第二閑話 「ミミの名字は」
予想より早く来た第二閑話。これからも閑話は、気まぐれかつ唐突に来ます。
「海行くんだろ。早く水着回を見せろ」? 分かってますよ。俺だって女子達の水着姿の描写したいですよ。クロムの貧乳について書き連ねたいですよ。
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ミミは騒ぐのが好きではない。大勢でなら、なおさらだ。
そんなミミでも、クロム隊のパーティーは楽しめた。いつもお世話になっている皆と共に、テンションを上げて飲み食いする時間。ルクトシンでの任務は易しいものではなかったが、あの時の疲れも吹っ飛ぶ勢いだ。
「ミミさぁん。ミミさんも飲みましょうよぉ」
酔っ払って乱れた様子のユリーナが、ミミに絡んで来た。ミミはジュースをちびちび飲みながら答えた。
「わたしは15歳なので飲めませんよ」
ユリーナは「あー、そーでしたー」と言って顔をニヤけさせた。
ユリーナ・アイルス。
ルクトシンでの任務の前にクロム隊に入った、新人隊員だ。ミミはパーティーのご馳走に手を付けながら、ユリーナと会った頃を思い出していた。
思えば、ミミは最初、ユリーナが嫌いだった。いや、嫌いというより苦手だった。
これ見よがしにクロムにベタつき、愛の言葉を囁くユリーナ。クロムはそれを受け流しているが、嫌がる様子は見せない。
会って間もないはずのクロムに対して、異常なまでに接するユリーナが苦手だった。距離が近すぎる。
何か下心があるのでは、とミミは疑った。うちの隊長に取り入って、何か企んでるのでは、と。しかしそんな風には見えなかった。ただ単純に、クロムが好きだからベタついているように見えた。
だからこそ、ミミは不可解に感じた。何故。何故、クロムをそんなに愛せるのか。長年の付き合いでもないし、家族でもない人間に対して、何故そんなに好きだと言えるのか。不思議だった。ミミの常識の中では、あり得ない光景だった。
そして、任務の時。ミミはユリーナと共に、ブラッドドラゴンのキューを守った。
ユリーナは弱くて無力だから、わたしがしっかりしないと。ミミはそう思っていた。
しかし、毒薬が無効化され困窮していたミミの目に映っていたのは、勇ましく戦うユリーナの姿。大活躍とまではいかなくとも、ユリーナの一撃はキューの助けになったのだ。
「………………っ!」
その時、ミミは息を飲んだ。そして、気付いたのだ。
わたしは、ユリーナを偏見の目で見ていた。
弱いと決め付けて。何も出来ないと決め付けて。
ユリーナに偏見を持っていたのだ。自分だって弱いくせに。
『偏見』という言葉は、ミミの心の奥底の芯とも言える場所を深く突いた。
ミミは『偏見』や『差別』が大嫌いだ。それはもう、憎んでいると言ってもいい程大嫌いだ。なのに、ミミは偏見を持ってしまった。
わたしは、あの連中と同じじゃないか。
ミミの忌々しい記憶の中にある、あの目。あの声。あの痛み。思い出したくない記憶が、ミミを責め立てているようだった。
ユリーナに、申し訳なく思った。
ラトニアに帰還してからのパーティーで、ユリーナはミミに接してくれた。酔っ払っていたけれど、好意的な口調が嬉しかった。
「……ごめんなさい」
ミミは食べる手を止め、ユリーナに謝った。
「んー? 何で謝るんですかぁ?」
「わたし、ユリーナさんに偏見を……。ユリーナさんが弱いって決め付けて……。ごめんなさい」
ユリーナはミミの言葉に顔を傾け、不思議そうに答えた。
「何のことか分かんないけど、別にいーですよぉ」
「わたし……ユリーナさんに失礼なこと考えちゃったんです……」
『偏見を抱いた』という事実が、大きな強迫観念となってミミの自我を襲った。
謝らないと。謝らないと。謝らないと。
ミミは、過去の記憶に指を差されているように感じた。
ユリーナは至極明るく笑っていた。
「そうなんですかぁ? でも別に気にしませんよ。そんなことでミミさんを嫌いになったりしませんし」
その優しい声は、ミミが作り上げた『後ろ指』を、いとも簡単に破壊した。
「……え?」
ミミは驚いて、思わず声が漏れた。
「だから、気にしませんって。何であれ、ミミさんはミミさんじゃないですか」
ミミがずっと求めてきた言葉だった。ずっと、そのままの自分を見つめて欲しかったのだ。
『わたしは……わたし』……。
レッテルを貼らず、歪んだ価値観を押し付けず、ひたすらに自分を認めてくれた。
ユリーナと目が合って、涙がこぼれてしまった。嬉し涙だ。
この人にも、教えていいかもしれない。教えたい。
知ることで嫌われるかもしれないが、ミミはユリーナを信じたかった。
「ど、どうしたんですか、ミミさん?」
ミミの涙に驚いたユリーナが、酔いを感じない声で尋ねた。
「……チプルです」
「えっ?」
予想と違った返答に、ユリーナは戸惑った。ミミは笑顔を作って、言った。
「ミミ・チプルです。わたしのフルネーム」
ユリーナは一瞬ぽかんとした後、大きく笑った。
「アハハハハハハッ!」
楽しげな笑顔に、今度はミミがぽかんとする。
「かわいい名字! チプルちゃんですか!」
ユリーナは笑いを収めた後、嬉しそうに言った。
「教えてくれてありがとう、ミミさん」
「……ミミでいい。それから、敬語もやめま……やめよ? ね、ユリーナ」
ユリーナは頷いて返事をした。
「うん! ミミ!」
ミミには、今がある。優しい人々に囲まれた今が。
ミミは、新しい友達と一緒に幸せを噛み締めた。
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