノアへ向く。


「明日くらいに、君の杖があるところ見に行ってみたら?」


ノアは顔を上げる。


「……どうしてですか?」


ルシエルは楽しそうに微笑んだ。


「言ったでしょ」

「面白いものが見られるかもって」


ノアの背に、冷たいものが走る。


(なぜ杖の場所に……)

(あの杖に何かあったら……)


母の微笑みが浮かんだ。


光に包まれながら、

最後まで優しく笑っていた。


視線が下がる。


「気になるでしょ。仲間。……会えるかもしれないよ?」


胸の奥がざわついた。 


ディラン。


レイの、あの訓練――


聖剣を失ったユリウス皇子。

あの時の顔が頭から離れない。


胸が締めつけられる。


仲間の、大事なものを奪った。


この手で。


(――戻ることはできない)


「あの子は、ここが分水嶺かな」


ルシエルは微笑んだ。


ノアを見ながら。


「消えちゃうかもしれないね」



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