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第47話 手強い交渉人

いつもご覧頂きありがとうございます。

 現在、何故か調達部の事務所に5人で向かっている・・。

 え、3人じゃなかったっけ?とか聞かないでください。


 調達部の事務所に向かう途中で楓ちゃんとアカネちゃんにバッタリ遭遇したのです。


 2人ともキャンプ道具を早く見たくてしょうがなくなってしまい、訓練に身が入らなくなってきたので、もう諦めて僕達に合流しようという話になったらしい。


 特に楓ちゃんはアカネちゃんから「くノ一風の服をオーダーした。」の話を聞いて、自分の服も欲しくなっちゃったらしい。


「タク先輩!テイマー専用の服もデザインしてください!お願いします!」


「もちろんいいけど、テイマー用の服ねぇ〜。

 テイマー固有の衣装って何かあったっけ?」


「それが分からないので、もうタク先輩にお任せでお願いしようと思いまして。

 先日デザインして頂いた戦闘服もいいのですが、あれは野外活動用なので、お出かけ用にかわいい専用の服が欲しいんです!」


「かわいいねぇ〜。ふむ。」


 と、僕は目をつぶってイメージする。


 テイマー ⇒ 動物のお世話 ⇒ 農場 ⇒ 作業服+麦わら帽子


 作業服は流石にかわいいイメージではないな。

 楓ちゃんのイメージは元気っ子だからな〜。


 可愛くて元気、かつ、農場と言えば・・・、そうだ、あれだね、オーバーオールのデニムかな?

 ちょっとダボってした感じで。

 うん、いけそうだね!


「そうだね、オーバーオールのデニムに麦わら帽子ってどうだい?

 テイマーというか動物のお世話向けのデザインだと思うんだけど?」


「そ、それはそれでそうなんですけど!

 オーバーオールのデニムは動物のお世話の作業には丁度いいと思うんですけど!

 だけど、もっとこう、テイマーって小説とかだと魔術士寄りじゃないですか?

 魔術士っぽくて可愛いデザインになりませんか?」


「ああ、それなら丁度よかったよ。

 今日の夕方に別件で注文していた魔術士女子(本当は男の娘)用の服を受け取る予定なので、それを見てみるかい?

 もし気に入ってくれれば、それと同じかちょっとアレンジすればいいと思うよ。」


「はい、わかりました!楽しみにしておきます!


 と、楓ちゃんはテンションを上げてくれたらしい。

 よかったよかった。


 ただ、隣で若干1名、亜季ちゃんがジトっとした目で僕を見ているが、気づかない振りをしておこう。

 あれはあくまでも可愛い魔術士をイメージしてデザインしただけなのだ!

 決して他意はない!


◆◇


 なんだかんだと話しながら歩いていたら、調達部の事務室に到着した。


 調達部はさながら元の世界のスーパーのバックヤードのようで、出入りの商人達が馬車や荷車を寄せては注文品を納入したり、払い下げ品を積み込んだりしている。

 

 調達部のスタッフと出入りの商人がワイワイと交渉しながら買い取りや売払い価格を決めているようだ。


 その中に見覚えのある顔が・・・、ああ、あれは確か召喚された高校生のうちの1人じゃないか?

 確かスキルは交渉人(見習い)だったような気が・・。


 普段は食堂以外では見かけないと思っていたらここで訓練していたのか?

 

 まあ、訓練と言うよりはもう普通にスタッフとして働いている感じである。

 どうやら騎士団が狩ってきた暴れ黒牛の払い下げ価格について交渉しているようである。


「松戸のダンナ、そんな価格じゃ高すぎて街の店が買ってくれないですぜ。

 勘弁してくださいよ。」


「そんなことないでしょう? 最近は街では暴れ黒牛の肉が品薄のうえに、昨日商隊が沢山到着して商人や護衛の冒険者がたくさん宿泊しているから肉の需要は高まってますよ。

 せっかくお客さんがたくさんいるのに肉が無いと宿屋や料理店は商売にならないでしょう。

 多少高くても皆さん買ってくれますよ。

 今が稼ぎ時ですよ。

 ほら早く買わないとあっちの商会さんに根こそぎ持っていかれちゃいますよ。」


「ちぇ、松戸のダンナにはかなわねーな。

 じゃあ、1頭あたり小金貨3枚で。」


「毎度あり!またお願いしますよ!」


 と言うと、交渉人ボーイは紙に金額と自分のサインをサラサラっと書いて、相手にもサインさせる。 

 彼は相手から紙を受け取り、『契約コントラクト』、とつぶやくと紙がキラキラと光った。


 おお、契約書を作る魔法か何かなのか?


 交渉人ボーイはその紙を商人に返すと、


「じゃあ、あちらの事務所でお支払いしてから商品を受け取っていってくださいね。

 ありがとうございました〜。」


 と言って商人を見送る。

 どうやら一件落着のようだ。


 ひと仕事終えた交渉人ボーイは僕達の存在に気づいたようで、亜季ちゃん達に声をかけながら近づいて来る。


「あれ?風早達じゃん? こんなところでどうしたの?

 ここには獲物はいないから弓術の訓練はできないよ。

 残念ながら買い手が付いたあとだからね〜。」


 と、冗談なのか何なのかよくわからない事を言いながら肩をすくめている。

 なかなかリアクションに困るボーイだぞ。


「狩りじゃないわよ!見たらわかるでしょ!

 タク先輩達と一緒に調達部にお金のシステムの勉強に来たのよ!」


 と、亜季ちゃんが半ギレでツッコんでいる。

 どうやら仲はあまりよくなさそうだぞ。


「あ、これはどうも。有名人の七条先輩でしたか。

 お話するのは初めてでしたね。

 僕は松戸 健、スキルは交渉人(見習い)です。

 私のことはケンとお呼びください。よろしくお願いしますね。」


 と、丁寧に挨拶してくる。

 ムム、急にキャラ変したな。

 これも交渉人のスキルのなせる技だろうか?


「はじめまして、ケン君。僕は七条 拓、スキルはお手伝いだよ。

 僕の事も気軽にタクと呼んで欲しいな。よろしくね。」


 それにしても松戸 健か・・。

 元の世界の時代劇スターっぽい名前だな。

 もしかして暴れん坊だったりするのかな?

 でもスキルが文系だからそれはないか・・・。

 まあ、もしかしたらサンバは踊れるかもしれないが・・・


 と、バカなことを考えていたらケン君が話かけてきた。


「どうかされましたか?」


「いや、なんでもないよ。

 さっきのケン君の商談がやけに板についていたと思ってね。

 それにあの契約書をつくる魔法?スキル?がすごかったと思ってね。」


「はい、あれは契約魔法の1つですね。

 紙に契約条件を書いて魔力を込めることで、相手に契約の条件を守らせることができるんですよ。

 契約の条件というか、不履行の際のペナルティーが大きい程、高いレベルの契約魔法が必要みたいですけどね。

 僕はまだ見習いなので簡単な条件しか設定できないんですよ。」


「簡単な条件?」


「はい。さっきの件でいうと、「代金を支払ったら商品を持ち帰り可能。」といった感じでしょうか?」


「ああ、なるほど。

 例えば極端な例を言えば、「この仕事に失敗したら命をもって償え!」みたいな条件だと高いレベルの魔法が必要ということかな?」


「そんな感じですね。

 まあ、契約の内容なんて千差万別なんでケースバイケースみたいですよ。

 通常の商売では代金と商品との交換とか、販売手数料の設定とか、著作権の使用料の設定とかが多いみたいですね。


「おお、例えば僕の発明した商品があったとして、それを作って売るなら利益の10%いただきますよ、みたいな?」


「あ、まさにそれです。

 もし適正に履行しないと、売上の半分を罰金として頂きます、とかですね。

 大きな契約になると個人間ではなくて、商業ギルドに間に入ってもらって契約したりするそうです。

 そのほうが楽だし、安心ですからね。」


「確かに。素人には手はだせないよね。」


「あと、かわったところでは奴隷契約とかもあるようです。」


「おお、奴隷ね・・。」


「はい、奴隷契約は契約魔法の使い手しかできないようになってます。

 しかも国や領主の許可がないと営業できないみたいですよ。

 なかなか専門性が高いというか、限られた人しか参入できない業界みたいですね。」


「なるほどね・・・。

 あと、交渉術にはなにかコツがあるのかい?」


「うーん、僕の場合はもともとこんなキャラなんで、ほとんど素でやってるんですが、元の世界のドラマや映画なんかのセリフや立ち回りはこちらの世界では有効みたいですね。

 結構いい感じで商談できますよ。

 まあ、なりきりプレイですね。」


「なるほど、参考になったよ。ありがとう。

 ところで、この世界のお金のシステムについて教えて欲しいんだけど、誰かスタッフさんを紹介してうことはできるかな?」


「ああ、それでしたら僕が説明しますよ。

 僕も何日か前に教えてもらったところですから。

 事務所にお金のサンプルもありますしね。

 では事務所の商談室でお話しましょう。

 皆さん、こちらへどうぞ。」


 これまたご都合展開でケン君にお金のシステムを教えてもらえることになった。

 チャロンはともかく、僕達はこっちのお金は全く知らないからね。

 ちゃんと理解しておかないと、城の外で生きていけないからね。


 事務所の商談室に案内される。

 ちょっとした会議室のようなところだ。


 ケン君がお金のサンプルを持ってきて説明してくれる。


「まあ、皆さん、ゆっくり座ってお聞きください。

 とりあえず、これがこちらの世界のお金です。

 ちなみに硬貨のみですよ。」


 と、お盆のようなものの上に乗せられた硬貨を見せてくれる。

 見た限り、鉄、銅、銀、金の4種類の金属があるようだ。


「まず、こちらの世界のお金の単位は「エソ」といいます。」


 エソ!

 なんだそのエンとペソを足して2で割ったような名前は!

 きっと過去の勇者が悪ノリで付けたに違いない。


「ちなみに、この世界に通貨制度を広めたのは初代勇者のタケル様と言われています。」


 やはり!

 勇者タケルが悪ノリで付けた名前に違いない。

 まあ、某ギャンブル漫画に出てくる閉鎖空間専用の通貨の名前でなくて良かったが。


「硬貨の種類と価値は次のような関係です。」


 と、サンプルを見ながら説明してくれる。

 ケン君曰く、次のような関係とのこと。

 おまけで日本円との比較も物価ベースの相場観で教えてくれた。


・鉄貨:10エソ/枚 ⇒ 10円?

・銅貨:100エソ/枚 (銅貨1枚=鉄貨✕10枚 ⇒ 100円?

・大銅貨:1,000エソ/枚 (大銅貨1枚=銅貨10枚) ⇒ 1,000円?

・銀貨:10,000エソ/枚 (銀貨1枚=大銅貨10枚) ⇒ 10,000円?

・小金貨:100,000エソ/枚 (小金貨=銀貨10枚) ⇒ 100,000円?

・中金貨:500,000エソ/枚 (中金貨=小金貨5枚) ⇒ 500,000円?

・大金貨:1,000,000エソ/枚 (大金貨1枚=中金貨2枚=小金貨10枚)

     ⇒ 1,000,000円 


「街の物価の相場ですが、昼ご飯を街の食堂で食べると銅貨5枚〜大銅貨1枚(500円?〜1,000円?)くらいですね。

 意外に、王都の街中の物価は高くてビックリしました。

 食料については日本と変わらないくらいの値段ですね。」


「物価が高い理由は何かあるのかい?」


「基本的に、王都周辺では食料の生産はしていなくて、周辺の都市や農村から運んでくる分だけ高くなるみたいですよ。

 なので、騎士団が訓練で狩ってくる獲物の払い下げは喜ばれるようです。」


「なるほど。冒険者が狩ってくれたりはしないのかい?」


「王都周辺は物価が高くて暮らしにくいので、狩りが主体の冒険者は田舎や辺境に流れていくようです。

 王都に残るのは商隊護衛中心のD級以上、腕のよい狩人、薬草採取専門家、または街の雑用がメインの初心者だけのようですね。

 この街で冒険者で食っていくにはたいへんなようですよ。」


「うん、ありがとう。

 お金のことも街の仕事のことも良くわかったよ。

おかげで助かったよ。」


「どういたしまして。お安いご用です。

 レクチャーのお礼代わりといってはなんですが、1つお願いがありまして。」


「うん?なにかな?僕にできることならいいけれど。」


 ムム、さり気なく条件を出してきたぞ。

 さすが交渉人、侮れぬわ!


「いえいえ、大した話ではありません。

 聞くところによると、タク先輩は洋服のデザインがとてもお得意とのこと。

 つきましては私にも1着デザインしていただけないかな、と思いまして。

 できればちょっと和風な感じでお願いできませんか?」


「ふむ、ちょっと和風ね〜。

 ちょっと考えてみるから紙とペンを準備してもらえるかな?」


 と、ケン君に筆記用具の準備をお願いして、その間にデザインを考える・・。


 交渉人。今やってることは商談がメイン。

 要するに商人。商人の服でちょっと和風・・・、と言えばあれだな。


 僕はおもむろに思いついたデザインを紙に描き始める。


 うん、これだな。イメージは江戸時代の大店の番頭さん。

 ちょっと長めの法被に前掛けだね。

 法被の背中と、前掛けには家紋代わりの松の木の模様を大きく染め抜きで入れてと。

 色は無難に濃紺かな。

 前襟の部分には文字でも入れておこう。

 適当に「松戸屋」とでもしておくか。


 と、頭の中でいろいろイメージしながらサラサラと描いていく。

 お、いい感じでできたぞ。これでいいだろう。


「こんな感じでどうかな?法被と前掛け。

 ちょっと和風な感じにしてみたけどどうかな?

 中に着るシャツとズボンはこっちの世界のものと同じにしたよ。

 そのほうが後々着替えを入手しやすいだろうからね。」


「おお!いいですね!しかも「松戸屋」だなんて。

 こっちの世界で商売でもしたくなりますね。

 めざせ大店! 悪徳商人!」


「ははは、それもありかもね。君たち同級生の力を合わせれば成功するかもよ?

 でも悪徳商人だと功績に認められないかもしれないから、社会に貢献できる商いをしたほうがいいと思うよ。」


「ははは、ちょっと考えてみますよ。

 それはそうと、これはどうやったら発注できるんですか?」


「ああ、お城の服飾工房に行けば注文できるよ。

 そこで採寸も縫製もしてくれるんだ。

 この後で服飾工房に行くから一緒にいくかい?」


「是非お願いします。今日の仕事というか訓練はもう終わりなので。」


「じゃあ、一緒に行こう。みんなもいいかな?」


「はい!タクさん。」、「タク先輩の頼みなら仕方ないですね。」、「くノ一服早く見たい!」、「魔術士の服も!」


 と、女子チームが口々に答える。


 まあ、問題はなさそうだ。


「そうと決まったら、早速行こうか?」


 と皆で服飾工房に向かって歩き始める。


 また服飾工房の利用者を増やしてしまったよ・・・。

 そろそろチーフデザイナーにちょっとは自重しろと怒られるかな? 

最後までご覧頂きありがとうございました。


感想など頂けると励みになります。


引き続きよろしくお願いいたします。

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