第29話 乗馬とテイムを学ぼう。
新年明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
厩舎の前面の広い芝地には馬が5頭ほど自由に歩いていた。
「あら亜季じゃないの?ここに来るのは初めてじゃない?
あ、後ろのお2人はいろいろと目立ってるカップルですね。」
と、召喚勇者の1人のテイマー女子が話しかけてきた。
「はじめまして、かな? 僕は七条 拓です。
まあ、ここでは気楽にタクと呼んでください。
こちらは僕のお世話係り兼指導教官のチャロンさんです。」
と自己紹介とチャロンの紹介をする。
「はじめまして。私は印西 楓です。スキルはご存じのとおりテイマーです。
タク先輩とチャロンさん、よろしくお願いしますね。
私のことも気楽にカエデと呼んでください。」
「よろしくね楓ちゃん。」
「カエデさん、よろしくお願いします。」
「楓ちゃんはいつもここで訓練してるの?」
「そうなんですよ。
お城の中には飼われてる動物はお馬さんしかいないので、お馬さん相手にテイムの練習とか、乗馬の訓練をしてますよ。
テイムも乗馬も随分慣れてきましたよ。」
「へえ、テイムって具体的にどんな感じなの?」
「おおきく2種類あって、一つは心を通わせあって仲良くなる方法、もう一つはスキルの力で強制的に使役する感じですね。
前者は対象の動物と魔力のパスを繋ぐことで意志疎通がなんとなくできるようになりますね。
お願いするとちゃんと聞いてくれるようになります。
まあ、ペットとその飼い主の関係が強固になる感じですね。
この場合はテイムの関係が基本的に常時続きます。
また、関係が深くなると対象の動物と五感を共有できるようになりますね。
例えば視覚とか聴覚とか。」
「二つ目の強制的な使役は魔力を一気に流し込むことで対象の動物なんかを強制的に使役することができます。
対象に命令して無理矢理動かす感じですね。この場合も五感を共有できます。
ただし、強制的な使役は魔力を大量に消費するのでテイマーの負担も大きいのと、使役がとければ関係は終了します。
自分より強いというかレベルの高い生き物は強制的には使役できませんね。」
「なるほど、両方ともいろんな場面で役に立ちそうだね。
もう仲の良い動物はできたの?」
「ここのお馬さん達とはもう随分と仲良くなれましたけど、旅に連れていけるわけではないので、パートナーにはなっていないですね。
お城の外でいい子に出会ったらパートナーになってもらおうかと思ってますよ。」
「そうなんだ。それは楽しみだね。
野生の動物や魔物とかでもテイムできるの?」
「私のテイムのレベルを上げておくとできるみたいですね。
てゆうかできないと私はそれ以外に何もできないですからヤバイです。
強い子をパートナーにして守ってもらわないと。」
「そりゃそうだね。」
「ちょっとお馬さんに乗ってみますか?」
「是非お願いするよ。亜季ちゃんとチャロンと3人でいいかな?」
「いいですよ。じゃあちょっと呼びますね。」
と言って、楓ちゃんは芝地を自由に歩いている馬のうち3頭を呼び寄せる。
既に馬具はつけてくれているようだ。
他に乗馬の練習をしている人がいたのかな?
「この子達は賢くて優しい性格だから初めての人でもちゃんと言うこと聞いてくれますよ。
首をやさしくなでてから、よろしくねって言ってあげてからゆっくり乗ってください。」
と楓ちゃんが乗る前の作法を教えてくれる。
言われたとおりに「よろしくね」と首をなでながら声をかける。
ふと、楓ちゃんが言っていた一つ目の方法、魔力のパスを繋ぐイメージでも声をかけてみよう、と思い、暖かい魔力の糸が僕の手のひらからでている状態をイメージしてみる。
するとなんとなく馬から魔力の反射が返ってきたような感覚を手のひらに感じる。
「乗ってもいいかい?」
と手のひらから魔力のイメージを出しつつ聞いてみると、また魔力の反射を感じる。
これは肯定の返事なのだろうか?
「楓ちゃん、この子が何かいってるかどうかわかる?」
「そうですね、タク先輩の言ってることは理解できてるみたいですよ。
乗ってもOKって言ってますね。」
おお!、なんとなくだが意志疎通ができているのか?
僕は台を使ってゆっくりと馬の背中に乗ると、やさしく背中をなでながら、
「よろしくね!」とお願いする。
するとまたさっきと同じ魔力の反射を感じる。
OKてことかな?
「じゃあ、まっすぐゆっくりと歩いてみて。」
とお願いすると、馬はパカパカとゆっくり歩きはじめてくれた。
「一回止まってみて。」
とお願いすると、ゆっくり止まってくれる。
おお、何とか乗れそうな気がしてきたぞ。
ぼくは手綱をしっかり握って、太ももをちょっとだけ内側に閉めると、
「じゃあちょっと早めに歩いてみて。」
とお願いする。
馬はパカパカパカと小気味良いリズムで早足であるいてくれる。
芝地の外周の柵が近づいてきたので、
「左まわりにゆっくり走ってくれる?」
というと、パッカパッカと走ってくれる。
おお!すごい! 何だか8代目のワイルドな将軍になった気分だ!
すると目の前に高さ1m程の障害物が見えてきた。
どうやら馬術競技用の障害物のようだ。
「あれを飛び越えて!」
とお願いすると、馬は軽々と障害物をジャンプして飛び越えた。
おお! 馬上だと目線が高いのでかなり高く飛び上がった気がするぞ!
いい感じで慣れてきたので、もう2周ほど芝地を周回してから元の位置に戻った。
やさしく首をなでながら、
「ありがとう!また練習に付き合ってね。」
とお願いしたら暖かい魔力の反射を感じる。
最初より魔力の反射を強く繊細に感じるので、新たなスキルを習得したに違いない。
また夜に確認しよう。
そうこうしてるとチャロンも戻ってきた。
チャロンはもともと乗馬ができるらしく、全く問題なさそうに手綱を操っている。
獣人は動物とのコミュニケーションは得意なのかな?
後で聞いてみよう。
亜季ちゃんは楓ちゃんが手綱を引く馬に乗ってゆっくり歩いている。
まあ、最初はそれが普通だよね。
「タク先輩もチャロンさんも乗馬が上手ですね!
てゆうかタク先輩はおかしいです。乗馬は初めてだと言ってなかったですか?」
と楓ちゃんに驚かれる。
「そ、そうだね。楓ちゃんが教えてくれた仲良くなる方法をイメージして乗ってみたら馬が言うことを聞いてくれたみたい。
まあ、僕のスキルは他の人よりちょっとコツをつかむのが早いだけが取り柄だからね(汗)」
と言ってごまかす。さらに、
「チャロンはとても上手に乗ってたね。」
「はい。コヨーテ族は乗馬も大人になるまでに習うのですよ。
この世界では馬に乗れたほうが便利ですからね。」
と、さりげなく僕のスキルが話題にならないように話を合わせてくれる。
いい娘だ。
「それにしてもコツをつかむのが早すぎる気がしますが・・。
私とそんなに変わらないくらいでしたよ。
まあ、いいですけど。」
と何とかごまかせたようだ。よしよし。
「ふう、乗馬は初めてだったけど楽しかったです。
私も早くみんなみたいに上手く乗れるようになりたいな。
タク先輩、チャロンさん、また一緒に練習にきましょうね!」
どうやら亜季ちゃんも楽しんでくれたようだ。
「じゃあ、もうお昼だから食事に行こうか?」
と皆に声をかける。
「それじゃあ別館2階じゃなくて、私がいつも昼ご飯を食べてる屋外系スタッフ用の食堂に行きませんか?
体力系のお仕事のスタッフさん達用の食堂なので、ボリュームたっぷりですよ。
きっと今日も肉料理ですね。」
「お肉いいですね!タクさん、
今日はそちらの食堂でいただきましょう!」
とチャロンがジュルリと涎を滴しそうな顔で同意してくる。
さすが、肉食獣人である。肉料理への反応が早い。
「わ、わかったよ。亜季ちゃんもそれでいいかい?」
「もちろんです。いろんなところで食べてみたいですしね。」
「じゃあ、楓ちゃん。案内よろしくね。」
「はい!じゃあ行きましょう!」
と楓ちゃんが張り切って案内を開始したのでぞろぞろとついていく。
◇◆
楓ちゃんに案内されて到着した場所は食堂というより屋根のあるバーベキュー場といった感じだった。
まあ、屋外系の仕事をしている人にとってみれば、このほうが楽でいいよね。
「今日は、ヤキソバぽいのと串焼きですね!」
と、楓ちゃんが教えてくれる。
左側の調理コーナーではヤキソバっぽい麺を大きな鉄板で野菜や薄切りの肉と一緒にジュージュー炒めている。
濃厚なソースが焦げる匂いが食欲を誘う。
右側のコーナーでは鉄網の上で串にさされた肉が豪快に焼かれている。
ちなみに肉だけである。
肉と肉の間には野菜はない。そこにあるのは肉だけである。
チャロン曰く、
「暴れ黒牛と山賊猪とビッグバードの3種類の肉ですね。
肉の3強そろいぶみですね!」
とのこと。
ビッグバードは体高2mくらいある大きな飛べない鳥とのこと。
ダチョウみたいな感じかな?
皆で列にならんで焼きそばと串焼きをお皿に受け取り、近くのテーブルに座る。
因みにテーブルはいわゆるDIYで作ったようなワイルドなウッドテーブルだ。
椅子にいたっては半割りにした丸太だしね。
「「「「いただきまーす!」」」」
と、皆でいただきますをしてから食べはじめる。
ちなみにチャロンにもいただきますの意味は教えてある。
「うん、美味しいね!」「はい!」「ですね!」「でしょ?」
と皆でモゴモゴいいながら美味しくいただく。
やっぱり野外でワイルドに頂く食事は美味しいね!
周りを見れば騎士団や庭師的な感じのスタッフ達もモリモリ食べている。
チャロンと楓ちゃんは早速おかわりをもらいに行ってしまった。
楓ちゃんは小柄なのに大食漢のようだ。
テイマーも動物のお世話があるから意外と重労働なのかもね。
「ふう、いっぱい食べたね。満足満足。」
「はい!美味しかったです!
チャロンは大満足のようである。
「タク先輩は昼から何の訓練をしますか?」
と亜季ちゃんに聞かれたので、
「そうだね。昼を食べすぎたので午後一番は道具を作ってる工房にでも行きたいな。
旅に必要なキャンプ道具とかを見てみたいんだよね。
それが終わったらちょっと弓の練習をして、今朝頼んだ亜季ちゃんの戦闘服を受け取りに服飾工房に行ってから夕食の流れかな?」
「わかりました!では魔道具工房に案内しますね。」
「おお、魔道具ってあるの?」
「はい、と言いますか、普段部屋で使っている照明やお風呂の蛇口なんかもみな魔道具ですよ。」
「そうだったの? 全く気づかずに使ってたよ。
そう言われてみればこっちの世界の道具の原理をあまり気にしてなかったな?」
「もう、タク先輩は周りを気にしなさすぎですよ。
だから毎晩毎晩防音を忘れちゃうんですよ。」
と、亜季ちゃんに意外なところで突っ込まれる。
事実だけに言い返せないのがつらい(汗)。
「まあ簡単にいうと、魔法を道具に付与するって感じみたいですね。
付与魔法というのがあって、それで特定の魔法を道具で発動できるようにするんです。
たとえば、水道の蛇口は蛇口の形をした道具に「放水」の魔法が付与されているんですよ。」
「なるほど。」
「細かい説明は、工房のスタッフが教えてくれますから、早速行ってみましょう。」
「うん、亜季ちゃんと楓ちゃんはどうする?」
「私も一緒に行きます。狩りに役立つ道具があるかもしれませんしね。
野営用の道具とかですね。」
亜季ちゃんは午後も一緒に行動するようだ。
「私は厩舎に戻りますね。お馬さん達のお世話もあるので。
あ、でも、亜季ちゃんが頼んだ戦闘服には興味があるので、服飾工房には一緒に行きたいです。」
と楓ちゃん。
「じゃあ、夕食前に服飾工房前に集合しよう。
場所はお城のスタッフさんに聞けば教えてくれるから一人でも行けるよ。」
「はい、わかりました。ではまた夕食前に服飾工房で!」
そういうと、楓ちゃんは厩舎に戻っていった。
じゃあ、僕たちも午後の活動を開始しますかね。
旅立ちに向けて早く準備を整えないとね!
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