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絶え損ないの人類共  作者: くまけん
第一章 チェルド大陸編
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  第二閑話 「ミミの名字は」

予想より早く来た第二閑話。これからも閑話は、気まぐれかつ唐突に来ます。

「海行くんだろ。早く水着回を見せろ」? 分かってますよ。俺だって女子達の水着姿の描写したいですよ。クロムの貧乳について書き連ねたいですよ。


 +++++++++++++++++++++++++++++++++++


 ミミは騒ぐのが好きではない。大勢でなら、なおさらだ。

 そんなミミでも、クロム隊のパーティーは楽しめた。いつもお世話になっている皆と共に、テンションを上げて飲み食いする時間。ルクトシンでの任務は易しいものではなかったが、あの時の疲れも吹っ飛ぶ勢いだ。

「ミミさぁん。ミミさんも飲みましょうよぉ」

 酔っ払って乱れた様子のユリーナが、ミミに絡んで来た。ミミはジュースをちびちび飲みながら答えた。

「わたしは15歳なので飲めませんよ」

 ユリーナは「あー、そーでしたー」と言って顔をニヤけさせた。


 ユリーナ・アイルス。

 ルクトシンでの任務の前にクロム隊に入った、新人隊員だ。ミミはパーティーのご馳走に手を付けながら、ユリーナと会った頃を思い出していた。

 思えば、ミミは最初、ユリーナが嫌いだった。いや、嫌いというより苦手だった。

 これ見よがしにクロムにベタつき、愛の言葉を囁くユリーナ。クロムはそれを受け流しているが、嫌がる様子は見せない。

 会って間もないはずのクロムに対して、異常なまでに接するユリーナが苦手だった。距離が近すぎる。

 何か下心があるのでは、とミミは疑った。うちの隊長に取り入って、何か企んでるのでは、と。しかしそんな風には見えなかった。ただ単純に、クロムが好きだからベタついているように見えた。

 だからこそ、ミミは不可解に感じた。何故。何故、クロムをそんなに愛せるのか。長年の付き合いでもないし、家族でもない人間に対して、何故そんなに好きだと言えるのか。不思議だった。ミミの常識の中では、あり得ない光景だった。


 そして、任務の時。ミミはユリーナと共に、ブラッドドラゴンのキューを守った。

 ユリーナは弱くて無力だから、わたしがしっかりしないと。ミミはそう思っていた。

 しかし、毒薬が無効化され困窮していたミミの目に映っていたのは、勇ましく戦うユリーナの姿。大活躍とまではいかなくとも、ユリーナの一撃はキューの助けになったのだ。

「………………っ!」

 その時、ミミは息を飲んだ。そして、気付いたのだ。


 わたしは、ユリーナを偏見の目で見ていた。


 弱いと決め付けて。何も出来ないと決め付けて。

 ユリーナに偏見を持っていたのだ。自分だって弱いくせに。

 『偏見』という言葉は、ミミの心の奥底の芯とも言える場所を深く突いた。

 ミミは『偏見』や『差別』が大嫌いだ。それはもう、憎んでいると言ってもいい程大嫌いだ。なのに、ミミは偏見を持ってしまった。


 わたしは、あの連中と同じじゃないか。


 ミミの忌々しい記憶の中にある、あの目。あの声。あの痛み。思い出したくない記憶が、ミミを責め立てているようだった。

 ユリーナに、申し訳なく思った。


 ラトニアに帰還してからのパーティーで、ユリーナはミミに接してくれた。酔っ払っていたけれど、好意的な口調が嬉しかった。

「……ごめんなさい」

 ミミは食べる手を止め、ユリーナに謝った。

「んー? 何で謝るんですかぁ?」

「わたし、ユリーナさんに偏見を……。ユリーナさんが弱いって決め付けて……。ごめんなさい」

 ユリーナはミミの言葉に顔を傾け、不思議そうに答えた。

「何のことか分かんないけど、別にいーですよぉ」

「わたし……ユリーナさんに失礼なこと考えちゃったんです……」

 『偏見を抱いた』という事実が、大きな強迫観念となってミミの自我を襲った。

 謝らないと。謝らないと。謝らないと。

 ミミは、過去の記憶に指を差されているように感じた。


 ユリーナは至極明るく笑っていた。

「そうなんですかぁ? でも別に気にしませんよ。そんなことでミミさんを嫌いになったりしませんし」

 その優しい声は、ミミが作り上げた『後ろ指』を、いとも簡単に破壊した。

「……え?」

 ミミは驚いて、思わず声が漏れた。

「だから、気にしませんって。何であれ、ミミさんはミミさんじゃないですか」

 ミミがずっと求めてきた言葉だった。ずっと、そのままの自分を見つめて欲しかったのだ。


 『わたしは……わたし』……。


 レッテルを貼らず、歪んだ価値観を押し付けず、ひたすらに自分を認めてくれた。

 ユリーナと目が合って、涙がこぼれてしまった。嬉し涙だ。


 この人にも、教えていいかもしれない。教えたい。

 知ることで嫌われるかもしれないが、ミミはユリーナを信じたかった。

「ど、どうしたんですか、ミミさん?」

 ミミの涙に驚いたユリーナが、酔いを感じない声で尋ねた。

「……チプルです」

「えっ?」

 予想と違った返答に、ユリーナは戸惑った。ミミは笑顔を作って、言った。

「ミミ・チプルです。わたしのフルネーム」

 ユリーナは一瞬ぽかんとした後、大きく笑った。

「アハハハハハハッ!」

 楽しげな笑顔に、今度はミミがぽかんとする。

「かわいい名字! チプルちゃんですか!」

 ユリーナは笑いを収めた後、嬉しそうに言った。

「教えてくれてありがとう、ミミさん」

「……ミミでいい。それから、敬語もやめま……やめよ? ね、ユリーナ」

 ユリーナは頷いて返事をした。

「うん! ミミ!」


 ミミには、今がある。優しい人々に囲まれた今が。

 ミミは、新しい友達と一緒に幸せを噛み締めた。


 +++++++++++++++++++++++++++++++++++


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